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第9話 勇者のスキル

 ゲグル達の襲撃以降は特に問題もなく、九郎達は予定通り四日で太陽帝国の首都に辿り着いた。

 帝都は長い城壁で囲まれた城郭都市で、スタレットの四倍は広く、無数の人々が盛んに門から出入りをしていた。


「やっぱり大きいねー」


 ファムも首都に来るのは初めてらしく、三・四階建てもある集合住宅や、その何倍も高い帝城を見上げて感嘆の声を漏らしていた。


「勇者というのはどこに居るのでしょうか?」

「とりあえず、ギルドで聞いてみようよ」


 二人は城壁の門番に場所を訪ねて、冒険者ギルドへ向かう。

 正門から歩いて直ぐの所にあった帝都のギルドは、本部だけあって建物が巨大なだけでなく、冒険者達が鍛錬をできる広い庭まであって、まるで貴族のお屋敷のようであった。


「お、おじゃまします」


 ファムは豪華な本部施設に気圧されつつも、扉を開けて中に入り、そこに居た面々を見てまた感嘆の声を上げた。


「うわー、流石はギルド本部、レベル30近い人がこんなに沢山……」


 冒険者はレベル10で新米、レベル20で中堅、レベル30でベテラン、レベル40で達人と呼ばれており、支部ではレベル30台のパーティーなど一組も居ない事さえあるのに、本部にはベテラン級が芋を洗うようにひしめいていたのだ。


「みんな強い人ばかり……誰が勇者なんだろう?」

「あれでしょうね」


 キョロキョロと探し回るファムの横で、九郎は端のテーブルに座っていた三人組の若者を指さす。

 今後の相談でもしているのか、楽しそうに談笑する彼らを、周囲の冒険者達が羨望と嫉妬の混じった眼差しで見ていたからだ。


「あっ、本当だっ!?」


 ファムは目を凝らしてステータスを眺め、九郎の推測が当たっていた事と共に、その数値に驚愕する。

 三人組のリーダーらしき金髪碧眼の美青年、その能力値があまりにも異常な値だったのだ。



 勇者ヘルド レベル:30

 HP:3014

 MP:2609

 筋力:750

 耐久:726

 敏捷:671

 器用さ:680

 魔力:693

 【スキル】

 勇者:EX、剣術:LV4、雷魔術:LV4、治癒魔術:LV3



 レベル30と若くしてベテラン級なのも驚きだが、レベル45の達人級であるレジ―と比べて、能力値が倍も高いのが明らかにおかしかった。

 彼の仲間らしき男戦士と女魔術師も見てみるが、そちらの能力値は周囲の冒険者と大差ない。

 やはり『勇者:EX』という唯一スキルを持った、彼の数値が異常なのだろう。


「スキルレベルはともかく、能力値だけならレベル50以上の英雄級だなんて……」


 まさに勇者の名に相応しく、魔王を倒せるのは彼以外にいないと、誰もが納得するステータスであった。

 そんな圧倒されて尻込みするファムを余所に、九郎は平然とした足取りで勇者達の元に歩み寄っていった。


「ようやくレベルが30まで上がった。そろそろ魔王城に向けて――」

「失礼、貴方が勇者で間違いないでしょうか」

「あぁ、そうだけど君は?」


 いきなり会話に割り込んでこられ、少し不快そうに問い返してくる勇者に、九郎は一礼して名乗り返す。


「失礼、僕は宮本九郎という者です。一つお願いがあって来ました」

「お願い? 俺達はこれから魔王討伐に向けて忙しいんだけど」

「その魔王討伐の旅に、僕も同行させて頂きたい」

「何だってっ!?」


 勇者だけでなくその仲間達も驚きの声を上げた。

 例え超越したステータスを持つ勇者といえども、魔王には勝てないのではないかと尻込みし、仲間になるのを希望した者は、今まで男戦士と女魔術師の二人だけだったからだ。


「実に勇敢な申し出だが……」


 勇者はまだ驚きが残った眼で九郎を見詰め、続いて眉をひそめる。


「仲間になりたいと言うなら、ステータスを隠すのをやめたらどうだ?」


 レジ―のようにスキルでステータスを隠していると思ったのだろう。

 初対面の人に覆面を被って挨拶するようなもので、無礼と感じたのも仕方ないが、生憎とそれは誤解であった。


「申し訳ないが、僕にステータスとやらはありません」

「ステータスがない? そんな、虫や草木だって持っているのにっ!?」


 女魔術師がゲグル達と同じような事を言って目を見開く。

 男戦士と勇者も同様に、驚いて顔を見合わせた。


「にわかに信じがたいが、仮に事実なら仲間にはできねえな」

「あぁ、魔王と戦っても無駄死にするだけだ、大人しく帰りたまえ」


 手を振って追い払う勇者の姿に、九郎の後を追いかけてきたファムが頬を膨らませた。


「ちょっと待ってよ、九郎はステータスなんか無くても――」

「ファムさん、構わないんだ」


 自分の事を思って抗議してくれたファムの口を、九郎は微笑しながら手をかざして遮る。


「荷物持ちで構いません、死にそうだったら見捨ててくれて結構です。だから魔王の元まで同行させて頂きたい」

「いや、だがな……」


 頭を下げて頼み込まれ、勇者達は困り果てる。

 魔王からの刺客や、彼らを妬んだ冒険者からの妨害も考えたが、ステータスのないハエ以下の雑魚では、勇者である自分に何もできるはずがない――と思っていたので、別に同行を許しても邪魔にはならない。

 とはいえ、自殺の手助けをするようで気分が悪く、彼らは顔を突き合わて悩んでいたのだが――


「ねえ九郎、隠さず封剣式とか見せてみたら?」


 九郎の裾を引く探検家の少女ことファムを見て、急に目の色を変えた。


「おやっ、君は治癒魔術のスキルを持っているのか?」

「えっ、うん、まだLV1だけど……」


 ファムが急に話を振られて驚きながらも頷くと、勇者達は目を輝かせて顔を寄せ合った。


「彼はともかく、彼女は役に立つんじゃないか?」

「そうね、勇者しか治癒魔術が使えないのがちょっと心配だったし」

「レベルが低いのが難点だが、薬箱代わりで勇者のMP節約にはなるし、余裕があれば道中でレベリングしてやればいいしな」


 ヒソヒソ声での話し合いを終えると、勇者は満面の笑顔を浮かべて、ファムに手を差し出した。


「分かった、君達の同行を認めよう」

「あっ、うん……」


 何か釈然としないものを感じつつ、ファムは差し出された手を握り返す。

 そして、勇者はステータスのない荷物持ちはスルーして、出口に向かって歩き出した。


「丁度これから魔王城に向かおうと相談していた所なんだ。善は急げだ、食料を買い込んで早速出発するぞ!」

「えぇ、行きましょう!」

「俺達の手で世界を救いにな!」


 男戦士と女魔術師も気合を入れて勇者の後に続く。


「私達も――って、九郎っ!?」


 ファムも追おうとして、九郎が蹲っているのを見て慌てて足を止める。


「どうしたの、お腹痛いの?」

「いえ、体調に異常はありません。ただ勇者の彼を見ていると、黒歴史が痛むというか、自己嫌悪が蘇るといいますか……」


 そう言って、苦虫を噛み殺したように顔を歪めた。


「よく分からないけど、問題ないなら行こう?」

「はい、ご心配をおかけして申し訳ない」


 九郎は頭を下げて謝罪すると、ファムと共に勇者一行の後を追った。

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