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魔力生物と一途なオモイ

 温泉地に至る道はなぜか灰と砕けた炭の塊がじゃくじゃくに撒かれていた。

 鈍い黄色がかった層を指差して雪男(コウセツ)が説明してくれる。


「アレが世界を揺らし動かす魔力鉱『基礎流石』。一ヶ所に留まればいずれ暴発し、世界を原初に還すと言われてる。迷い客や召喚された者は時折りこれを『オリハルコン』と呼称するらしいよ。ちなみに加工練習用に使う素材だから吊り橋守りに売った鍋包丁類の原料だな」


 いくらでも採掘でき、設備さえあれば最も手軽い素材だとか。弱点は固定化させると分解が難しいこと。地震の規模が大きくなると時に分解されやすさが重要視されるらしい。

「下手に基礎が無事なために高低差に転がり落ちて被害を拡げる記述が多いからですね」と言ったのはピヨット君だ。


「すとんと海底や地底に街ごと落ちたのならその強度でもいいんですけどね」と続けられてあまりの口調の軽さに心のどこかが戸惑う。

 地底や海底に落ちようものなら生きてはいけない。こういう会話がこの世界の命の軽さだろうか?


「命は散って蓄積沈殿してこの星を巡るんだ」


 おっさんが言いそうにないことを言う。

 もしや、ニセモノ?


「生命が持つ魔力が結局循環しているつうだけだな。俺様とかはその魔力が(こご)って生じた魔力生物と呼ばれている種族さ。世界に循環している魔力は膨大で、凝ったと言っても全体のごく僅か。カケラにでも手が届けと己が道をいくのさ」


 ちょっとかっこいいことを言ってる気がする。種族の特性として訓練馬鹿なのだとピヨット君が解説を入れてきた。安定のがっかりな残念臭がまとわりつく。


「同期の兄弟の中には小鳥(コマドリ)になるって目指したやつとか、『俺は翼猫(ウィングキャット)として生きる』と言っては兄弟の縁が遠くなったもんさ。まだ海竜になるってなりきりにはしったやつの方がマシだね」


 お、己が道って種族の壁は?

 それぞれの選ぶ道筋がナナメな気がするけど、それはそれで問題ないんだ?

 外装を整え、その種族の習性をひたすらなぞるんだそうだ。種族の寿命分を三周くらいすれば同族だと勘違いを引き起こして馴染んでいけるんだとか。うん。気になっているポイントはそこじゃない。


「いろんな種族があるがヒトは最も馴染みやすいな。多少違っても惰性で受け入れやすい。同時に同族ですら簡単に裏切る。だから、潜り込みやすい。ヒトはおもしろい」

「めんどくさくて怖いと思うんだけどなぁ。受け入れられたと思ったら裏切られるんだろう? 助けたとしても恩を仇で返されるとかありふれてるし」


 ニヤニヤしてるおっさんに意外に気弱いことを言う雪男。


「風の。は人だぞ?」

「魔王様はおれらを裏切らない。おれらを切り捨てたとしてもそこには必ず理由がある!」


 雪男の力説にピヨット君も追従している。


「それに魔王様はヒトと言っても魔王様ですから」


 それが信を置くすべての理由とばかりに言い放つ。リア充上司様は意外に信任厚いのである。

 そんなとりとめのない無為な雑談をしているうちにやたらと狭い道へと促された。

 おっさんが余裕で通れるから狭くないと思うのになぜか狭く感じる道だ。


「歩幅と腕力かな」


 よく見るとおっさんは時々腕の力で登っていた。ピヨット君なぞは時々飛んでいた。ズルい。


 たどりついた温泉と鍛治場。枝葉が大量に残った横倒しの樹々に囲まれた広場にちょっと立派な木造建築。おっさんがやり過ぎたと知れる。そしてそれを見ていつものことだと思ってしまう。

 ヴィガ達やガドヴィンのオジさま方がいそいそと立ち働いている。ぐるぐると昇降機が土や鉱石を下から上へと運搬している。つまりあそこには大きな縦穴があるのだと思う。

 大量の木切れと大量のマシュポゥが火にくべられ大量の灰が生産され、それをヴィガ達が昇降機で運んだり、どこかに持って行ったりしている。

 聞くと鉱石を採掘した後やいろいろな場所に肥料的に撒き散らすらしい。


「かくはんじゃあ! 混ぜが足らんぞぉ」


 ガドヴィンのオジさま方の大きな声。金属を打つ音や昇降機の滑車が回る音は他の音を打ち消すほどに騒がしい。

 ああ、そんなことに感動するのは後にさせて。

 今は温泉なの!


 だって、疲れた!


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