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クイック・クックと予定表

「個人が兼任し過ぎてる。人手が足りてない」



 月はじめの報告会。

 色々産物納めたり、売買処理したり、魔法適性を確認した上で参考書を渡されたり訓練でぶっ飛ばされたりした後にクイック・クックと雑談時間をとっていた。


「えー。人手は増えたんだよ?」

「アンタの手間も増えてる」


 それはそうだけど。


「それ以上にしてもらってることも多いんだよ」


 それを思えば最初がどれほどできていなかったのかと情け無くなる。

 そりゃ呆れられるよね。

 誰かにしてもらうことが増えたのにまだ手いっぱいでいたらない自分が一人前になるのはいつなんだろう?


「あいもかわらずイラつく性根」


 傷つかないわけでもないんだけど、クイック・クックはたぶん心配してくれている。

 イラつく。マトモに対応しない相手にマトモに対応する気はない。というあり方は、真面目にちゃんと接すれば応えてくれるということで、やっぱり手を差し伸べてくれている姿に応えたくなる。


「ありがと」


 なんだか照れくさくてお礼を言ってみた。


「はぁあ?」


 あきれたと言わんばかりに睨まれた。


「心配してくれて」


 うん。

 心配してくれてるって感じを受けるのって気持ちイイ。

 わかりやすいタイプじゃないけど、ちょっとひねくれてると思えばクイック・クックは可愛いと思う。

 リア充上司様の部下は自分勝手自由気ままだけど、基本的に仲間内には優しい。きっと、まだまだ私の誰かを信じる力は誰かの信頼信用を勝ち取れるほどじゃない。努力もきっと足りてない。

 それでも、あがきを見守ってもらえてる。


「……心配してるんじゃなくてうざったくて目ざわりなだけ。少しはマシになったけど、うざったいのには変わらないし。ただ、利用価値は出てきたのは確かだけど」


 そんなクイック・クックの言葉が嬉しい照れ隠しに聞こえるしあわせ。

 ヒトは信じられない。

 でも、ここにいるのは同じヒトではない。

 異世界で未知の思考回路と判断基準を持つヒト達。

 利用価値を示せれば、彼らは私を必要としてくれる。

 それは、とてもわかりやすい。

 私が所属していたコミュニティとはまるで違う世界。

 利用価値を示すことができれば認められるのは一緒かもしれない。みているヒトにもよるのかもしれない。


「クイック・クック。良ければ私の所に来て助言してくれない? ピヨット君はそういう助言苦手みたいだから」


 疑わしげな眼差しが私をつらぬく。


「素材使い放題くらいのメリットしかないけどね」


 大地蜂の蜜とかも増えてるし、マツカの実もあるしどうだ!?


「試してあげてもいいわ」




 大きな滝が深い谷底に落ちて渓谷を流れていく。

 吊り橋はその渓谷にかかっているのである。

 どうせならとクイック・クックは居住区に地底湖を希望してきた。


「流れを遡って外に出てくるのとかいない?」

「蜘蛛夫人にも防衛相談はするし、来れるヒトは限られるから、罠も張れるかな」


 にんまりとクイック・クックは笑う。


「あと、微妙に流れてくる温水は別に流れるように調整して欲しいから、依頼出しておいてね」


 あとで渡された書類によると防衛に子蜘蛛隊。ブリュガノー(知能の低い節足生物)数種類の肉食魚と肉食植物を配備したらしい。


「肉食魚とかの主食は?」


 野ねずみたち? と聞けば、「渓谷で一日二匹も魚獲ってくれば当分回せる!」と答えが返ってきた。ワームでもいいことはいいらしい。


「調理に使った食材屑は現在カエル沼に投棄してるけど、生活人員が増えてくる以上そのまま続けるのはどうかと思うし、一部地底湖の餌に回していいね?」


 一箇所に高魔素が偏るのもよくないと言われたけれど、よくわからない。


「ま、厨房と水脈生物はワタシが管理するから任せて」


 え?


「もちろん、なにか料理を作ってみたいときはいつでもいいと思うけど? ちびっこたちは雑用要員だから手伝ってもらうし」


 クイック・クックはテキパキと説明していく。

 続けて格子状に模様のある看板を示す。


『クイック・クック』

『マグロ』

『レタス』

『ピヨット』


 そんな名札がついている。

「一日の予定表な」そう言いながら自分の名前の横に『料理』という札を置き、マグロちゃんの所に『事務』レタスくんのところには『掃除』ピヨット君のところには『見回り』

「で、ちびっこたちにはこの『自由』時間の札も」自分のところには『採集』名前の横には用件の札が三枚置けるようになっているらしかった。

 つまりピヨット君の横には『見回り』『事務』『訓練』と並んでいる。マグロちゃんとレタスくんは『自由』の横に置く札に悩んでいるのか用事の書いてある札をいろいろと見ていた。


「レタスは『勉強』文字を覚えていこう。マグロは『料理』を手伝って」


 それぞれがなにをしているかわかってる方が気分がいいと言うクイック・クックに同意する。

「領主は総合管理職だし、勉強訓練事務で終わるでしょ」と言われて反論できない。


「あと数人意思疎通可能な人員増強する方がいいかな。根本的に戦力不足だからそこもなんとかできる相手をこれから二カ月か半年の間に引き込まないと先々が大変かな。侵入者も慣れて強くなっていくから」


 クイック・クックが食材在庫メモを机に置いて息を吐いた。


「もちろん、決めるのはアンタだけどね」


 メタリックシルバーの目がじっと私を見ていた。


「資料見せてもらったけど、鉱山もあるし、鍛冶職人に工房作らせてもいいかもね。ガドウィンの集落は客分みたいなものだし、アレは時期によって人員が入れ替わるからアテにならないけど、師匠付き工房にはなるから見習い呼ぶなら今が最適かな。食材あるし」


 クイック・クックの温情により求人手配をしてもらいました。

 誘って良かった。


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