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谷底釣りとひよ様と

「ああああ」


 いや、もう言葉にならないってこういう状況だと思うんだ。




 この世界に来てたぶんはじめて魚を見たんだと思う。

 明らかに私の身長よりデカい魚。

 その鱗をおっさんがざりざり音を立てて剥いでいく。大きい鱗はてのひら大はあってちょっとした小皿のようだ。

 一匹目はフクロウたちが掴んで持っていってしまった。

 ちょっと待て!

 問答無用で粉砕コースだと!?

 今度、注意しておこうと思う。って思ってたらフクロウたちが蹴散らされ、魚は小麦ちゃんが幸せそうに奪っていった。

 うん。尻尾の影がしっかり見えたぜ。

 ああ。プリチーなお尻尾の動きよ!

 小麦ちゃんは谷底のここにはおりてこないけれど、上にはまだいるらしい。ああ、お魚あむあむしてる小麦ちゃんを眺めて癒されたーい。

 自力では到底帰れないんだよね。ノンカンさんはふわふわと川風にのって周囲を楽しんでるし、おっさんはおっさんで釣れた魚を捌いてる。

 目の前で捌かれている魚は釣りあげ三匹目にしてフクロウの襲撃を逃れた獲物。その身からはぎとられていくキラキラと宝石のように輝く鱗はなんか、トラップに使えるだろうか?

 洞窟内に仕込んだら迷わせることができるだろうか?

 それとも腐敗するだろうか?


「落とし穴の底に仕込むのにどうだろうか?」


「イイんじゃね。先端削っときゃあ致命傷にもなるだろうし、カエル仕込んでもあいつらならケガはしねぇだろ」


『壁面に仕込んで登ろうと手をかければケガを負うようにしてもよろしいですわね』


 おっさんとノンカンさんは賛成だった。つか、過激過ぎる気がするんだけどね。

 落とし穴の底には水。水中に潜れば少し流れ下った場所に続く通路へたどり着ける。その時、流されなければいけないのは五メートル。それ以上流されれば、今私たちが釣りをしているこの川のさらに下流まで流されて放り出される。息が続けば生き延びられるし、帰ることも可能。

 生き延びて、カエルの毒と攻撃肉食魚やその辺りの野生魔獣から逃れられれば。あと、身代金目当てのオイハギっぽいヒトもいるらしいから、それからも逃れなければならないらしい。

 世知辛い!


 鮮魚解体ショーを見物しながらおっさんとノンカンさんが情報をくれるのに耳を傾ける。

 二人とも……。二人?

 いや、いいだろう。二人。二人だとも!

 そう。二人は親切だ。

 エゲツない事言ってる気もするけどね!

 あ。なまぬるい笑顔すんな。おっさん!


「小物が釣れたら自分でもやってみろよ」


 おっさんが自立を促す発言。おっさんはいつまでも自分がいると思うなという方針みたいなんだけど、急にはいなくならない気はしている。

 でも、迷宮化するんなら早めにこき使わねばならないと思うんだ!

 方針が確定してないけどね!


「おまえの住んでた場所でも釣りとかやってたのか?」


 おっさんの問いかけに少し、以前を振り返る。

 釣り?

「釣りなんかしたことないよ。餌つけるのとか気持ち悪そうだし、水辺って妙な匂いがこもってたりで、ほら、服にまで臭いうつりそうで苦手だったかなぁ」

 動物も飼ったことはないし、なにかを育てたこともない。

 お金さえあれば、必要なものは手にはいったし、おとなしくしていれば、体面もあるから保護者にも守られている立場だった。私はそんなふうにしか考えられないまま流されて生きていた。

 だから、この世界に迷い込んで追い立てられてこわかった。

 どうなってもいいってどこかで思ってたのに死ぬのは嫌だった。

 死ぬのが?


 苦しいのが嫌だっただけかもしれない。



『吊り橋守り。ひよが来たっ……なっ、あっ、待たぬか!』


 上空に現れたひよ様が小麦ちゃんに戯れられて、谷底に落ちてきた。

 水しぶきが高く高くあがった。





 おっさんによって救助されたひよ様にお魚の焼き物を食べていただく。ついでに問答無用でブラッシングだ。ブラッシング。

 魔力(あい)をこめて丁寧に丁寧に。

 ふっこりふわふわをこっそり堪能する。

「小娘、顔がだらしないことになっているぞ?」

 おっさんは黙ってろ。上半身はナチュラルに裸だ。おっさんは露出狂だと思う。そんなに余分な脂肪なぞない筋肉を見せびらかしたいのか!?

 マッスルポージングが実は趣味だとかいい笑顔で言われてもあるだろうなと納得しそうだぞ!?


『吊り橋守りよ。あの大猫は守りの一匹か?』なかなかの強者と感心したようにひよ様が問いかけてくる。

 守り?

 いや、小麦ちゃんは守り、守ってくれる相手じゃなくて守りたい、守りたいと私が思った相手。


「小麦ちゃんは私の癒しです!」


 苦しいのが嫌だった。

 死ぬのがこわかった。

 怖いことは嫌だった。

 生きるのも嫌だった。

 何もかもがこわかった。

 信用したら裏切られていくだけ。

 信頼なんて棘の多い目隠し通路だ。

 なにも望まずにただ、ただ、そこにいるだけで、そこに居てくれるだけで私の心をあたたかくしてくれる。

 それが、私の小麦ちゃん!

 え?

 気まぐれ?

 だって、小麦ちゃんだもの!


 っていうか、いろいろ違い過ぎてこわがるだけ無駄なんだなぁって思ってるんだよね。

 失敗したら、終わるだけ。

 じゃあ、失敗なんかした後のことは、失敗してから考えよう!


 ああ。

 ひよ様超もっふもふに仕上がりました。



 埋もれたい。



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