サビ猫ちゃんといまとこれから
ダンマスちゃんたちを受け入れてから七日目くらいで魔力供給方法や情報共有が落ち着いた。
おっさんはどうも微妙な表情をしていたけれど、魔力を過剰摂取された時以外は何かを言ってくることもなかった。
アカツキドリも最初の雛が卵からもうじき孵化するという話も聞いた。
クイック・クックからは水源地帯での生態系報告を受けてる。藻の種類とか言われてもよくわからない。
「これがあると料理の味が広がるから。水質で味が変わる部分もあるし、研究中で」
クイック・クックは説明しようとしてくれるが、うん。よくわからない。わからない顔をしていてもとりあえずは聞いとけと説明をやめることはない。
これはきっとうまく回ってるんだと思う。私に不備は多いけれど、なんとか回ってるって思えてる。
言い聞かすように思考する。他人は怖いという意識を追い払うために。
「きっちり資料には目を通す!」積み上げられる書類束。紙は貴重品だって聞いたよ!?
「訓練の比重上げとくか。魔力向上は体力からだぞ」おっさんの訓練は現段階ですでに過酷すぎですよ!?
「栄養バランスと味は大事。味見よろしく」二割のハズレが恐怖体験。
そして、袖をつかんでいるマグロちゃん。もふもふはぴねすが遠いんですけど!?
「お忙しそうですね」
苦笑いの響きを持つ声の主は二足歩行行商サビ猫サンマリャート。サビ猫ちゃんだぁあああああ!
ふわもふ超癒し。
「お客さん、お客さん落ち着いて! お触り料いただきますよ!」
「え。いくらでどこまで!?」
調子にのるな。とおっさんによって引き離された。くぅ!
ピヨット君がケットシー商会は基本ボッタクれるところからはぼったくるのでやめてくださいと懇願された。本を買う予算が減るだとかで。私欲かよ。
サビ猫ちゃんとこの買い物は無謀な物を欲しがらない限り予算潤沢。運営回ってる?
「新しいカタログですよ!」
爽やかサビ猫ちゃんが、ガチ鬼畜小悪魔だった件。
新しいブラッシングブラシ。数千万の値段のついた高機能炉。真空槽に冷却槽。素材インゴットの箱売り。おしゃれルームバスセット。巨大もふもふ洗浄キットとか。
欲しい。
ファンシーなバスルームに恥ずかしそうなマグロちゃんとか萌える。とても萌える。視線を向けるとニコッと笑てくれて邪な妄想にスピードがのる。
もふもふ洗浄キットで小麦ちゃんたちをふわふわ洗いとか至福じゃないかと。
ちらっとピヨット君を見ると渋い表情。
「高機能炉は気になりますが、高いですね」
視線が魔術本のページタグを彷徨ってるのは見ないふりしとく?
「良いモノをご用意してますから」
澄ましてサビ猫ちゃんはおススメですと言い切る。
確かに初動時にどこまで準備出来てるかは本当に大事だとは思ってる。予算が許すならいいもので生存率を上げていきたい。
モノがあっても使いこなせるようになるには時間がかかるから。それは物も使うものも同じ。
努力にかけられる時間は等しく流れてる。だから、早く得ることは大事だと思う。
「おしゃれルームバスが欲しいなぁ」
ってもらしたらおっさんとピヨット君に「なんでそれ!?」とハモられて却下された。
どーして!?
モチベーション上げって大切でしょ?
まず、不用品を売って欲しいものを厳選する。住んでいる住人が増えたと言っても食材収集人員も増えたので食材の備蓄は増える一方なのだ。あと、鉱石やら輝石、魔石も採集出来るようになったものだから売り物は増えたと言える。
「こちらのページには器具が載せてありますよ」
視線を落とせば、研磨機や研磨剤、ペンチのようなものと得体の知れないイラストとルームバスより遥かに安い金額が。
「あ、いいんじゃない?」
反対されたんだけど、いい道具を使って気持ちよく腕をあげるって大事だと思うんだよね。
ガドヴィンのオジサマ方に渡せばいい使い方を見せてくれそうだから有益だと思うのに。
不満そうだった私に「予算オーバーです」とピヨット君が突きつけてきた。ルームバスより安いといっても十分に高級なセットで手の出ないランクだったらしい。
炉はしばらくはおっさんのお手製で我慢して、道具はガドヴィンのオジサマ方と赤い雪男の持ち込みで過ごしてもらうことになりそうだった。
予算ないって世知辛いとも思うけれど、大金を使うんじゃなければ、予算配分で悩めるって贅沢だなぁと思える。
だって、着替えにも明日の食事にも今の私は困っていないのだから。
この状況の維持向上にはきっと、もっと努力が必要だ。
だって、敵は、この環境を壊しにくる存在は必ず来るのだから。
ここは私の居場所。
特にロリコン勇者がくればその被害は考えたくない。