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癒しのもふとはじめての釣り

 

 見上げればねずみ返しのように反った崖。足場はありはするけど、ロッククライミングの経験はない。

 強い勢いの水音がとても近い。


「腰が抜けた……」




 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふーーん。


 小麦ちゃんに埋もれて幸せ堪能していると、どんどんハッピーで知能が思考が低下していくこの至福。

 朝の日課(粉砕機に魔力叩き込んで朝食。そしてブラッシングタイム)のラストを堪能しつつ、今日の予定を思う。

 水辺の生物調査。今日の外出目的はそこだ。

 ついでにチャッキー達のブラッシングもして、連れて帰ってきた野うさぎとうまくやってるかを確認する。花園の大地蜂も気になるしね。

 もふもふパラダイスが近づいてると思うとウキウキする。




 ゴールデンレトリバーって大きいと思う。たぶん、そのくらいだろうか?


「チャッキー?」


『ぎゅぃっ』


 返事したよ。

 そのゴールデンレトリバーサイズの大ねずみは野ねずみチャッキーだった。

 開いた口が塞がらない。

 びっくりした。びっくりした。

 いや、まじびっくりしたよ?

 ノンカンさん笑いながら『バレてしまいましたわね。チャッキーさん』とか、言ってるし?


『チャッキーさんはご自身が小さいから、ご領主様にお気に召してもらったと思ってらっしゃるのですもの』


 は?

 え?

 目の前にはおっきい野ねずみ。


「ラッキー」


 ああ、ブラッシングしてもふもふ堪能するんだ〜。おっきいのも良いよねー。

 ああ。じゃあしばらく私のブラッシングタイムに参加してなかったんだ?

 時々、雰囲気違うなぁ警戒されてるのかなって気にしてたんだよね!

 別個体ゆえの個体差だったか。

 んじゃ、これまでの分もしっかりブラッシングだ!


「私、野ねずみってアレで大人だと思ってたよ」


『チャッキーさんの種族はもう少し大きくなりますわよ?』

 ちゃんと間引きますけど。とノンカンさんが笑う。

 うん。一種が増えすぎるのは良くないしね。

 そんなブラッシングとコミュニケーションタイムを経て、下を見下ろす今がある。

 ひゅうッと吹き上げてくる風は冷たい。だからといってそこに水気を感じることもない。水へいたる距離があり過ぎるのだ。


「降りっぞ」


 おっさんが私の腰を掴み、お手軽に谷へとダイブした。



 少しせり出した岩に座って釣り糸を垂れる。

 いやぁ、今動けないんだよね。

 遊園地の絶叫系は乗ったことがなかったけど、こんな感じかなぁ!

 下を見て高さを認識してしまったのがきっと敗因だろうなと思う。

 その上、すぐそばでギチギチギチギチと一匹の虫がノンカンさんに抑え込まれてる。脚が一本ないのはこの釣り糸の先に結ばれて水面ギリギリぶら下げられて風に揺れているからだ。

 おっさんが上機嫌に「コイツ、けっこう旨いんだぞ!」と嬉しそうだった。

 黒を基調に赤い模様が散っている。岩壁を這って自分より小さな生き物を狩り暮らししているというこの虫は滑らかな内臓を掬って食べるのが一番美味しい食べ方らしい。

「生きたまま?」って聞いたらおっさんがいい笑顔で「最高だな!」と返してきた。ノンカンさんも「活きは良い方がいいでしょう」って追従してたし!

 でも、勧められても生は勘弁だ!

 生きたまま、掬って食べるだなんて考えると、こう背筋が泡立つというか、こう、ぞわりと総毛立つというか、考えたくない。

 腰が抜けた状態でまだ立つのもおぼつかないのでおとなしく釣りをしているけど、動けるならこの虫から遠ざかりたいというのが現在の心境。

 だってさ。

 だってさぁ。

 この虫さぁ。

 私よりデカいんだよ!

 コワイよ!

 ノンカンさんに簀巻きにされててもコワイんだよ!

 いっそ、死んでたら諦めもついたかも知れないけど、まだ、そうまだ、生きてるんだよ!

 ああ。

 癒しのもふが欲しい。

 ノンカンさんが糸を調整しながら虫の情報を教えてくれる。


『この虫の種族名はブリュガノーと言いまして、翼人と呼ばれる空をゆく種族に愛される食材です』


「よくじん?」


『はい。領主様のように人に近い姿を持ち、同時に事務官長様のような鳥の要素も混ざり合わせた種族の呼び名ですわ』


 情報をまとめるとこの虫は翼人と呼ばれる種族に人気で生け捕り販売できれば高級食材。飼い慣らせば雑食なので防衛要員として使えるということだった。個体ごとに縄張り範囲があって侵入者に対して攻撃性が高いらしい。ただ、知能は高くないので食物連鎖の下層であるのも事実らしい。

 その上で釣り餌にも使えるとか。

 前任者がここで養殖して増やしていたんだろうとおっさんが虫の脚を一本打ち折って齧り始めたから私はもちろん、どん引きしてた。スナックっぽい食感でオススメと言われても生きたまま折って食うとか選択肢にないから!


「活き餌だからこそ、いい獲物もかかるんだぜ。ほれ、かかった!」


 おっさんが釣り竿をぐっと引き上げる。

 水飛沫と共に巨大な影が視界を埋めた。

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