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使い終わった試供品と前任者の地下室

 サビ猫ちゃんから貰った試供品のブラッシングブラシはあっという間に使いきった。

 私のかわいい仔猫ちゃん。小麦色の毛並みが愛らしい『小麦ちゃん』呼びかければちゃんとお返事してくれる頭の良さ。のすのす私の後を追ってくる様が愛しくて愛しくてたまらない。

 そんな小麦ちゃんが撫でてとばかりにじゃれついてくる。

「ごめん、ブラッシングブラシは回数制限使いきっちゃったんだよぅ」

 ブラッシングが気に入ったらしい小麦ちゃんはブラッシングがないことに不満そうに小屋の前のスペースで丸くなる。

 痛い思いさせたのにご褒美があげれなくてごめんね。

 本当にサビ猫ちゃんからもらった試供品のブラッシングブラシがなければこの蚤に気がつくことはなかったに違いない。

 サビ猫ちゃん、ちゃんと買うからできれば早めに来てほしいよぅ。

 手でザクザクブラッシングするのはどうも力が足りないらしいのが辛い。

 小麦ちゃん物足りなさそう……。

 それにしてもこの抜け毛の山どう始末つけるかな。

 いや、うん。毛の方は束ねて天日干しして編んで水洗いして、もう一回日向で干したらきっと良い寝具になるだろうし、うまく編んだらベッド周りだけでも素足で過ごせそうじゃない?

 うん。良い考え。

「うお。なんだ!? この毛の山と虫の死骸は!?」

 おっさんがうるさい。

 虫の死骸は目を逸らしていたのにな。

「ちょっと小麦ちゃんのブラッシングを小半日ほど」

「防衛に関する予定と、方針は?」

 えっとー。

「まだ、方向不明かなぁ」

 だって予算ないしー。ぼちぼち侵攻して来る人たちの情報は聞いてるけど、減らして直属上司の管理領に送り込むか、橋を渡った時点で発せられる警告で迎撃隊は派遣されるからそこまで持たせれば良いって言われてもなぁ。

 吊り橋の再構築は上司様の意向らしくて半年後に確実再生。目的は戦闘訓練。いや、もうやめてよねって感じが否めない。

 うーん。橋のすぐ側に転移陣張っちゃうのも手なんだよね。でもそれするとそこから逸れる連中も出るだろうし、救援来ない可能性が出るよね。

 小言が続くかと思う中、おっさんは積み上げた小麦ちゃんの抜け毛と虫の死骸を見てる。

「武術の心得があったのか」

 ちょっと、虫を目の前で解体しないでくれる?

 気持ち悪くグロいから。

「ないよ」

「じゃあ、防具は?」

「動きにくくなるからしてない。やっぱり危なかった?」

 解体された虫の牙や爪を見せつけられると意外と凶悪そうでヒィって気分になる。

 使った武器、それは果物ナイフが取り付けられた木の棒のようなもの。つまり槍だ。

 接近しすぎずブチのめす。私の戦いはここから始まるのだ。

 気合いを入れろ。

 私の大切な小麦ちゃんにつく害虫は許せない。

 つき殺してみせる!

 バレーボールぐらいのサイズが跳ねる。目標は大きいはず……、アップでそれを認識したとたん、ぶるりと体が揺れる。

 き、しょ、くわるぃいいいい!

 虫は好きでも嫌いでもなかったけど、アップはダメ。アップはダメ! もっかい繰り返すアップはダメだぁあ!

 でも、でも、小麦ちゃんのためだ。ぶち殺す!

「蚤なんぞ殲滅だぁ!」

 私の小麦ちゃんの血を吸うなんて許さなーい。

 あれ?

 サイズ的にもしかして実は、強敵?

 無我夢中で狩りって、何度か小麦ちゃんが『ぎにゃあ』と声をあげて怒ってたけれど、ニ十匹の蚤と、五塊の蚤の卵を私のかわいいもふもふ仔猫の小麦ちゃんから取り除いた!

 うん。

「頑張ったし、きっと次からはもっと上手にできると思う」

 私、頑張った。

「それでもこの量は邪魔だな。寝具用はとっておいて残りでこの土地に遺された施設を使ってみるか。使わないのはもったいないしな。ビンボー人」

 ちょっ!

「おっさん、それヒドくない!?」

「事実だ」

 おっさんはそう言って、積み上げた小麦ちゃんの抜け毛を担ぎあげ、網袋につっこんだ虫の死骸を腰に吊るし先導しはじめた。

「確か、『粉砕機』とか言ってたかな。入れたモノをなんであろうと粉々にしてしまうらしい。この土地の前任者が誤って転落して粉砕されたらしいぞ?」

「何ソレコワい」

「だから、取り扱いには注意しろよーってことだ」

 貯蔵庫に続いてると思ってた床の切り込みをガツっと持ち上げ、(私には絶対開けられないぶ厚さ)その先の階段におっさんは私を誘い込んだ。

「前任者は洞窟状の住まいを楽しんでいたらしいな」

 空気は思ったより埃っぽくはなく、むしろ青々した澄んだ空気。首を捻って周囲を見回しても土壁ばかりで理由がわからない。

「ただ、この造りだと冬場がキツいだろうから改造する必要があるな。ん?ああ、外部との空気が遮断されることなく流れているからな。さすがに奥まで雨が届くことはないがな」

 不思議そうな私に解説してくれるのはありがたい。

 冬場……?

「わからないって顔だな。来い」

 実物を見た方が早いとばかりにおっさんは小麦ちゃんの抜け毛と虫の残骸を置いて私の腕を引く。

 たぶん、ちょっと意識のかけ違いが発生している気がする。この辺りに四季があるのかって認識しただけなんだけどな。

 うねっていたり急に曲がり角が来たりでまっすぐ歩けないけれど確かに扉はなくて素通りできる道の先には植物のアーチがあった。

 アーチの向こう側には蔦だろうか?垂れ下がる緑の葉は大きい。

「言っとくが、アーチの先は崖だから近づくなよ?」

 あの先はどうなってるんだろうかと考えた私、超ヤバくね?

 前任者、自殺願望でもあったの?

「どこかでせめてドアかカーテンで空気の流れを抑えた方が良さそうな感じ」

 あー。小麦ちゃんの毛織物上手に作れるようになった日にはいいかもしれない。

 いや、たぶん、寝室の改造が先になりそうかな。

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