雨の日とマシュポゥ
しとしとと雨がふっている。
小麦ちゃんの訪れる気配がない。
雨の日の居場所がないと思ってるのかもしれない。
なんだか珍しい気もする雨の日。今日は日課の魔力充填もろもろの後、マグロちゃんとマシュポゥの核茹でに勤しんでいた。
マシュポゥ。
キノコ型の魔物。
シルエットだけ見るとイカであった。
えのき、いや、エリンギのようなジク。開ききっていないぼったりしたカサ。カサには個体ごとに違う模様。ジクには繊維を引き破ったような裂けめにびっしりと並ぶ牙。ジクの下からうねる何本ものアシ。それは地上移動樹上移動を可能にする。巻きついて胞子を散布し仲間を増やすそれがマシュポゥの生態。
そのアシで捕獲して捕食する姿は被害者がキノコまみれで原形をとどめていない恐怖である。
攻撃すれば衝撃で胞子を飛ばし周囲の魔力を吸収し成長する。意外と戦い難いキノコである。数の暴力って効果的だ。
ただし、電撃に弱い。ピヨット君の電撃魔法でコロコロと無力化されたマシュポゥを収穫し、指示に従ってその核を調理するに至ったのだ!
キノコなのにその核は芋風とはこれいかに?
異世界、理不尽通り越して便利だな!
核はその捕食物周囲の魔力環境によって色が異なる。もちろん、味も異なる。
はじめに口にしたのは紫の核。これはさつまいもを思い出させる甘み強めな味。焼くと鮮やかな赤色に変化した。ホックホクだった!
次が黒い核。これは加熱すると綺麗なパステルピンクに変化した。黒成分どこいった?
で、むちゃくちゃエグ苦かった。味のレパートリーが増えた、んだろうか?
オレンジ色とグレイのゼブラ柄の核は焼き加熱するとオレンジ色だけになって、なんていうか、うん。蕪っぽかった。茹でるとグレイになって、硫黄臭くて酸っぱかった。なんか間違ってると思うんだけどね!
助かるポイントとしてはシステムキッチンには高性能な換気システムもついていて不快なニオイがすぐに消える。これ超大事!
味の変化についてはすっごく予想外過ぎて苛だたしい。味の種類が増えるのは嬉しいけど、使いこなせていけるのか難易度たっかい!
ピヨット君の情報によると他の色もあるらしいけど、今回採集したものは生育環境が近いのか、おんなじカラーリングの核が大量である。レア核欲しい。放っておくと大量繁殖するのでとっとと加熱処理した。粉砕したキノコ粉からは増殖しないらしいけど、ちょっと怖い。
カサの素焼き焼き塩添えは香ばしく肉厚で醤油が欲しいと切に思った。
私がメモを書きつける横でマグロちゃんもゆらゆら筆記具を揺らしラベルに『小麦粉』『蚤』『エクストラ』『非食用』『塩』『葉』『草』『キノコ』『野ねずみ』『野ねずみ塩』『キノコ』そして1から10までの数字を書きこんでいる。
見ていて種類が増えたなぁと思う。
キノコは『キノコ』と『キノコ核』をわけてラベルを作って、混ざらないように核の加熱後カラーのラベルも作んなきゃね。
転移陣を書き込みに行くのかと思ったピヨット君も労働の後はのんびり味見してなにか書き物をしている。
「雨ですから」
和やかに微笑まれ雨ですからで済まされた。
「雨の日はあまり活動せず休養日とする習慣があるんです。おそらく街の方もそうでしょうね」
そう言ってマグロちゃんに視線を送る。マグロちゃんは何度も首を上下させて肯定していた。
「雨で視界が悪い日に変動が起これば大変ですからね。そのまま道や街が沈むなんてよくあることですし、地割れで帰れないとかもあるんですよ。変動すれば、一時的に周囲の生物たちが攻撃的に活発化しますし。危険度が上がります」
帰れない可能性が高くなる分雨の日は大人しく屋根のある場所にいるのが普通らしい。
もちろん、大ガエルのように雨で活発化する生物層もいるとのこと。「雨の中活動して体調を崩してもいけませんから」と言うピヨット君の意見に同意をした私は料理と資料作成と情報収集にあてることにしている。
この周囲はリア充上司様の力で変動の影響がないので体調を崩す以外の害はないらしい。
慌てることなく大ガエルの体液を鍋で煮込み、(大ガエルの体液はピヨット君とおっさんが適当に採取して冷蔵庫の密閉壺に溜め込んでいる。冷蔵庫の容量限界にはまだまだ余裕がある)ミルクっぽいものとチーズっぽいものを作る。
チーズっぽいものは専用の保存場をおっさんが作ってくれた。肉の貯蔵庫の隅でよかったんだけどな。
ほぼ午前中いっぱいを使ってマシュポゥ対処。
立ち込める湯気が部屋を暖める。
なんだかんだで慌ただしいとは言えない時間がホッと息をつかせる。
雨が止んだらマシュポゥのカサを干してみよう。出汁がとれたら嬉しいし。
今日のランチはマシュポゥに大ガエルのチーズっぽいものを添えて食べようか。
食生活はもっと充実させたーい!
え?
大繁殖の理由?
昨日マシュポゥ狩りに出掛けたからだよ!