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ロリコン勇者と再遭遇

「マグレッチェは何処だ」


 ぐっしょりと濡れそぼった服の袖。革と皮膚、鎧の冷たさが不愉快だった。




 雨が降り続く中、橋の向こう側を散策する。

 生態系の変化が季節性なのか、マシュポゥの繁殖のせいかわからないなりに変わっていた。

 雨の時期は街の住人もあまり外に出ないハズだと聞いていたし、見られたとしても雨のベールが個人特定を難しくさせるだろうと、観察採取を兼ねて散策である。


『今までと異なる魔獣も流れ込んできているんでしよ』


 マグレッチェの負の遺産が減ったことで力を取り戻したと語る若木(千歳未満)の妖精が教えてくれる。

 迷宮から増えすぎたマシュポゥと一緒にワームも流出しているらしく妖精は環境改善を素直に喜んでいた。

 ぬかるむ足もとにぽこんぽこんとマシュポゥがカサを広げていく。

 その姿はカラフルでポップ。雨降りだけど気分がいい。

 いや、気分が良かったんだ。男の腕に囚われるまでは。

 かつて出会ったロリコン勇者。

 ホナミと名乗った男がキノコの森に居たのだ。


「マグレッチェ、駆除対象になったんじゃなかったっけ?」


 マグレッチェはマグレッチェの民やマグレッチェの負の遺産の省略名称だ。

 マグロちゃんのことをいってる気はするがロリコンに教える義理はない。


「殺したのか……」


 ぐっと気管をおさえられて苦しい。

 急に解放されて咳き込む。

 苦しい。

 いや、ほぼすぐ解放されたけど、違う意味で苦しい!

 マシュポゥの胞子が周囲を白く染め、ナメクジのような軟体生物が降り注いだのだ。

 とにかく距離をとって呼吸を確保していると乱闘音が続いている。ロリコンの罵声や暴れる音。


『だいじょうぶでしか?』


 若木の妖精が助けてくれたようだった。あとマシュポゥ。

 私は頷いてから立ちあがる。

 そして、ぎょっと驚く羽目になった。

 人影がふたつ。

 雨の中、佇んでいたのだから。



 大樹の根が岩をおさえている小さな洞窟で私は、いや、私達は火をおこして休憩をとっていた。


「ご迷惑をおかけしたようで申し訳なく」


 人影の片方、二十代半ばかと思われる女性がまっすぐに視線を合わせてそう言った。

 ロリコンはもちろん、放置してきたとも!


「マツカ、いっぱい落ちてた。拾わない?」


 もう一人はそんなことを呟きながらチラチラと女性を見ている。


「マツカ?」

「マツカ、おいしいよ」

「死者の木ですね。この森にも生えているのには驚きました」


 ん?

 何か会話の流れがおかしい?


「マツカは食品なんですか?」

「マツカ、おいしいよ」

「魔法加工が必要ですが、食べれますしおいしいですね」


 ん?

 やっぱり何かおかしい。


「見つけたぞ!」


 ロリコン勇者があらわれて注意がそれた。


「マグレッチェは何処だ」


 コイツ、状況見えてないのか?


「ホナミ、依頼中に暴走は困る。ホナミの仕事は地図を広げる私の護衛。食糧採取依頼を兼ねるのはいいが、護衛対象放置は依頼放棄だと思うよ」

「……非常食がいたろ?」


 非常食?


「非常食は繊細行動出来ないでしょう」


 非常食?

 カタカタと怯えているもう一人。


「マツカ、集める。食べるものいっぱいあったら、食べられない。集める。ちゃんと集める」


 彼が、『非常食』?


「そんなことより、マグレッチェだ! マグレッチェは何処なんだ!」


 うるさい。


「マグレッチェなんて知らない。知っていても教えない。教える理由がないしね」


 怯えてるのに。

 非常食なんて呼ぶ理由がわからない。


「なんで!?」


 ナンデ?

 なんで、どうしてこいつは当たり前に情報を引き出せると思ってる?

 殺しかけて脅迫して怯えさせたら都合よく協力すると考えてる?


「ねぇ、どうして私が嘘をついている前提で責めたてるの? 私、貴方に協力する必要性は感じない。ねぇ、どうして当たり前の顔をして焚き火にあたっているの?」

「え? だって地図職人も非常食だって……?」

「だって二人は一緒に洞窟を見つけて、協力しあって火をおこしたんだから権利はあるわ。それに、あなたに殺されかけた私を気遣ってくれたの」

「殺そうなんてしてない」


 不満そうな不貞腐れた声に心の奥がざわつく。


「そう。首を絞めておいてもし死んだら、それは運が悪かったと言うつもりなのね」

「っ違う!」


 伸びてくる手から離れる。

 何が違うのか私にはわからない。


「だって、同じ迷い客だろう!?」

「たぶん、私とあなたは違うわ」


 答えに考える間もいらないくらいに分かりきったことだった。

 召喚された者と迷い客はきっと違う。


「それに条件が同じだったとしても、理不尽に殺されかけて、それをしかたないなんて笑って流したりできないの」


 あなただってそうでしょうと言う言葉は音にのせない。

 あなたはワケのわからない影に追われて走った?

 あなたはワケのわからない条件をわからないままにのむはめになった?

 勇者なんだからワケのわからない条件はのんだのか。

 じゃあ、それをこなす努力はした?


「条件を満たすためにマグレッチェを探しているの?」


 殺すために?


「わからない。わからない。自分が良ければいいんだろ。誰かが困ってても手を貸そうって思わないんだろ」


 どうしてそうなる?


「マグレッチェは何処?」


 壊れてる。

 私にはそうとしか思えなかった。


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