マシュポゥと出会い。リア充上司様の行動
マシュポゥ。
カサのてっぺんまでの高さが、二メートルぐらいのキノコ。じくの外側の繊維をぐねりとひきはなしその触手のうねるさまは視覚エヌジーだ。
じくとカサの間に裂けめがあり、それがぎっちり牙のならんだ口であることが理解できた。
「こんなのキノコじゃない!」
「マシュポゥですよ?」
ピヨット君のツッコミなぞ知らぬ!
「陰干しだったかなー。日干しだったかなー。両方作るかー」
集めたキノコをフクロウ樹から得た袋の上に並べ敷いて吊るす。
どのくらい吊るすものなのか、同じ反応が引き出せるのかもよくわからない。まさにうまくいって干しキノコができればめっけものだと思っている。
肉出汁スープもいいんだけれど、きのこ出汁や魚出汁も懐かしいよね。味のパターンは必要だ!
なんか、半端に甘味(蜂蜜)と塩(岩塩)は揃ってるんだけどね。
普通の食事も微妙なのにチーズケーキっぽいものは作れるってなんか、変だと思うんだ。
マグレッチェの負の遺産をこっそり味見したがゆえに(ノンカンさんには呆れられつつも注意され、ピヨット君には一時間強魔力の重要性について講義された。うん。叱責って奴)フライドポテトがすごく食べたいんだけど、素材は育てて食べてはいけないものだと言う。もう、あの説教は聴きたいと思わない!
くっ! 急募! 類似食材!
『森にマシュポゥの生息地が有りましたわ。胞子に気をつける必要はありますけれど、ヒトはよく食用に狩っていたように記憶してますわ』
ノンカンさんが「いもきのこきのこきのこいも」と歌う私を見かねたのかマシュポゥとやらの情報をくれた。『行く時はご案内しますし、ピヨットさんにも同行をお願いしましょうね』と言いながら。あれ? 危険生物?
大丈夫か。ピヨット君でいいんだし。
視覚への暴力だった生物はピヨット君による電撃魔法で戦力放棄。電撃にムチャクチャ弱いんです。とピヨット君はにこにこ。そう。属性勝ちってヤツだよね? ちょっと言えば弱いものいじめだよね? 収穫って考えたらその表現はおかしいけど。
何体か選んで持ち帰ったマシュポゥをジクとカサを分けてカサは干してジクはピヨット君の教え通り加熱して表面の繊維を剥がす。
少し焦げめのついた繊維は簡単にべろんとめくれた。食べられないワタ部分をピヨット君の指示に従って籠に入れる。端からアウリーたちが運んで行くのでピヨット君は自分がいる分をキープしていた。
なんに使うんだろう?
残ったものはごろんとした丸い物体。それは鮮やかな紫色。
「あらためて加熱します。焼くのが楽ですが、他の処理法もありますよ」
適当な短冊切りにして炒める。鮮やかな紫は加熱されて鮮やかな赤に変わった。どんな変化が起きたのかがわからないよ。キノコの核!
串がすんなり刺さるようになった頃、火からおろして味見する。追加できる味は塩か蜜かあと数種類の香草か。まずは素のまま。
マシュポゥ。
甘みの強い芋食感だった!
フクロウ樹の実油で揚げる未来が確定した。
というか、胞子が飛んだらしく、翌日の雨で大繁殖していた。あ。おっさんの肉保管庫は無事だった。プティパちゃんが仕切ってくれました。(寝起きにすまん)
環境によって味が変わるらしいと聞いた瞬間、すべての花園におき、育成し味比べを目指す私に罪はない!
プティパちゃんの依頼で各迷宮に仕込むワームの瓶を揺らしながらピヨット君は「いいですけどね」と笑う。しかたなさそうに言っているけれど、黒マシュポゥ揚げ野ねずみジャーキー塩味を食べる手が止まっていなかった現実は変わらない。
黒マシュポゥはかなりエグ苦いハズだけどなぁ?
種族の差による味覚違いは仕方ないか。と思ってたら、大ガエルのチーズもどきに大地蜂の蜜と黒マシュポゥの加熱後粉末を振りかけたモノをマグロちゃんに差し出されました。
苦いなら甘くしよう作戦は間違っていない。マグロちゃん超おりこう!
「……ぇ」
一口食べた私は言葉を失う。
不味いものを食べさせたかとオロオロしはじめたマグロちゃんを抱きしめる。
ピヨット君が不審そうに見ている。
私はおもむろに宣言する。
「大ガエルとマシュポゥ、そして大地蜂は何があっても確保で!」
「もちろんです。うまく落ち着いたら、ブリュガノーを入れたいですしね!」
力いっぱいピヨット君が賛同する。というか、「いまさら?」って表情が過ったのは見なかったことにしとく。そう言えば美味しい生態系作り目指してたね。ピヨット君。
ところで落ち着く?
ああ、生態系か。
キノコであるマシュポゥの増えすぎは困るはずだしね。
「ブリュガノーは雑食でしてキノコもワームも人も無差別に狩りますからね!」
それでも増えすぎるんじゃないかと言う私の危惧にリア充上司様が「橋むこうに増殖過剰分は転移させちまえ」と言う指示を下してきてそれは実行されることになった。
狙いはマグレッチェの負の遺産対策だということだった。
「最終むこうの戦力増強にも力を貸すことになるが、餓えて来た途端死なれるより、基礎戦力があった方がうちの連中は喜ぶしな」
リア充上司様が基本的には優しいことには気がついている。
食糧が無くなればあの場所に街が維持できないだけでリア充上司様たちには本当はなんの影響もないのに。
私を生かしたように他の誰かも生かす道を選んでる。
「じゃ! 報告日にはイロイロ試験もあるだろうが、昇給試験はねぇから! あと、雑用係人員候補との顔合わせがあるから見れる格好するなり、着替えられるよう用意しとけよ」
待ってるぜと明るく雨の中、帰っていったリア充上司様が紫マシュポゥのスライス揚げ(色は鮮やかな赤色)を全部パチっていったことに気がついて膝をつくまであと一分。
黒マシュポゥはチョコレート味でした。
あんなエグ苦いモノがミルクと蜂蜜であんなに懐かしのチョコになるなんて思いもよらなかった!