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元カノとおしゃべり

 彼女の言葉がわからないわけじゃないんだけど、自分のことと受け止められない自分もいるのも確かで。

 その惑いが受け入れられている現状を私は甘やかされてるなと理解した。

 リア充上司様の元カノは茶色の髪を揺らしながらけらけら笑って『兄』と『彼』は意外に似てるのだと言う。絶対否定するから内緒だけどと付け足して。


「どこが似てるの?」


 尋ねたのは思いつきだった。


「なんとなくで魔王様やっちゃう適当なとこかな。あと懐に入れたら大事にするとことかね。あと、本業と考えることへのこだわりかな?」


 呆れた。

 軽い感じでされた説明は適当すぎる気がしてしかたない。


「それじゃまるで流されて世界征服とかしちゃいそうってこと?」

「条件が整ってればやりそうだなぁ。まぁ面倒くさいこと嫌いな二人だからそーゆーことにはならないかな」

「本業って?」

「兄さんは薬師だし、あいつはトレジャーハンターって言うか冒険者?」


 彼女は楽しそうにケラケラ笑う。

 なんで、魔王様やってんだよ。二人とも!?




 藍色の髪の魔王様。紫紺の魔王様の島は不思議なほどに不思議植物がなかった。

 温室で育てられている苺は大粒の赤。厚い皮を持つ果実は柑橘系だろうか。そしてたわわなバナナ。

 畑には豆や白い根を主張する根野菜。もふっと丸みを帯びた葉物野菜。

 手入れしている作業者は人型をしていない異形だと言うことだけが、この場所を異世界の魔王領と意識させた。


「異世界から流れてくるのはヒトだけではないからね。すぐに魔力の影響を受けてしまう植物へ魔力の影響を与えない環境下で繁殖させるのはなかなかに手間ではあるかな。その分、やりがいはあるけれどね」


「手間をやってんの魔物たちじゃねーか」


 リア充上司様の言葉に紫紺の魔王様はにこやかな笑顔で「火口の溶岩風呂にでも飛ばそうか?」と……。


 えっ!?


 今、え!?


「私が歓待しているのはお前じゃなくお嬢さん方だからね」


 遠慮する必要はどこにもないんだよね。ウチの妹に対する扱いも不満だしと小声で続いている。

 あれ?

 これって一種の修羅場?


「ただ植物達は感情に過敏だし、ウチを荒らすのも好ましくない。もし、この男の下が不満なら手に職を仕込める期間なら世話をしてもかまわないよ?」

「今んとこ大小の不満付きだがそれなりに回ってるよ。まぁ、選択肢があるって言うのは悪くねーけどな」


 私が応える前にリア充上司様が言い返しつつ、私に向かってその可能性があるなら彼女に話を通しておくぞと言ってくれる。

 いや、そこで元カノ頼っていいの?


「もふ生物とのふれあいは減るだろうけどな」


「現状維持希望です!」


 続いた言葉に迷う余地などなかった。紫紺の魔王様もやんわり笑っている。

 紫紺の魔王様の配下にもふもふ属性がいたとしても友好関係を構築できるかは別なことぐらいは理解できる。


「本人がいいのならなによりだね。まだこちらに来て一年にも満たないのだろうから焦らずしっかり自分の出来ることを探せばいい。ヒトは、生きるモノは総じてそれを模索していくものなのだから」


 この人もなにかを探し模索しているのだろうか?


「焦って見えますか?」


 そんなふうに見えなかったから、つい疑問が出た。

 私はそんなに追い詰められて見えるのだろうか?


「焦れて、周りを見てその上っ面の広さに道を見失って欲しいモノがわからなくなる寸前に見えるよ」


 それは不安なことだろうね。と柔らかく告げられる。

 どうして、不安を読みきれない心を当てて……。


「精神干渉を本人に無断でなさるのは紳士とは呼べませんわ」


 ヒュッと冷たい声が降ってきた。


「ただのカウンセリングの一環だよ」


 リア充側近様の言葉を否定することなく紫紺の魔王様は微笑む。悪意などないとばかりに穏やかに。そして、否定はしない。

 彼は私ににこやかに告げる。


「もう少し、自分の欲しいモノを自分に問うことだね。迷い惑う心の声は意外に察知されやすい。自分が何を求めているか、一番知っているのは自分自身だからね」


「争いを求めると言うことでしょうか」


 リア充側近様、違うん、じゃ?

 とんと突き落とされたなんとも言えない薄ら寒さがその言葉で落ちきれず何処か留められている。


「不本意ながら私の望むものは穏やかな余生だよ。そこの彼と同じでね」

「え。俺そこまで枯れてねぇ」


 リア充上司様、エアクラッシャーでありがとうございます。


「見つけるのは君自身だけど、此処に来ているということは誰かが君に関心を寄せて心を配っているということ。ただ、それは相手の勝手な思考行動であり、蔑ろにしたければすればいいんだよ」


 おこないはいずれ自身に返ってくるものだけどね。と紫紺の魔王様が浮かべた笑顔は、ああ、このひと魔王様だなぁと妙に納得した。

 あと兄妹だなぁとも思った。





「疲れたー」


 マグロちゃんを抱き抱きしながらプチ愚痴る。

 ふわんとしたオレンジ色の髪は柔らかくいい香り。撫でろと窓の外に待機している黒猫と小麦ちゃん。

 静かにお茶を出してくれるピヨット君。

 気配りは、心配りは感じてる。


「よっし、頑張るぞっ」



「張り切るとバテるぞ。小娘」


 おっさんが水をさしてきた。


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