東方本部長と春
「ちゃんと気になることは聞いておかなければいけませんよ」
ピヨット君は書き物をしながら助言をくれる。
「え?」
「ガドヴィンの方々が良くしてくださるのはこの地の領主が貴女だからです。特に要望を出さない貴女だから自らの欲求を叶えるついでに貴女にそうなら幸いと対処してくださっていますが、彼らに報告義務はないのです。行動の概要はノンカン女史が報告してくださるでしょうが、意図、目的真意となると推測になり、知らないことが致命的な管理責任に問われかねないんですよ。あ、第二夫人は部外者ですからね」
うう。
説教くさい。
でも事実だよね。
ピンクちゃんは気がつくとマクベアーと喧嘩している。
それはもう、なにが不満だとばかりの勢いで。
「春だわぁ」
戯れ闘うケダモノを眺めながらそんなことを言うのはふわふわ金髪の少女。私より地位は上でリア獣上司様と同位の東方本部の長の方。
「お塩とガラクタ持ってきたのー」と訪れたのは唐突だった。
「お塩、砕いてくれて、ガラクタも引き取ってくれるんでしょ?」って悪びれることなく笑顔で言い放たれたのだ。
砕くし、引き取るけどね!
彼女の言うガラクタは東方本部に所属する鍛治師の見習いが作成したリア充上司様の側にいることに慣れた者は誰も望まないが、資金の少ない一般人には十分に事足りる代物のことだ。
見習いが一人前になるにはひたすら大量に作って技術を体で覚えていくしかないのよ。とはじめて購入した時も言っていたと思う。
そう言う意味では良い上司様なんだろうなと思う。少々、部下の恋愛事情に激しく後押ししようとする傾向はあるらしいけど。
「春?」
「繁殖相手を鍛えようって乙女心よねー」
はん!?
「サイズ、えっ!? 大きさ全然!」
「あんまり関係ないのよー。ひよちゃんだって奥さんヒト族だしね。んー、ヒト族はどの種族とも交配可能種だけどね。マクちゃんとピンクちゃんは種族共通項多いし、多分近親種かなぁ。ピンクちゃんとしてはマクちゃんかピヨットちゃんか悩ましいついでに両方でもいいかとか企んでそうよね。ライバルいないし」
ピヨット君も候補!?
肉食系女子か、ピンクちゃん!
「迷宮に居住する以上、防備の一端を担いたいんだと思うよー」
あと、やっぱり女の子は素敵な相手を伴侶にしたいよねーって続いて、彼女の脳味噌が春のお花畑だった。
そういうものなのかと少し不思議な気分。
彼女は私のうまく納得していない様子にふふっと小さく笑う。
「難しく考えることはないのよ。なるように流れていくし、王様がちゃんとしてくれるもの。私たちは少しでも王様の心が楽しくして居られるようにするだけだもの」
ひらひらと金色の髪がゆれ、移動用にと貰った木馬が彼女に寄り添う。
「難しく考えることが好きならいいと思うけど、フィアナちゃんは難しいこと考えるの苦手だしー。フィアナちゃんは、ほんとはお掃除お洗濯だけしてたいしー」
くるりくるりと回る彼女の周りで水滴がふわふわと浮いて光を反射させている。
水滴には魔力が含まれていてゆっくり木馬の細かい傷を消していく。
「はい。木馬ちゃんの修復終了!」
「ありがとうございます」
「どーいたしまして。優しく使ってあげてね」
頷く私にむけて笑う姿に裏はなさそうに思える。
「水不足のエリアがあれば撒いとくけど大丈夫?」
把握出来てません。
気を抜いていいかなと思った瞬間に調査の足りなさを突きつけられて(本人無自覚)まだ手を抜いて構わない段階に来ていないと自覚してしまった。
頑張ろう。
「ほどほどに頑張ってねー。あぎゃちゃんも無茶は言わないと思うし、あ。それ以前に意思疎通もむっずかしいよねー」
艶やかに笑いながら彼女は去って行った。
粉末塩とショコラ風味のレアチーズケーキもどきを持って。
置いていったガラクタは鍋や包丁を含む調理器具。コの字型の釘、金属棒。金属板だった。
修行に使おうか?
「ノンカンさん、水不足の地域ってある?」
『調査範囲内に限りますけれど、ありませんわ。これからの時期は分かりかねますし、迷宮用にとはいえ、地脈に大穴を開けた影響はまだですわ』
変動要素が多めだった。
ノンカンさんの判断では周囲の植物や棲息生物を見る限り拠点から吊り橋に至るまでの土地は深刻な水不足は縁遠そうだという事。それを聞いてホッとした。
東側にいくほどに空気と大地は乾いてきて、そこから先の調査はたどり着いていないらしい。
危なそうなら行かないでね。ノンカンさんいないといろいろ動けなくなるから。
蜜果酒と白マシュポゥで酒盛り中のオジサマ方とおっさんに聞いたら「調整してるから問題ない」と返された。
オジサマ方は仕方がないとしてもおっさんは報告してくれてもよくない!?
あーもう、酒くっさい!
あ。
金属棒と金属板が椅子になってる!?