客分と私の立場と困惑と
日課をこなして準備をする。
魔力を測ったりいろいろ測定試験をすると通達されている分緊張する。
袋に荷物を詰める。
味塩に小麦ちゃんの食用粉、大地蜂の蜜果樽。マシュポゥの核の粉末。大ガエルのチーズ。ブリュガノーの爪。
食品が多いのは確かだけど、工芸品を作る知識も技能も暇もない。小麦ちゃんの抜け毛マットは作りたいのに!
悔しいいいい。
トエカ・マーキスは公爵家第二夫人である。
そんな彼女を南方本部最境界吊り橋守りの領主(つまりは私)の配下として迎えることになったのだがこれいかに?
いやね、魔力測定はちゃんとやったよ? 「攻撃方向には向いていませんが、結界作成や魔力充填能力は平均より高めですので問題はないでしょう」ってリア充側近様にも無表情に褒められたしね。
もちろん、報告書も頷きながら受け取ってもらったし、提出したチョコレアチーズもどきには少し表情が動いたから手ごたえも感じた!
報告中に外せない来客の報告がリア充上司様によってもたらされたのだ。
普通、リア充側近様がリア充上司様にもっていくもんじゃね?
その席になぜか私も同席を命じられ、トエカ・マーキス公爵家第二夫人、および数人のビア樽のようなオジサマ方を客分作業員として受け入れることになったのだ。
うちはマシュポゥと蜘蛛と野ねずみにワームが主な住人なんだけど、大丈夫なのかと不安にもなる。
マーキス第二夫人の当座の住まいなのだが、第三迷宮に仮小屋を作って居住してもらう方向で決定された。
部下と言っても客分なのと彼女に求められている役割の兼ね合いとなる。私としては第二迷宮でも構わないのだけど、そこは私の意志の入らないリア充側近様による決定だった。
「今は敵対しておりませんがいつ敵対するかわかりませんのであまり信用なさいませんように」
つまり、あまり内情を見せすぎないようにということだと思うんだけど、難易度高すぎくね?
よっぽど不安な表情だったのか、「第三迷宮は第一迷宮に行く移動陣がありますが、これは彼女に関しては使用不可と設定しておきます。彼女の住まいは中腹より上層地、あとでこの地に結界陣を張り安全地へ。つまり、実質彼女はこの居住地に軟禁となります。貴女の役割は食事を運ぶだけですよ」と手をかけなければよいという内容の発言をいただきました。っていうか、軟禁って言っちゃったよ。軟禁って。
軟禁決定してるマーキス第二夫人は客分作業員のオジサマ方の諸雑務処理要員。オジサマ方の食事の世話や家事という仕事をこなすことでオジサマ方の一部がマーキス第二夫人の旦那の国に出向き、土地の魔力調整をよろしくしてくれるという契約らしいのだ。
オジサマ方は掘り返され道ができたばかりの迷宮の生態に興味津々、あとは近似属性であるプティパちゃん達のことを心配して世話をしにきてくれた感じだ。ただ、半分くらい暇つぶしだと思う。
このオジサマ方はガドヴィンと自称する大地の妖精の一種だという話だ。
気性は宴会好きで気安く朗らかだが職人気質で頑固者でもあることが多いとはリア充上司様談だ。
私の感想は、「え、面倒」なんだけど、発言できないよねぇ。
「困ってらっしゃいますよね」
微笑む夫人は疑問符ではなく断定口調。
いや、まぁ、困ってるんだけどね。
オジサマ方はおっさんと酒盛りしてるからほったらかしていいと思ってるけどさ。
あっという間に山をひとつくりぬいた第三迷宮という名の空間に人が居住できる家屋が建ち、オジサマたちが夫人の意見を聞いて環境を整えていく。
シーツや布団、枕は夫人の荷物袋からごっそり出てきたし、調理器具や食器はまとめ買い食器や器具から使っていない分を提供した。
「お気遣いは不要です。私はここで強い魔力に触れて過ごすことで自己を高みに導くつもりなのです。どんな苦難もまた修行ですわ!」
「じゃ、とりあえず、あと食材ね。この粉は二種類とも水と合わせて練ってから焼けば食べられるし、調味料に野ねずみジャーキー味の塩、ここじゃあんまり保存がききそうにないから早め消費がオススメな大ガエルのチーズ、あと、大地蜂の蜜果を置いていくね。気が向いたら様子見に来るから」
やる気十分な様子に水を差さないよう、少し少ないかなと思う食材を渡し、私はその場からはなれた。
私は、彼女とどのような関係を築いていくのが一番理想的なんだろうか?
侵入者を迎える最下層ではおっさんとオジサマ方が持参した酒を煽りながら……酒臭い。
「吊り橋守りの嬢ちゃん、この場にはパティカ嬢ちゃんを据えるぞ。まだ言葉を伝える手段を持たんくらい若いが、よくしてやってくれ」
オジサマの一人の言葉にプティパちゃんじゃないんだなと苗木の葉を軽く撫でてみた。
「よろしくね。パティカちゃん」
それでも、それでも、
「オジサマ方はお酒は控えめに!!」
酒臭いわっ!