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第2話 ステータス『 』

「きゃあっ!」


 突然、背後から突き飛ばされて、探検家の少女・ファムは悲鳴を上げて倒れ込んだ。


「痛たた、いきなりどうしたの?」


 擦り剥いた膝をさすりながら振り返った彼女に、剣の切っ先が突きつけられる。


「えっ……?」


 戸惑うファムを見下ろすのは、屈強な三人の男達。

 未探査の遺跡を調査するから君の力を借りたい――そう言って、珍しい物が見たくて一人で旅をしてきたファムを仲間に誘ってきた、近くの街の冒険者達であった。


「あ、あの、これはいったい……」

「言わずとも分かってんだろ? 俺達が盗りにきたお宝は、お嬢ちゃんだったって事だよ!」


 剣を突きつけたリーダー格の剣士が、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて目論見を明かした。


「この近所には、美味い宝の眠った遺跡なんざもう残ってやしねえ」

「命懸けのモンスター退治なんて、危険で安い仕事なんざもう御免だ」

「だからこうやって、馬鹿な冒険者を騙して金を巻き上げ、ついでに奴隷として売った方が早いって寸法さ」


 三人の男達は代わる代わる説明してやりながら、ゆっくりとファムを囲んでいった。


「無駄な抵抗はするなよ。お嬢ちゃんのステータスじゃ俺達に勝てねえのは、言わなくても分かるよな?」

「……っ!」


 迫る切っ先から後ずさって逃げながら、ファムは反射的に男の能力値(ステータス)を見てしまう。



 剣士ゲグル LV:22

 HP:208

 MP:39

 筋力:102

 耐久:100

 敏捷:52

 器用さ:54

 魔力:26

 【スキル】

 剣術:LV3



 目に映るそのステータスは、彼女より倍近くもレベルが上で、筋力や耐久力が3桁に届くほど高く、剣術スキルがLV3もあった。

 遺跡探索用のレンジャー技能と、治癒魔術のスキルしか持たないファムでは、逆立ちしたって勝ち目がない。

 けれど、このまま何の抵抗もしなければ奴隷として売られてしまい、死ぬよりも悲惨な目に遭わされてしまう。


「こ、こんな事をして、冒険者ギルドが黙ってないよ!」


 彼女ら冒険者を管理する、国を超えた一大組織・冒険者ギルド。

 それは仕事の斡旋だけではなく、冒険者の地位を守るため、犯罪をおかした身内の逮捕粛清も行っているのだ。


「冒険者仲間への犯罪は縛り首だってあるんだ。だから馬鹿な真似は――」

「くくっ、あーはははっ!」


 ファムの必死の訴えは、リーダーの剣士・ゲグルの高笑いによって掻き消された。


「本当に馬鹿だなお嬢ちゃん。お前は遺跡のモンスターに襲われたって事になるんだよ。お忙しい冒険者ギルドが一々調べたりするものかよ」


 死体はモンスターに喰われたと言い張れば、証拠は何も残らない。


「それに、俺らにはちょっとした伝手があってな、冒険者一人の行方くらい簡単に揉み消せるのさ」

「そんな……」


 どんなに足掻いても助かる道はないと突きつけられ、ファムの顔に絶望が浮かぶ。


「分かったら、せいぜい大人しくしてな」

「うへへっ、大事な商品に傷をつけたりはしねえからよ」


 ゲグルの目くばせを受けて、戦士の男が下世話な笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。


「い、いやーっ!」


 必死に後ずさって逃げるが、直ぐに太い木の幹が背中に当たり、退路を断たれたファムの悲痛な叫びが、深い森の中にこだまする。

 だが、こんな人里離れた場所では、助けが来る事はない――はずであった。


「婦女暴行未遂ですね」


 凛々しい声と共に、急に横から伸びてきた手が、戦士の腕を掴み止める。


「だ、誰だっ!?」


 驚く戦士の目に映ったのは、見た事もない真っ黒い装束に身を包んだ、眼鏡をかけた青年。

 音も気配もなく唐突に現れた不思議な青年は、戦士の問いには答えず、ただ掴んだ腕を軽く捻る。

 それだけで、戦士の巨体が木の葉のように宙を舞った。


「何っ!?」

「えっ、えっ!?」


 ゲグルと仲間の魔術師、そしてファムが驚愕の声を上げる前で、戦士の体は木の幹に叩きつけられ、そのまま力を失って崩れ落ちた。


「き、君は……」


 唖然として問うファムに、青年は振り返って優しく微笑む。


「怪我はないですか?」

「う、うん、大丈夫」

「念のため確認しておきますが、君が盗人だとか、実は世界を滅ぼす魔女だとか、暴力を振るわれても仕方のない理由はあったりしますか?」

「ないよ! こいつらは私を騙して、奴隷として売ろうって……」

「そうですか、安心しました」


 先程までの恐怖と絶望が蘇り、肩を震わせるファムの姿に嘘はないと思ってくれたのか、青年は納得した様子で頷く。

 そんな彼に、仲間を投げ飛ばされたゲグルが、怒声を上げて剣の切っ先を向ける。


「テメエ、何者だっ!」

「通りすがりの迷子ですが」

「ふざけやがってっ! ギタギタに切り刻んで――」


 剣を振りかぶったゲグルの動きが、不意に止まる。

 そして、驚愕の目で青年を何度も見直したかと思うと、急に腹を抱えて笑い出した。


「はははっ、何だよこいつ。大口叩いて出てきたから、どんだけ強いのか思えば、レベルが無えじゃねえかっ!」

「何っ?」


 仲間の魔術師も驚いて少年を凝視すると、ゲグルと一緒に笑い出した。


「ははっ、マジだっ! レベルもスキルも何にも無いぞこいつ!」

「ステータスが無いとか赤ん坊以下じゃねえか! こんな雑魚に投げ飛ばされるなんざ、ムドの奴も鈍ったもんだぜ」

「えっ? えっ!?」


 ファムも戸惑いながら、改めて青年を見詰めた。

 しかし、いくら目を凝らそうとも、レベルもスキルも能力値も、全く見えなかった。

 この世界のあらゆる生物、それこそアリや雑草にすらある能力値が、何一つ無い。


「君、いったい何者なの?」


 瞳に驚愕と恐怖、そして輝く好奇心を浮かべるファムに、青年は不思議そうな顔をしながらも静かに答えた。


「宮本九郎、人の話を聞かない神様に目をつけられた、運の悪い迷子ですよ」


 そんな、ファムには全く意味が分からないが、深刻そうな境遇を。

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