プチルールと忘れちゃいけないコト。
「本部そばの森に出る出口を作ってそこまで地上を経由しない道にしたいんです」
これからの方針メインはこれに限る。
「迷わせるなら地上でもかまうまい?」
「地上には小麦ちゃんの棲家や親がいると思います。だから、地上は安全自然なもっふーランドにしたいので、侵入者は遠慮して欲しいんです!」
私はひよ様に力説していた。
おっさんもたぶんあと一カ月半はいるはずだからメイン地下ルートを掘ってもらわないと。出来れば階層違いで三ルートくらい。ちゃんと時々交差する感じで!
「ぶっ通しするだけなら三日でいけっぞ?」
おっさん、凄いな。
ぱかんとあいた口が塞がらないってこういうことだ。
第二迷宮は自宅地下の深いところ。
前任者が加工した居住区や設備区の百メートルは下。地上の森から五百メートルくらいは上だからね。自宅。しかも、垂直に。
マクベアーとピンクのボールちゃんのお部屋としても充分なスペースはあるはずなんだけど、この二匹仲がよくない。
ピヨット君は気にすることなく、マクベアーに掘らせた排泄指定場所に小麦ちゃんの非食用粉と蚤の粉末と大地蜂の幼虫を撒いていた。
「あと、これもですね」
「それナニ?」
ピヨット君はその手に小瓶をもっていた。中には白いライン。
「これは長虫の幼生です。いろいろと分解して植物の育ちやすい土を作ってくれるんですよ」
ミミズっぽい生き物らしい。資料に載ってるかな?
一匹、模写して動きっぷりとかも書き付けておく。(後で『イロイロ』がかなり広範囲に『イロイロ』だと知った)
「生態系の下支えをしてくれるはずですから、いい感じで増えてくれればいいんですけどね。大地蜂の幼虫の食糧にもなりますしね」
大地蜂の幼虫はマクベアーのごはんにもなる予定だけど、基本的に私がごはんあげてるんだよね。ピヨット君はだから、いい感じで増える予定で考えているんだろう。
そんな説明の中、ワームと大地蜂の幼虫は粉の中に沈んでいく。
ピヨット君はそのそばの土を軽く掘り返し、双葉まで育った苗を植えていく。
「プティパさんの加護はまだここにはありませんからね。育てていくしかないでしょう」
「ピンクちゃんはここに住まわせるにはマクベアーと喧嘩激しそうだしね」
抱き抱えて撫で宥めながら思い通りいかないなと思う。
「仲が悪いとは思いませんよ? お互いの力関係を明確にしようとしてるくらいでしょうね」
そうなの? と見下ろしても腕の中でふこふこしてるだけだ。
「小麦さんにも突っ込んでいって転がされてましたしね」
知らないうちに小麦ちゃんのオモチャになってたらしい。
「さてと、光石を何ヶ所かに仕込んでおきましょう。この迷宮は他場所からは独立してますし、完全地中で光源がありませんからね」
予定や現状を口にしながら魔法陣を刻んだ石を土壁に埋めていく様子を眺める。ピヨット君は働き者だ。くるくるよく労働する。
いくつか外に繋がるルートは有るけれど、この花園部分には光が射し込まない場所だ。光は必要だろう。私が見えないの困るし。
出入り口の一ヶ所はノンカンさんのテリトリー(みっちり蜘蛛の巣及び仔蜘蛛がわんさか)で、一ヶ所はチャッキー達のテリトリー(大型犬サイズのネズミが獲物を狙っている)。ココで産まれた子供達はお互いを捕食しあって数調整しているようだったりする。でも、仲が悪いわけじゃなくて、共同で狩りにも行くらしい。
で、第一迷宮の育児室に行くのは四日目を生き延びた子供達だとか。親が連れていっておいてくるらしい。第三迷宮を経由(移動陣は誰でも使える。水路でも一応繋がってるので第一迷宮より下流にあるのは確か)してここに戻って来れたら一人前なんだとか。実はハードらしい。なにせ私も位置関係は把握していない。第三迷宮とも繋がっていないので自力で地上を走破する必要があるけれど、なにが棲んでいるか私は把握できてはいないのだ。
「あ。ピヨット君」
「はい?」
「魔力吸引石と発動陣石ってひとつでも取り外したらそこが埋め戻されるまで全ての効果が発動しないようにしてね。できる?」
魔力を吸い必要に応じて発動するその回路はピヨット君によって構築されている。魔力の供給源は生物由来。ノンカンさん達や野ねずみ達。時々私やピヨット君が直接追加。侵入者が来るようになれば侵入者からも吸引する。
エネルギー供給が続くから移動陣は発動するし、迷宮内に照明機能が発動する。
「人為的に取り外された場合ですか?」
「うん。ルート上すべての供給を止めて。ノンカンさんやチャッキー達は灯りがなくても戦えるし、本部からの増援者だって基本大丈夫だと思うの。で、ノンカンさん達は率先して施設破壊者を狙うって感じで」
魔力を貯めこんだ魔石ってきらきらしていてキレイなんだよね。事実、高価な品らしいのはおっさんが言ってた。もともと転がっていたのをピヨット君が加工している分とピヨット君による持ち出し在庫である。
一個千円くらいだろうとはおっさん談である。
たとえ、それが千円の価値であろうと奪ろうとするならば、本人、そして本人以外とはいえ私にとっては一律侵入者である彼ら全体に罰を求める。
奥に行く実力があればあるほどこういう思ってもいないトラブルって好まないと思うんだよね。
奥に行くほど実害があるだろうし。灯りが消えたり、転移陣が作動しなくなるくらいだと言えば、それだけだけどね。
採ってイイものと盗ってはいけないモノがある状況って普通だよね?
「ほら、今の段階だと危険性の高い生き物も大型生物もいないし、野ねずみとか、野うさぎとかの狩場プラスアルファぐらいだからね、気楽になんでも持って帰って構わないと思われるのも困るなーって」
正義の味方でもないし、私の正義は思う存分もふもふ生活を維持する。
敵は利用価値があるならそれなりに。気に入らなければ、きっちり排除。
そこの方針だけは忘れないようにしなくちゃね。