北の姫と交渉
レタス君の二カ月研修と交換でアカツキドリの番いを三組譲って貰った。
ちなみに番いの組み合わせはオス一匹にメス三匹のプチハーレムである。
アカツキドリは飼育小屋で見ていたニワトリを思い出させる。そして大中小とサイズがあった。大はいわゆるダチョウとかそのくらいに大きい。中はそれよりは小さいが、脅威を感じる程度に大きい。小でようやく馴染みあるサイズだ。
彼らから、タマゴを回収できるのだろうか?
たまごには期待しかないのだけど。
リア充上司様からはポルトガッシュをひと株もらった。一匹とか、一頭とか言ったら「ひと株」と重々しく訂正されたのだ。
紫紺の魔王様に野菜系貰えればよかったけど、普通に栽培すると変質してしまうからと持ち出し禁止だったのだ。(リア充上司様は「ケチ」と言って軽やかな脅しをもらっていた)
その変質の結果がきっとポルトガッシュなのだろうなぁと思う。
魔力がどうのと言われてもイマイチ理解が追いつかない。
「ポルトガッシュひと株。アカツキドリオス三羽。メス九羽ですわ。環境変化による種の変動を見たいので時々様子を見に来ますわね」
にこりと北の姫が笑顔を浮かべる。(ナゼ、彼女がじきじきに配達に来たのか焦ったが、リア充上司様も部下も結局のところごく自由な気風なのだと自分を納得させた)
大中小の鳥たちは大人しく待機中。
繋がれもしない鳥たちに囲まれ、彼女は優雅だ。
微笑んで「いい子にしてね」と一羽一羽アカツキドリの名を呼んでやっている。
船でも思ったけれど、おしゃれな格好をしてると思う。贅沢に使われた布のワンピース。その上に同色のレース編みのロングコート。ボタンはキラキラした貝殻細工。聞けば汚れてもいい移動着だとか。なにか少しイラっとした。
「アカツキドリのごはんはワームや雑穀。雑食だけどあんまりお肉は食べないの。割ってあればブリュガノーも食べるけれど、あまり硬質の外殻は苦手みたいで。ポルトガッシュは雑食だからアカツキドリが増えるまでは、いいえ。増やしたい生物を捕食されないようにしばらくはわけて様子を見た方が良いの」
やわらかな声で育成説明。
聞いているのはクイック・クックとピヨット君。んで私。
もちろん決めるのは私。
「ここの下の花園で様子を見てから決めます」
下の花園はマクベアーとピンクちゃんのいるプティパちゃんの花園だ。
今のところ一番安全なはず。
ポルトガッシュはプティパちゃんに管理が頼めるか確認して、花園内をおっさんにちょっと区画分け依頼してもらい当座の生活圏が被りにくいように仕切る。お世話に関してはヴィガ隊にお手伝いに回ってもらう計画で大丈夫かはあとで確認。
この花園は野ねずみもノンカンさんの子供たちもワームも毒がえるもいる。もちろん、他のも引き込んである。
もし、はじまりの迷宮を全滅させられたとしても交代要員はいるように。
すべての戦力が枯渇する状況は望ましくないし。
だから、まずはここに導入するであってるはず。
増えてから徐々に生息環境を選べばいい。
「それで対価なんですけど」
なにを支払えばいいんだろうか?
「あのね。二カ月くらい彼を貸してくれるかしら。大事なことなの」
その彼と言うのがレタス君だった。
北の姫にはレタス君の種族だと思われる知り合いがいたらしく種族文化継承をさせたいという希望だった。
それ、対価上乗せでこっちが頼むことじゃないだろうか?
「こちらからの要望ですもの」そう言って北の姫は笑っていた。
その後もアカツキドリの飼育についていろいろと教えてもらった。
「説得はお願いしますね」
あらためて説得をすると考えるとあっちこっちいる場所が変わるのは不安を増させるかとハラハラしたけれど、説明の中で二カ月で戻ってこれると確認したレタス君は怯えつつもしっかりと頷いたので揉めはしなかった。
「種族の持つ特性も伝達継承されなければ廃れていく。技術もそうだな。遺跡に残る解明不可能な技術とかは伝達されなかったから廃れたんだし。伝承した者がそれを他に伝えなければ再発見されるまで消えてるからな。種族の伝承技術が受け継げるなら幸運だろうな。食肉扱いで飼われているより」
「レタス君を飼ってるだなんて思ってないから!?」
「小娘は食に抵抗を持ちすぎだろ。虫は苦手、カエルも姿を見ちゃうとこわい。そのクセ慣れると気にしないよなぁ」
おっさんが呆れたように頷いていた。
異世界食材はいつだって驚きなんだから仕方ないじゃない。
「あの、あの。りょうしゅ様。がんばってきます。かえってきてもいいですか?」
レタス君のつぶらな眼差しに撃ち抜かれた。
「異世界食材は驚きの宝庫ですよね。魔王様もじゃがいもが動く魔獣化した時に『こんな植物が跋扈する世界すげぇ!』と、たいそうワクワクなさったそうですの。私のいた世界ではこんな植物は跋扈してませんでした。過去と未来はわかりませんけど。しかも三個で九八円。古いウェブ広告でよく見る低価格帯ですのにね」
貴女の世界では?
とばかりに覗き込まれても私も、そんな世界は少し嫌ですとしか。
値段については新聞折り込み広告での広告価格だと思いました。北の姫様。