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散策と使えない魔法

 

「おー。起きたか」

 おっさんがいる。

 どこに。

 私の部屋に。

「へーんたーーーい!!」

 私は迷わず声をあげた。




 朝。

 小麦ちゃんをはじめマクベアーアウリーグリームチャッキーたちのブラッシングもものの三十分(体感想定)で終わった。

 ものたりない。

 わかるだろうか?

 物足りないのだ。

 幸せそうな小麦ちゃんたちはきっといくらでも愛のブラッシングタイムを受け入れてくれるだろう。

 しかし、しかし!

 今の私にはこなさねばならない課題が多すぎる!

 ツヤふわな彼らを見ている幸せに浸っている余裕があまりないのだ!

 リア充上司様の陰謀かー!?

 くっそう。

 リアルに「ないない」と手を振ってる姿を想像してしまった。



『本当に橋むこうに行ってみるんですか?』


 ノンカンさんの言葉に私は頷く。

 町に行こうとは思わない。四十キロ以上離れてるとか言ってたし。

 マラソン距離くらいかとも思うけど、そんな単純なものの筈もない。たぶん。

 だから、自分の目で確認しておこうとも思ったのだ。

 あと、防衛協力してくれそうな生物がいないかという思いもある。

「あ、お客さん。その結び方じゃすぐ緩んでしまいますよ」

 サビ猫ちゃんが服の留めやらを修正してくれる。

 購入したての上下服を着て、皮鎧をつけて槍を携え荷物袋を背負い外套を纏う。

 きっと正しい初心冒険者のスタイルだ。

 皮鎧はリア充上司様からの初期配給品だ。ひと月前は重くて扱い難かった印象なのに今はそれほど重いとは思わないのが不思議。

 おっさんが「まだ貧弱だがちったぁ改善してんな」と腹立たしい気分になる言い方で褒めてくれた。

 そっか。

 体力ついたのか。

 文系大人し女子でもひと月頑張った結果が出たのかと思うと感動する。


 谷を渡った侵入者の行動範囲への侵入。

「ここはまだ魔王様の領地範囲内ですよ」

 サビ猫ちゃんが教えてくれる。

 ここから人の集落に近づくほどに魔獣たちは弱くなっていき、時おり野生種の群れ長とかの変異種がいるくらいだと説明された。

 小麦ちゃんは物珍しげに周囲を見回している。

 木々が密に生える森がうざったかったのか、爪研ぎがてらなぎ倒して広場をつくっていた。

 そして、気がつけばなにか小さなものを追いかけ回していた。

「ああ、きっとカンテラドラゴンですね。彼らの体当たり攻撃には気をつけてくださいね。危険ですから」

 そんな忠告だけしてサビ猫ちゃんはいそいそと別れを告げてきた。

「この小麦粉を良い価格で売って来ますね!」

 新商品を扱うことに興奮してるらしいキラキラな瞳に私はキュンキュンする。


 散策は平和だった。

 時々、ノンカンさんが野うさぎを追い立ててきて『どうぞ』とばかりな接待狩り体験をして不思議なというか、微妙な心境になったりもした。

 うん。日々の訓練は大事だっていうことはわかってる。

 野うさぎも野ねずみもチャッキー達より動きは鈍く、鹿もマクベアーより弱かった。

 つまり、私が得た認識的に森の生き物達は弱かった。


『野犬は群れで狩りをしますから気をつけてくださいね』


 ノンカンさんが油断をしないようにとばかりに忠告してくれる。

 それでも余裕を感じている私は今日の狩りを中断する。

 ここで魔法練習してもいいんじゃね?

 一撃目ダメでもなんとかなるんじゃ無いかって心境ははっきり油断以外の何者でもないと自覚はある。

 でも、ノンカンさんならフォローできんじゃね?

 ノンカンさんだし。


 世界に魔力は満ちている。

 それは自身の体も含めてだ。

 リア充側近様に貰った入門書を信じるならば。

 魔力は生命力。

 生命力はいろいろな形に変容可能で。

 それこそ変容は使い手次第の千差万別。


「私にできることはなに?」


 それは自身に問うしかない。

 でも、それって何もない自分を思い返せば一気に自信がなくなる。

 人が信じられない。自分を信じることができない。ううん。自分がなにもできないことを信じてる。

 魔力を扱うには魔力を認識して扱える自分を認識することが大事。

 使えると自分を信じることは基本中の基本。

 魔力なんてあって当たり前。使うきっかけさえあればいいと薄い本には書いてあった。

 信じるって難しい。



『んなぁおーん』


 小麦ちゃんが満足げに鳴いている。

 なにかを捕まえたんだろう。

 ああ。

 わかるだろうか?

 理屈じゃないんだ。

「小麦ちゃん、超かわいいー!」

 そう!

 小麦ちゃんはかわいい。

 そう!

 もふもふはかわいい!

 自分に自信がない?

 自分が信じられない?

 そんなことあたり前だ!

 だが、だが!

 小麦ちゃんは、フクロウ達は、もっふーずはかわいい。

 それこそがなにより大事な事実で、私は失いたくない。

 率先して敵を倒したいとかはない。

 ただ、平和にもふって暮らしたい。


「かわいいはっ! 正義だ!」



 そう。

「かわいいは、……もふもふは正義だ」

 おっさんの視線は冷たい。

「魔力枯渇は罪悪だな」

 どうやら魔力発動させて気を失った私をおっさんが回収したらしい。

 おっさん診断によると攻撃魔法や治癒魔法も私には使えないらしい。がっかりである。

 じゃあ、なにが起こったか。

「魔力を放出しただけだ」

 はい?

「だから、魔力放出しただけだ」

 はい?

「あの場所に魔力意志が残っている間はずっと、もふもふしたけだものにとっての聖域になる。狩りができない場所になったからな」

 はい?

 訳がわからない。

 おっさんがガリガリと頭を掻く。フケは落ちない。

「あの場所におけるもふもふ存在は完全に優位存在として魔力による強制力が働くんだよ。条件を細かく分析すれば破壊も可能だが、キーワードが『もふもふは正義だ』じゃ見つけるのも難しいだろう。自然解呪待ちになるだろう」

 まぁ、三日ってとこかなぁとおっさんが続けてた。

 三日間誰も来なきゃ意味なくない?

「やったことは魔力の放出に過ぎないが、それによってその場の魔力に干渉可能なんだろう。自己防衛に使えず、魔力枯渇による意識喪失必須なら使用価値はないだろうけどな」

 おっさんが一応とばかりにそんな解説を付け足した。




「つ、使えない!」



 がっかりだった。


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