サビ猫ちゃんとオジサマ方
細めた目がしあわせそうに見えてこう、そう、逃げ出される勢いで撫で倒したくなる。
嫌われそうだからしないけど。
『小麦粉』は好評でいい商品に成長しそうだと御満悦で報告に来てくれたサビ猫ちゃんだ。
今回は一般的武器各種とよくある容器数種類と数冊の絵本(子供が見る内容ではない)を購入。
量は少ないが一番品質の低い小麦ちゃん粉の仲介を頼む。
こっちも人員増えて消費があるんだけどね。
「マシュポゥの核ですか」
「そう。マシュポゥの核を粉砕してあるの。少量の水やカエルミルクで練って加熱すると食べやすいよ」
大量にある食材は販売するに限る。そう白マシュポゥの粉砕核(つまり一番価値の低いもの)だ。たぶん、あと一週間もしたら色付いたマシュポゥの核になっていく頃だとかでひっそり希少価値とも思うけど、希少性はないらしい。
「味は変わると思うけどマシュポゥが大繁殖したから今月来月は同量は渡せると思うんだけど、どうかな?」
「食材は売ってみせましょう。販売路のコネは入手致しました」
雨が降りましたしねと頷きながら安請け合いするサビ猫ちゃんが実に頼もしい。(雨のあとはマシュポゥやキノコ類の繁殖がよく見られるのは普通らしい)
そうか、コネ大事なんだ。
「それでですね。かなり我が商会に有利に動いて頂いているお礼というか、今後ともご懇意にという想いも込めまして賄賂です」
差し出された小箱を受け取る。
賄賂って宣言して渡すものなの?
いや、受け取るけどさ。露骨さがサビ猫ちゃんの魅力のひとつだよね。うん。かわいい。
なんで、こうテンションの上がり低いかな。間違いなく、サビ猫ちゃんはかわいいのに!
吊り橋むこうにもポツポツと以前より多いマシュポゥの姿は視認されているらしい。
マグレッチェの負の遺産を処分していくことを決めた街にとって奇跡のように迎えられているらしい。マグレッチェに比べて収穫の危険性は段違いに高いが収穫できる食材は大事なんだろう。
ただ、ウチのマシュポゥよりずいぶんと小型で核も小さいらしい。茹でて食べるのが主流だとか。(カサとジク、核のまわりの繊維質は食さないらしい)
核のサイズが一口サイズと聞いて驚いた。それなのにカサを捨てる?
カサ部分も美味しいのに!(ピヨット君はどんびいてたけどね。一口食べたら大人しく食べてた)
蜜果での酒造りとか話すと目を輝かせていた。うう。かわいかった。生産品質が落ち着いて分量も余るようになったらね。きっと睡眠薬入りだけど。ないのも作れるか聞いておかないと。
そんなことに想いを馳せつつ新しいブラッシングブラシを構える。
小麦ちゃんが期待の眼差しで私の手元を追っている。
よし。いくぞ!
ここから先はブラッシングに集中だ!
そう。賄賂はブラッシングブラシだった。
一番欲しかった物のひとつランク下の物だ。
うん。欲しかった物はやっぱり自分で買わないとね!
サビ猫ちゃんわかってる!
急かすように顔を押しつけてくる小麦ちゃんに私の表情筋は緩みっぱなし。
ああ、だってかわいい。かわいいよ。思考力がとーけーるー。
きゅるんって眼差しが物欲しげだよ。うん。これだよね。待ってて。
今、気持ちよーくしてあげる。
うっとりとブラッシングに励む。
つやつやの小麦色の毛並み。ぐるぐると響く振動。念のために蚤チェック。チャッキー達も協力して捜索だ。よし。いない。
わらわらと背後でガドヴィンのオジサマ方が抜け毛に群がっていてアウリー達が収穫物を回収できないと威嚇していた。
「羽猫どもとも違うな。精霊獣というわけでもない。ふーん。分類としてはただの魔獣だな。やはりワケがわからん奴の土地にはワケがわからん奴がいる」
そんなことを言いながらがはがは剛毅に笑っている。
「コレが実だな」そう言って持っている部分で指をすり合わせる。
覗いているとそこからぼろり薄茶の粒が現れた。
その後の毛は裂けた風もなくなめらかなままのようだ。
「粉砕機とやらはこいつを精製しているんだろう」
頭を寄せ合ってオジサマ方が分析してらっしゃる。食用粉を粉砕機なしでも加工出来ればいいという思いはわかるし、真実は謎ばっかりだから助かるかなぁ。
「嬢ちゃん、今回のこいつを貰っていくぞ!」
私は少々不満そうなアウリー達のためにマシュポゥと引き換えという条件で承知しておいた。
そう言えば、倉庫に食用粉が種類増えてたんだけど、品質上がったのかなぁ。
小麦ちゃん、素敵。
そっかー。
かわいいだけを考えていられなかったからテンション上がりが悪かったんだ。
もふりと小麦ちゃんに埋もれる。
「小麦ちゃんの抜け毛ラグが欲しい」
「これだけあれば作れるだろ。あっちの嬢ちゃん夫人に作らせりゃええ。糸車も織り機も誰かが作れたろ。おい」
え?
私の欲望計画が実になる?
「糸車くらいならな。織り機はワッシじゃ曖昧だな」
糸になるなら手編みとか!?
オジサマ達が妙に盛り上がって「やってみるか」と挑戦者の目をしていた。
「どこまで粉砕機とやらの出来に近付けさせれるか、待っとるがいい」
あ、コッチのオジサマは超マイペースだった。