好戦性とお弁当タイム
明らかな人工整備の洞窟(この辺りは迷宮って言ってもいいかな?)はふんだんに隠し扉や仕掛戸が採用されていた。(誰の発想なんだとぼやいたらノンカンさんが『ヴィガさん達ですよ』と教えてくれた)
少し歩けば角があり、先への経路がわかりにくくなっている。
無神経にざくざく進むことができれば気にならないだろうけど、罠と敵(野ねずみとか仔蜘蛛とかマシュポゥとか)が居た行程からも用心はしているだろうし、緊張状態は続くと疲れるし、出来るだけ緊張感は上げていきたいよね。
『この辺りでは、わたくし達の本領発揮である集団戦法をいろいろ試すつもりです。はじめは無理でも最終的には混合部隊が理想だとは思っておりますの』
ノンカンさんの意気込みを感じる。
「ギャッ」
『足もとに仕掛けがありますからご注意を』
二階層で休憩。
がっつりと外の様子が見える場所だ。ここから外に出れば十メートル下が入り口だ。普通にジャンプして上がってくる人とかいるんだろうか?
一階層部分から二階層へと上がる階段が意外に長かったとノンカンさんに告げると『中二階部分がありますしね』と説明された。
二階層部はひよ様ゆとりの設計という私の要望からの改装があったらしい。二階層床に穴が開いても一階層部分が潰されない用の保険でもあるのだとか。
それにしても天井までが遠い。学校の体育館がきっとすっぽり入るだろう。
劇場のように段差があり、それなりの広さがある。ひよ様オンステージがそれぞれ五箇所で同時開催可能そうだ。
ステージのひとつでピンクちゃんが転がっていた。
って言うか、ピンクちゃん、その野ねずみ(多分)の骨の山はいったい?
『ピンクさんはお強いので、みんなの良き訓練相手ですわ』
全滅はさせないけれど、一部が食料になってしまうのはしかたないと受け入れているらしい。
負けても食われることなく生き延び次に繋げた子の方が見込みがあるのだとか。
厳しい。
「ここを守る戦力が特にいないんだなぁ」
ぽふんと飛び込んできたピンクちゃんが撫でろとばかりに頭を胸に擦り付けてきてくすぐったい。
「いや、ピンクちゃんもマクベアーもここに配備する気はないしね」
バッとピンクちゃんが私を見上げていた。
それはもう、なにかを訴えかけるように。ブラッシングする? 今は違うの。
じゃあ、私にどんな反応を期待しているの?
「怪我したらあぶないよ?」
ピンクちゃんの周囲に積み上がった骨の山には目を瞑ろう。
本当ならトラップと心が痛まないマシュポゥとかで防衛組みたいくらいなんだからね。
もふもふがダメージ受けるの反対。捕食しあうのも微妙な心境だけど、生態系って自分に言い聞かせてる。私も飢え死にしたくないし、お肉は好きだから食べたいし。
『ピンクさんもお子さんをつくって個体数を増やしてからですね』
いや、ノンカンさん個体数とか本当は関係ないんだからね!?
ピンクちゃんもコックリ頷かない!
って本当にこの世界の生き物は好戦的だと思う。
魔王領だと言う事実もあるけれど、戦闘や死闘殺し合いを生きる基本においている気がする。
会話、意思疎通が可能だからと言って平和主義に思想が向かうかと言えば違うと思う。
人間だって十分に攻撃的だ。わかってる。
きっと必要以上に陰湿執拗粘着質に振る舞えるって私は知ってる。
自分の中にその思考がないだなんて言えない。
だってその陰湿さに触れて過ごして無縁ではいられない。
それにあのホナミっていう男。明らかにヤンデレストーカー系だったし。
あ。思い出したら寒気する。
話題にだって載せるもんか。
「お弁当を届けにきましたよ」
ピヨット君がぽっかりあいた出入り口(非正規ルート)から入ってくる。
蜜果の炭酸割りと小麦ちゃん粉のクッキーだ。クッキーには大ガエルチーズも練りこんである自信作。クッキーを割り分けながら蜜果の炭酸割りを一口。
シュワッと口の中に広がる甘さがたまらない。
「そう言えば、ピヨット君は恋愛的な意味でピンクちゃん好き?」
「……はい?」
思いっきり首を傾げられた。
自分はまだ伴侶を選び得るほどの実績もなく、未熟者だから告白ひとつできない状況なのにピンクちゃんのような幼げな魔獣に魅力を感じるかと言えばそんな余裕などないのが実情ですと立て板に流れる水のように言い訳が流された。
「ピンクちゃん、ざんねーん。ピヨット君は他に好きな子いるんだってー」
ピヨット君ったら真っ赤になってカーワーイーイー。
あ。
思考が棒読み調になったわー。
独りもんは私とマグロちゃんとおっさん?
いや、あのふたりだってわかったもんじゃないんだけどね。
個人的にはリア充を祝福できる心の余裕がないんだよ!
ヴィガの一人がソッとわけたクッキーを差し出してきた。
「あれ? 好みじゃなかった?」
チーズ苦手だったかな?
『領主様に元気を出して欲しいので好きな物を捧げてみてるんですよ』
ノンカンさんの言葉にはどこか微笑ましいと言わんばかりの感情がこめられている気がした。
ヴィガもギャッギャッと頷いていたので本当らしい。
しかしな。
数匹のワームをうにりと差し出されても素直に受け取れる心のゆとりはないんだ!
「ありがとう。自分たちで食べて、侵入者が来た時に死なずに済むように強くなってくれると嬉しい」
かろうじてそんな言葉を捻り出すとヴィガ達はギャッギャッとワームやクッキーをお互いの口に放り込みぴょんぴょんとなにかはしゃいでいた。
ぎこちない動きでピヨット君とノンカンさんを見れば、『良い激励でした』と褒められ、ピンクちゃんが不満そうに「ぴー」と鳴いた。