寝物語とピヨット君
「魔力はこの世界に生きる限り、ある限り持っているものです。もちろん、強弱、許容量、異界からの迷い客で魔力拒否体質な種がいないとは言いませんが、次世代は魔力を持つでしょうね。どこまで魔力が存在するかと言えば、この大地は魔力の海に浮かぶ木の葉のようなものです。魔力を吸い上げ植物が育ち、その植物を動物が食べ、その動物をより強い生物が食べる。魔力は強く、精製されながら蓄積していきます。世代を重ね種ごとに魔力への方向性を選んでいきます。強くなれば、生きる力が増し、寿命も伸びます。つまり、強くなるには強いモノを食べれば早いです。もしくは高魔力のものですね。難点は身体が高魔力を受け入れないケースでしょう。柔らかな薄味に慣れていた所に特濃凝縮スパイシーな焼き肉を食べるようなものですね。おなかがびっくりして吸収物ではなく、異物として排出を促すことになります。ここは段階を重ねて受け入れられる肉体改造からはじまるわけですね。粉砕食品はその点、本来より魔力が減じていて摂取しやすい分、成長の為には合理的でしょう。粉末状ですから調整しやすいですし。その分、高魔力者には物足りないと評価を受けてしまうのですけど。……聞いて、らっしゃいます?」
あ。終わった?
「聞いて、らっしゃいませんでしたね」
にこりとピヨット君が笑う。
ピヨット君の個人講座はとても長くて眠くなる。だから、復習用に教科書くださいと言いたくなる。
「まぁ良いんですが。しばらく夜のくつろぎ時間に類似の語りをいたします。翌日の予定をたてながらなんとなく聞いていてくださいね」
なんとなくでいいのか?
ピヨット君の要望で改装された自宅は山小屋に本宅っぽいちゃんとした家が併設されたものに進化した。ただし、システムキッチンは山小屋の方にあるので、私の部屋は変わらず。ピヨット君が「領主が一番良い部屋を使わないでどうするんですか」とか言ってたが、好きな部屋を使うと突っぱねた。おっさんが「先々ここも含めて改装増築するぞ」と囲炉裏にかけた肉鍋を混ぜながら言った。味は良いんだけど、闇鍋でもある。
本宅っぽい家屋を山小屋に増築する感じなのでトイレが室内に収容された。もちろん、整備用入り口は屋外だけどね。雨の日のトイレが楽になるのが地味に嬉しい。で、改築にあたってマクベアーは第二迷宮(仮称)に移した。
野ねずみと蜘蛛たちが植物の種子を持ち込み育ててくれている。先々はプティパちゃんか、プティパちゃんのお仲間に来てもらう予定だ。そしたら大地蜂も寄せれるしね。
「なんとなくでいいんですよ」
疑問が顔に出てたのか雰囲気に出てたのか、ピヨット君が頷いている。
「本当に聞くべき時にまるきり知らない情報は手のつけようがないですが、うすぼんやりでもどこかで聞いた覚えのあるものなら疑問の持ち方が変わります。今回の場合、強い生物の肉を食えば強くなれるとか、大地は揺れるとか、そのぐらいまでに簡素化できます」
正確な正解でも間違いだと断言出来るほどの間違いでもありませんけどね。と続いた。
「忘れていくと思うの」
私は記憶力に自信があるわけでなし、この世界の法則らしきものを理解するのは今までの常識がたぶん邪魔をする。
「かまわないですよ。ピヨットの説明わけワカンねぇって殴ってくるようなことがなければ問題ありません」
また、同じような説明するだけですしと嬉しそうにピヨット君が笑ってる。
「いや、教えてくれてるのに殴ってどうするの」
「本部の武力馬鹿にはありがちでした」
打てば響くように返ってきたよ。ありがちなんだ。
「うーん、それはお疲れ様」
「ありがとうございます。ピヨットの説明を殴らず聞いてくださるのはおねむ間近な弟妹やその仲間だけ! あ、父や年配の方々は聞いてくれたりもしますが。ですから、穏やかに聞いてくださってるだけでピヨットからの好感度は急上昇です。忘れてしまわれても大丈夫です。ピヨットはより説明を洗練させられる機会を喜びます!」
ピヨット君の嬉しそうな姿がなんかイタい。
リア獣上司様のトコ、脳筋主体か。
私の立場、ヤバくね?
「吊り橋守り様の任命は先の方も貴女も魔王様の任命ですから、あまり気にしなくて大丈夫ですよ」
何を、気にしなくて大丈夫なのかは笑って解説してくれなかった。