マグロちゃんと憩い時間
日常は大きく変わらない。
早朝に魔力充填をして散歩をして朝ごはんを食べたらもっふっもふたちのブラッシングタイム。
なんとなく所要時間が短縮されている気はするけど実力が上がってきたと考えるより、作業の予測がつきやすくなっただけ。あと道具性能は向上している。
きっと、覚えてきたと考える今がポカリやすい危険な時期だと思う。
でも、絶対体力は上がったと思うな。
さすがにマクベアーとピンクちゃんの格闘とか、小麦ちゃんと黒ちゃんの格闘とかにはついていけないけどね。野性が強すぎて。
悩んでも仕方ないことを悩むより、次にする事を考えていきたいけれど、ポツンと空いた時間ができるとつい悩みが返ってくる。後ろ向きな思考に慣れ親しみ過ぎた自分がちょっとうとましい。
「と、いうわけでマグロちゃんをかいぐるぞー!」
抱きしめてぐりぐりとその髪質と子供の肌の滑らかさを堪能する。
多少、抵抗できない子供を好き勝手に愛撫するという行為に躊躇いがないわけじゃないが、マグロちゃんは小麦ちゃん達と同じようなもんだし、あきらかに嫌がられたらやめようと心に決める。
オレンジ色のくせっ毛は日々のブラッシングでふわふわ柔らかくて花の匂いがする。
花?
ふと、周囲を見てみると花が飾ってあった。
蜂達を養うために確かに花の咲く植物を選んで育てているので不思議はない。ちょっと、私に花を部屋に飾るという発想がなかっただけだと思う。
うん。
新鮮な驚き。
逆さまに吊るすのに使ってるのはノンカンさんの糸だろうか。盛りを過ぎた花をドライフラワーにしていっているようだった。
「いい匂いで嬉しいな」
そう言って頭を撫でるとマグロちゃんは嬉しそうに笑顔全開。すっごいかわいい。
親バカ的感想と言われても信頼を向けられた全開笑顔はどこまでもかわいいし、嬉しい。
「マグロちゃんになら騙されててもいい!」
あー、もうかわいい!
軽い調子で腰をぱすぱす叩かれた。見下ろせば『しない』とばかりに頬を膨らませていた。天使か!
うー。かーわーいーいぃー!
ぎゅうぎゅう抱きしめ続けるとしだいに諦めたのか、ぎゅっと抱きつき返してきて、かわいいっていう思考以外が綺麗に消えていく。
「何やってるんです。今日の予定はいいんですか?」
ピヨット君に妨害されるまで満喫した。
「今月の予定は普段の行動に足して、体力増強期間にするつもり。まだまだ雨がよく降る時期なんだよね?」
目標を告げて雨が降りやすいという期間が続く事を確認する。今月いっぱいは雨が降る日の方が多いからこそ旅行にもむかえたんだと思っている。
「おっさんが掘った迷宮通路を視察とかしていくつもり。ルートが通ってもそれだけじゃダメだし、自分の目で知らないっていうのはもっとダメだと思うから」
マクベアーを騎乗生物として移動活用するつもりだ。
狭い部分が多いのははじまりの迷宮くらいだしね。
「奥まではまだ行ってはいけませんよ。熔岩や毒ガスの処理が終わったという報告はまだありませんからね」
ピヨット君に言われてそういえばそうだったと思い出す。
うし。
「おっさん締めてくる」
「絞めるだけの腕力ねーだろうが。第二迷宮からとりあえず蛇行路でルート通しただけみたいなもんだしな。地中湖や地底川もあるから徒歩だけではいけねぇぞ?」
「温泉はっ!?」
期待していたのに!!
「まずは第三迷宮を……、あ。本拠地の下は数に入れてないぞ。次に侵入者を招くルートの構造を考えてから向かえば時期的にも落ち着いてるんじゃないか?」
もう少し強い連中が暴れられる空間を構築しろよと促された。
つまり、広さとトラップの競合を目指せと!
広いだけの場所じゃ防衛に役に立たないと言われた気分で複雑だ。と思っていると「あの採集ゾーンはまぁいいけどな。もう少し考えような」って窘められた。
いや、あそこは広域戦闘可能空間のつもりで!
おっさんとピヨット君に「は?」って言われた。二人揃って「はぁ?」って言ってきた!
ちょっと酷い!
ふてくされているとマグロちゃんが撫でてくれた。
望まれている時間稼ぎはできるだけの環境はある。あとは改善努力があればいいくらいと言われても、確かにまだ、凝った迷宮を作りたい。
凝った迷宮って言ったらなんかおっさんの目が輝いた。
少なくともはじまりの迷宮と第三、第二迷宮? まぁ名称なんてどうでもいいけど、同規模の場所は欲しい。生態系予備地として。
侵入者がどのくらいの期間にどのくらい来るのか未知数で。この世界の戦闘力はロリコン勇者や酒場にたむろってたおっさん達を見ている限り低いとは思わない。つまり、現状の時間稼ぎは一回できたとしても二回目に時間稼ぎできるだけの状態回復があやしくなる可能性が高い気がしているのだ。
きっと私だってもっと強くならないと小麦ちゃん達を守れない!
「いや、多分。春までははじまりの迷宮だけでも間に合うとは思うぞ?」
拳を握る私におっさんは楽しげだった。
そして笑って同じ構造のモノを作って転移陣で結んでおいてやろうと宣言していた。
妖精樹達に話しておかないととふらっと消えた。
うん。おっさんが主導で作ってもいいんだよ?