おしゃべりにゃんことハッピーローン
世の中には幸せ成分は複数ある。
そのうちのひとつ。
それは命のぬくもり。
人里離れた場所で見知らぬおっさん一匹と全身を埋め尽くすもふもふと私は今暮らしている。
「ああ! かわいい。かわいいよぅ。私の子猫ちゃん!」
ぐぅっと大きく伸びをする姿は超萌える。
見守っていると自分の思考力が蕩け出していくのがわかる。
「おい。商人が来たぞー」
おっさんの声が響く。ウザい。
振り返れば、極楽かという光景が待っていた。
「二足歩行にゃんこぉおおおおお」
ちょーかわいい!
サビ猫で、細い丸メガネにベスト付きコートでかわいいしかっこいい。
うわー。とーけーるー。
「お客さん、ハジメマシテ」
「しゃべったぁ」
かわいいっ。
おっさんに頭をはたかれた。
「落ちつけ」
だって、だって、二足歩行猫だよっ!?
「ケットシー商会より参りました。ボロネーゼ・サンマリャートと申します。ぜひぜひ、永のご贔屓を」
しちゃう。永のご贔屓を望みます!
しーあーわーせー!
「ケットシー、コイツビンボーだからな?」
「もちろん、ご予算に合わせてご相談に応じますとも。このような人里離れた場所ではご不便なことでしょうとも。しかも、見たところ、迷い込んで来られた異界人さま! 魔法をおぼえてらっしゃればよろしいですが、苦手な方もおられます。そんな貴女にシステムキッチンなど如何でしょうか。タッチひとつで火も熾せ、お湯も綺麗な水も清潔な保冷庫も揃っておまとめ価格五十万! お安くさせて頂きますよ」
「こいつの給料月十万な」
「おうっ。……っく。大丈夫です。分割支払い十三回一回五万も可能ですよ。利息は付いちゃいますし割引き分が減っちゃいますが、コレで予算内です。利点は一度の支払いが少なく、商いが滞ってもこのサンマリャートが月に一度訪れますよ。一応の物流が途絶えませんとも」
サビ猫ちゃんが月に一度通ってくれる、だと?
「ちょっ、それは、」
「ノったぁあああ!」
「おい、待て。落ちつけ。その十万は環境整備費も込みだぞ!? 俺の実労費は込みじゃないが、そこから食費も出すんだぞ!? 弁当貰える報告訪問は二カ月に一回だからな!」
おっさんうるさい。
「では、こちら契約書となります。サインと拇印で結構ですよ。はい。結構です。では、契約祝いに当商会の試供品を提供させて致しますね。それを本日の滞在費に代えさせて頂きます。設置は……」
「あ〜、俺がやるよ。キット寄越せや」
「では、お任せ致します。お客さんにはじっくり当商会の商品を知っていただきませんと!」
やったぁ。サビ猫ちゃんとの逢瀬が確約されたぁ!
それにしても異世界でローン制度かぁ。
「お客さんは何がお好きですか?」
「え?」
え?
私が気になったりするとか?
かわいいとは思うけど、愛でる専門だからね。種族を越えた愛じゃないから。
でもちょっとドキドキする。
「生活必需品のお好みも有るでしょうし、例えば、機能重視か、外観重視か、予算重視かによってもご紹介できる商品は変わりますから。もちろん、永のご贔屓を望みますから無茶な物を買っていただこうとも思いませんし、買い取りできる物が出来たおりには試作段階であれ、ご相談にのる心算です。……お客さん、聞いてらっしゃいます、よね?」
お髭ピクピクしててかーわーいーいー。
あー、とりあえずの予定はどうだったかな。おっさんが言ったように最低月賃金十万、二カ月に一度の報告書で増額の余地ありって状況なんだよね。
おっさんが月一万は食費と思えって言ってたっけな。だとするとしばらく使えるのは月四万。
「しばらくは予算重視かなぁ。吊り橋復旧には六ヶ月くらいかかるから、それまでに防備を備えることがお仕事らしいから。あ、かわいいブラシ」
そこにあったのは試供品のブラシ。サビ猫ちゃんがひょこひょこいろんな試供品を並べててその姿がすっごくかわいい。それでそのブラシは持ち手に肉球のワンポイントが浮き彫りされているキュートなもの。
「ふふ。お客さん、お目が高い。コレはどんなペットでも簡単ブラッシング。ふさふさ長毛種もスベスベ鱗種も、そして手のひらサイズから騎乗種まで同じ手間でブラッシングできるんですよ。こちら試供品なので十回使用限定ですがペットとのコミュニケーションを望まれるならオススメです!」
その他にもパンフレットと試供品をいくつか貰った。
ああ、サビ猫ちゃんかわいい。キミをブラッシングしたい。
「来月は回数制限のない簡単ブラッシング簡易版を買うわ!」
「おい、二万って書いてあるぞ?」
「周囲散策して売れそうなもの探し集めるわ!」
「あー、敵が出たら逃げろよ?」
おっさんは製造要員派遣なので調査行動とかの護衛にはならないのが口惜しい。おっさん強そうなのに。
異世界生活二週間目突入。私の栄養幸福成分は補充された。
やる気がどんどんわいてくる!
さぁ! いざいかん!