ポルトガッシュとリア充上司様
「コレがポルトガッシュだ!」
リア充上司様が本拠地の牧場でドヤ顔してた。
背後には緑の羊。
もこもこっとした羊がリア充上司様にすり寄ってきて、リア充上司様を静かにもみくちゃにうめていった。
「コレ、材料なんですか?」
本拠地で月報告ついでに食堂ランチ。
メニューはないけれど、バイキングのように取り放題システム採用のランチだ。(料金不要。使用済み食器は返却コーナーが設置済み)
リア充上司様の前で食べるハメは胃が痛い気もするけれど、解説有りなら解説聞きたい!
今日のチョイスメニューは黄色い物体に赤いソースがかけられたカットケーキっぽいモノ。
予想では卵焼きである。
「ポルトガッシュの肉のオムレットだな」
ちらっとこっちの皿を見てリア充上司様が言う。
オムレット!?
オムレツ?
たまご!
「そんなに慌てなくても誰もとらないぞ?」
少し引いてるリア充上司様の声が遠い。
バターのきいたたまご。ほくっとほどけるじゃがいも。スパイス多めのソーセージの旨味。
それがポルトガッシュの肉のオムレット。
緑の羊は想定外だった。
いや、確かにひまわりっぽいパイの花とか、クリスマスツリーのような飴の木とか得体の知れない植物はたくさんある農園だけど。(『庭だ。庭』と訂正された)
この緑の羊が肉か!
「この子たちのお肉が具材ですか?」
あのお肉美味しかったし。
「……はぁ?」
緑の茂みの下から現れた黒い影のような人物。リア充上司様が怪訝そうに頭を揺らした。緑の綿毛があたりに散らばり私はくしゃみ連発である。
「具材っつーか、こいつになる実がオムレットになるんだよ」
このニーさん何言ってんの?
あ。リア充だもんね。常識違うよね。
「っちっ。見てろよ」
舌打ちして再び侍っていた周囲の緑の羊にリア充上司様が手を伸ばす。
「肉入りと肉なしと魚入りと甘いヤツ」
そんなことを言いながら茂みに手を突っ込むリア充上司様。抜いた手には四つのたまごが握られていた。ニワトリのLサイズたまごより一回り以上大きい。
「この果実を茹でる」
たまごにしか見えないブツを持ったドヤ顔上司様がクイック・クックの厨房へと私を連行した。
止める人がいないんだろうけど、自由だよね。リア充上司様。
慌てて出てきたクイック・クックにたまごを手渡して「加熱してくれ」と軽く頼んでいた。
ニヤニヤと私に目を離さないでいろと指示し厨房裏の庭でくつろいでいるようだった。
「ポルトガッシュはサッと茹でるだけでいいの。これもここの特産品……と言える、かな」
胡散臭げに言葉を選ぶクイック・クック。
「茹で皮は食べれないの。食べるのはワームとかポルトガッシュとかかな」
カンっと硬い音をたててたまごが割られ、中身が皿に落ちた。それはとてもなめらかな動き。
まるい円柱がそこにあった。
色は黄色。
私はまじまじとその物体を見つめる。
その横でクイック・クックが容赦なく他のたまごも割っていく。
四本の円柱。
料理完成形態が出てくるのは、ふざけてると思うけれど、ここの庭には普通におやつが実ってる!!
なんだか納得できるけどしたくない!!
食べた結果はじゃがいものオムレツ。ベーコンとじゃがいものオムレツ。じゃがいもとしらすのオムレツ。じゃがいもとサツマイモのオムレツだった。
「納得、できない」
ぼやく私にリア充上司様がぴらりと一枚の紙を突きつけてきた。
「なにこれ、スーパーのレシート?」
長方形に長い紙はどう見てもレシートだった。
じゃがいも98円
にんじん98円
たまご128円
たまねぎ98円
ほうれんそう138円
こんにゃく98円
ぎゅうにく459円
ベーコン198円
作りたいのはカレー? それとも肉じゃが?
「ポルトガッシュの祖先だ!」
私がうろんな眼差しでリア充上司様を見つめたのは当然だと主張したい。
リア充上司様の植物講座によると落ちてた謎袋(スーパーのビニール袋。コレクション保存済み)に入っていた植物を面白がって育ててみたらしい。
ただ、ぎゅうにくとこんにゃくとベーコンは加工品だったので魔獣化をまぬがれたらしい。
袋に入っていた植物はだいたい三つ入っていたらしく一個は保存。一個は食材として試し喰い。残り一個を育てて魔獣化(不本意との主張)させたらしい。
「まぁ、発芽までは普通だったと思うね。発芽して二日目くらいに自律歩行をはじめたくらいだ。なかなか元気だとつい過剰な肥料を整えてしまったかも知れない。しかし、元気だし他の植物を害そうともしてなかったからこんなものかと育ててみたわけだ」
植物は動き回らないから!
「ほら、マシュポゥとかキノコらも蠢くし、その一種かと」
絶対違う!
「流石に知能が高過ぎたから魔獣化してたのには気がついたがな!」
もっと、早く気がつこうよ!!
「どうやら魔力浸透率が良いらしくてな。その上で美味しくなろうと自らああいった実をつけるほどに進化した。素材成分は捕食させなくてはいけないが、すぐ食べれる実をつけてくれる優秀さだ。類似世界から来た嬢ちゃんにももちろん期待している!」
それってスーパーの野菜並みの期待値!?
振り返れば緑の羊が私を馬鹿にするように揺らいでいた。