ノンカンさんと女子会話
ぽこりと膨らんだ腹部骨と皮だけのように細い手足。体毛は少なく、ボロい毛皮をまとった彷徨える餓鬼にしか見えない生き物はヴィガと呼ばれる妖精種。
先日の雨で洞窟に流されてきた総勢十人ほどの群れだ。
一体一体の身長は一メートルあるかないかで非常に小型だと思う。
言葉は通じているようだけど、彼らの言葉はわからない。
今は住処を掘り拡げながらマシュポゥを駆除して生活している。住居と言うかヴィガ達の居住区ははじまりの迷宮の一部、転移陣に至る五キロの通路だ。ヴィガ達は灯りわずかなこの通路にだまし絵のような罠をしつらえている。つるんっとよく滑るように整えた氷の上にうっすら泥を敷いてその先に五十センチくらいの深さで落とし穴を掘ってたりする。
リア充上司様の本拠地から一緒に来たガドヴィンのオジサマ方が存在認識して頷いている。その落とし穴に見事にハマって大笑いしあってたので問題はないらしい。
ヴィガ達の直属上司はもちろん、ノンカンさんだ。戦闘に関する連携の基礎は大事かと思う。
採用を勧めたのはピヨット君で採用したのは私。
ちょっと今思っているのはいろいろが進み過ぎていて落ち着かない。
初動が大事だし大変なことが多いのは理解できるんだけど、多分、対応が追いつけてないんだと思う。
アウリーを抱きかかえてもふりながらマシュポゥの核が魔力蓄積の薄い白であることにちょっと肩を落とすのだ。
うーん。
勢い動きが大きいことに慣れてしまうとあたりまえのゆっくりさでも落ちつかないんだなぁ。
「ちょっと、疲れちゃったのかなぁ」
まだ、もふもふハーレムのために環境を整えてる途中も途中だ。
落ち着くには五年くらいかけての長期計画だってどこかでわかってはいるはず。まだ大丈夫。頑張れると自分を鼓舞するべきか、先は長いから十のうち四は失敗でイイと思えるくらいでいるべきか悩ましい。
諦める選択肢は当然なくて、食物連鎖しかたないと理解しつつもお気に入りには死んでほしくないエゴイズム。
もふりと柔らかなアウリーの羽毛。うん。しあわせ。
たぶん、必要とわかってはいてもワームや触手キノコをかわいいとはまだ思えなくて、必要でもすぐに受け入れられるとはまた別で。今、必死に受け入れられるように割り切れるように自分を説得していて、疲れたんだと理解する。
「ワームとか、虫とか、基本的には苦手なんだよね」
『苦手、ですか』
「うん。ノンカンさんは大丈夫でもその子供達にはやっぱり嫌悪感が先立つこともあるんだ」
ノンカンさんの言葉に正直に返す。
個として認識すれば違うとわかる。
でも個として認識するには数が多過ぎ、識別もできない。
「能力足りなくてごめんね」
『切り捨てるべきは切り捨てるべきでしょう。気に病まれませんように』
「大事な家族だとは思ってるんだよ。増える速度に私がついていけないだけ。切り捨てたくないと思ってるのに実際は切り捨ててる自分がイヤなんだよ。ノンカンさんのことが好きって言えるのって特別な個として見てるからかも。よし。もう少しがんばるね。ありがとう」
自己完結させて立ち上がる。
「私はとにかくもふもふとハッピーに生きるんだ!目指せ、私に優しいハッピー生活!」
『領主様に優しいというカタチはどんなカタチなんですか?』
「実は今、かなり幸せ。ノンカンさんがいて、罵れるおっさんがいて、かわいいもふっとメンバーたちに幼女はかわいいし、ショタっ子だって嫌いじゃない。お互いに譲れるところと譲れないところをはかりあえる信頼を育てていける関係が作れる環境かな?」
裏切られたら悔しいと泣けるくらいノンカンさんやピヨット君を信じられるようになればいいのになって思えるようにはなったんだ。
「そういえば、ヴィガ達の指揮系統任せてしまったけど、不都合はない?」
『不都合はありませんわ。彼らは我らと等しく力関係というものを本能で理解しておりますから。いきすぎれば躾けるだけでしょう』
やっぱり、ノンカンさんは優しく頼もしい。
『少し、ゆったりと過ごせるおやすみ日を定められると良いかもしれませんね。少なくとも秋までは吊り橋から侵入者が訪れるということもないのですから』
くるくると腕の中でアウリーが鳴く。
「充填だけして一日ぐーたら過ごす日?」
『ええ。マグロさんに家事を任せられるように整えれば、領主様の負荷も減じられるでしょうし、なさりたいことも出来るのではありませんか?』
したいこと。
「小麦ちゃんの抜け毛でマットを織ってみたいの。きっと綺麗だと思うの」
『暖かそうですわね。夏日でも強い日差しを遮るに良さそうですから役立ちそうですわ』
「多少、目が飛んでいても?」
『冬本番までにちゃんとしたものも織れれば良いのでは?』
「あのね、ノンカンさん。こういう会話がすごくほっとする」
『ささやかな雑談ですわね』
「うん。ありがとう。あの時、声をかけてくれて、友だちになってくれて、ありがとう」
『打算ももちろんありますのよ』
「うん。それでいいと思う。お互いに居心地がいい相手であればいいと思うから不満は教えてくれれば嬉しい。聞くかどうかは別だけど」
『あら。別なんですか?』
抑揚のないノンカンさんのいつも通りに届く声がなんだかおどけて聞こえた気がした。