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位置把握とただの洞窟に花を!

「住居のある場所からはまだまだ離れた場所だぞ。この辺」

 おっさんが呆れたようにそびえる禿げ山を指した。

 アレは家のある山じゃないらしい。「わかるかよ!?」って吠えたら「それぐらいはわかれ」と怒られた。なんか理不尽。あれ程度か丘だろうと言われた。

 山だよ! 絶対標高二千メートルとかあるって! そしたらせいぜい千がいいとこだって言われた。低くはないと思う!

 それに小麦ちゃんでびゅっびゅーんと来るから周囲を見ている余裕もないし。

 小麦ちゃんの移動力すげぇと感心して撫で回していたら「嬢ちゃんの体力がな」と苦笑された。ムカつく。

 低いよ。どうせ、体力ひくいよ!

 か弱い女子なんだから仕方ないじゃないか。もともと、アウトドア派じゃなくインドア派なんだよ。



 花園エリアを見せられてその広さにぽかーんと口を開けて見上げた。

 高い。

 高い高みから薄っすらと光りが落ちてくる。

 ひとつのエリアでありながら、丘や中二階のような張り出した場所もある。五階分ふきぬけって感じで規模が違う。

 広さは想定内だけど、高さが想定外だった。

 ちなみにまだ花はない。がらんどうのただの洞窟。ただの洞窟?

「木は成長するからな」とおっさんが笑ってる。確かにその通りだ。そうか。ここまで広さが高さが必要なんだ。

 踏み込む地面は全体的にぐずりと柔らかく水気を多分に含んでいると知れる。おっさんを見れば、

「裏の沼の土を入れて混ぜておいた。問題なさそうなら古い狩り小屋そばの井戸の水脈をここに引きずる」

 って言われたんだけど、えっと、それも料金内なのおかしくない?

 それに古い狩り小屋ってなに?

「モクレイに約束したのは俺だ」

 さいですか。

 男の矜持ってヤツ?

 それと必要経費は違うと思うんだけどな。

 あと情報が不明瞭でもやもや。私が確認していないせいもあるんだろうけど。

「俺の仕事範囲は俺が決めている。もちろん、契約時に居住エリア以外での護衛はしないとか、過剰な援助をしないとか、嬢ちゃんがしようとする事に警告以上の制止はしないとかは取り決めてある。あと、飽きたなら三カ月縛りを過ぎたら出て行くこともある。現状だと微妙なところだ。ま、この花園造りはいい暇つぶしになった!」

 まだただの洞窟だけどね!

 盛り上がった部分や柱の兼ね合いでゆっくりと遠回りしてしか行けないその中央にプティパちゃんの用意した苗木をそっと植える。

 穴を掘ってそっと、置き、土と泥をかぶせようとしたその瞬間。


 一気に根が伸びた。



 きもちわるかった。



 泥を跳ね散らかしながらうねる木の根っこだよ?

 こわいわ!

 それと同時に薄っすらと緑が広がっていく。が、種類は少ない。葉というより藻や苔だ。

 沼の中に混じっていた種子だろうか?

 花が必要だろうに花がない。

『森や広場から植える花を選ばなくてはいけませんね』

 ノンカンさんが楽しそうに何かを蒔いた。

『香草の種子とほんのすこしだけキノコの菌を糸に貼りつけてまいりましたの』

 モクレイが意思疎通できるほど馴染んだら咲かせる花も選べるようになるだろうから、今は種類を増やしましょうと提案されて、私は頷いた。

 その後、広場に咲く花を数種類選んで花園に移植。それと蚤粉末も肥料がわりにと泥に混ぜておいた。数だけはあるし。

 種子や引っこ抜いてきた物を取ってきただけの時間で苗木は若木に成長し、少し距離を置いて低木の茂みもできていたから驚いた。

 低木を覗くと棘が鋭く光っている。

 これは接近者避けかなぁ。

 手を伸ばすとわさりと棘が逸れて触れやすいように植物が配慮してくれた。って!

「プティパちゃん、無理な動きはしなくていいからね!?」

 ポンっと弾ける音が響いて、一重の大ぶりな花弁を広げたオレンジ色の花が低木に咲いた。

 ポンポンっと花が咲いて花園の名に相応しい光景を作り出していく。

 だから、無理しないでー。


 じぃぅうううううん


 そう、そんな感じの音が鼓膜を揺さぶった。

 でかい蜂がいた!

 三十センチの竹定規よりは目からお尻の棘の先の長さが明らかに勝っていそうな蜂だった。それが若木の根元に消えていく。

 は?

 消えていく?

『大地蜂ですわ。もう少し花の種類が欲しいようですがゆっくりですわね』

 一番安全な場所に巣を作るんだろうとおっさんが説明してくれた。

 モクレイの宿る木の根元は安全らしい。

 ただ、環境安定するまでは働き蜂を産んでもおそらく半数はモクレイに肥料として消費されることになるとか。先行投資だとでも言うんだろうかと呟けば、おっさんがわかってるじゃないかと言ってきた。

 うう。わかるし、生存環境や生態バランスがあるんだろうからすべてが仲良くなんて生きていけないのはどこでも一緒か。でもすぐには消化できない。

 ここはファンタジーだけど、とてもリアルだ。



 ファンタジーを感じる。

 その一因はその日の朝ブラッシングタイムにバタバタ庭仕事をして、夕方に覗いたら既に若木は果実を実らせていた。ということだろうか?

 その果実はひどく柔らかで齧るのは失敗。

 口の中に広がる甘さ以上に指や服にかかり滴った量の方が多かった。

 運ぶことはほぼ無理だが、甘味をゲットした。

 コレ、実は大地蜂の蜜らしい。どういう仕組みなんだろうか。

『数日置いた方が良さそうですわね』

 そう、ノンカンさんが笑っていた。

 早く洗い流そう。


 帰ったら寄ってきたマクベアーに舐めまわされた。

 そうか!

 甘いの好きか!


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