第三のはぴねすもふとハイテクファンタジー
かつんと背後から聞こえた音に振り返った私が見た光景は一匹あたりのサイズが明らかに自分よりでかい蚤を貪り食うフクロウ二羽の姿だった。
貪り終われば、ぽってりと膨張したおなかを無防備に上にむけて床に転がる二羽。攻撃する気は無いけど、無防備だな。おい。可愛すぎだろ。私に死ねって言うのか?
もふりとそのおなかに指をさし入れてもフクロウたちは怒らなかった。
いやーーー。
かーわーいーいー。
なんなのこの凶悪アサシンフクロウたちは!
興奮しすぎて鼻血でそう!
袋がペッと排出口から転がり出てきたらしく、背中に衝撃を受けた。
それとも、もしかしておっさんの攻撃か!?
ラベルのない袋がふたつ。
え?
どっちが食用の方?
そんな風に慌てているうちに片方のフクロウがラベルを一枚とって袋に貼りつけていく。
超お利口!
スゴい!
って、正解なの!?
しばらく見ているとペッペッっと袋が封をされて転がり出てくる。積んであった小麦ちゃんの抜け毛は寝具用も含めて粉砕機に呑み込まれていたらしい。おっさん!?
グォンッとひとつ大きな音がして袋が排出されなくなった。
それを待っていたのか、大人しく撫でられていた方のフクロウが食べきれず余っていた蚤をひっ掴み、ぽーいっと粉砕機に放り込んだ。
「はぇ!?」
そして、もう一羽が白紙のラベルをさし出してくる。
うん。
『蚤』って書いた。
え?
蚤を食用に分類する気は無いから。
粉砕機はひとつの投入口と複数の排出口のある三メートルぐらいの円柱だった。
「まず、魔力石を投入する。これで三日間起動し続けるし、一定量を投入するなら投入物の魔力を吸収して動き続けるらしいな」
そう言って、おっさんは魔力石を入れてから小麦ちゃんの抜け毛を投入していく。
おっさんの行動を見守ってて思うことは投入口の位置が高めなんだけど、どうやって前任者はこれに落ちたの?
投入口の下にみっつ灯りがともる。これが稼働していられる時間というか、日数?
魔力石って確かひとつ五万とかって説明受けたんだけど、もしかしてこれから一定量を常に入れ続けろってことだよね? 元が取れるようになるまで。って、とれるの?
排出口のうちのふたつがポンっと袋を出してくる。ここに粉砕済みのものが詰められるらしい。
意外にハイテクっぽい。いや、それともファンタジー?
「あー、袋が足りないな」
おっさんがそう言うとちょっと来いと私をアーチのところへ誘導した。
「この木はフクロウ樹っつってな」
『ホゥ』
鳴き声に見上げれば、そこにはふこふことフクロウが二羽私を見下ろしていた。
くるりんとつぶらな目。
ふこふこと身を膨らませてぐりんと頭を回す姿。
もしかしてさっきもいた!?
なんで私見落としたの!?
「殴んな!」
おっさんが私の手首を掴んだ。
あんまりの愛らしいフクロウの姿に興奮しすぎてぽかすかアタックかけてたか。
うん。
「手が痛いからやめとく」
「嬢ちゃん……」
不満そうなおっさんはスルー。
「フクロウが住んでるからフクロウ樹?」
「いや、フクロウと袋がなるからフクロウ樹」
は?
「フクロウと袋が実るからフクロウ樹だ」
わざわざ強調的に繰り返された。
ぽかんとなった私の前でおっさんは木の葉の中から何かを引き抜いていく。
それは袋だった。
コンビニやスーパーのエルサイズくらいの大きさの植物性袋。木になってるんだから間違いなく植物性だろう。
「採る時は足場に気をつけろよ。で、次からは自分でやれ」
採った数枚の袋は手触りが悪かった。最低限って奴かな?
「戻るぞ」
いや。まだフクロウ愛でてたい!
泣きながら引き摺られていく私が物珍しかったのか袋の行方が気になるのか二羽のフクロウは微妙距離をつけながらもついてきた。
やだ何あれかわいい。
いつか、触らせてもらえるかなぁ。
「睨んでやるな」
「見つめてるの!」
このおっさん、いったい何を言うんだか。
おっさんはこっちを見もせずに袋を粉砕機にセットした。袋入れにセットしてやれば自動で排出口に送られるらしい。ハイテク。コレはファンタジーというかハイテクっぽい。
「この排出口から出る破砕屑はヒトにとって食用利用可能品で、こちら側はヒトには不適だそうだ」
袋、おんなじで区別つかないんだけど?
そしてほらとばかりに渡されたのは複写式のラベルだった。
『こむぎ(食用)』『こむぎ(非食用)』
って言ってもこの複写無くなるほど袋に貼るんだろうか?
「一袋は収穫物として提出するぞ。提出した内容は記録書類作っとけと言われていたのを覚えているか?」
「一応?」
おっさんによると食用もそれ以外も一応は提出するらしい。利用法の有無は向こうが判断して給料、もしくは臨時ボーナスに変換される。
小麦ちゃん観察日記もつけてるし、今後、フクロウ日記もつけることになるんだろう。
ああ。もふもふ成分が増えていく。
幸せ維持の為、頑張るぞ!