試験
「―――であるからして、いくら来たばかりとはいえ――――――」
俺達は現在怒られている。
「なので、一個人として節度を持って――――――」
そう、何故か怒られている。
副ギルド長に。
「ちゃんと聞いているのっ!?」
「はいっ! ちゃんと聞いています!」
あの後、呼び出されて副ギルド長の居る部屋へと向かったのだが、部屋に入って勧められるがままに三人で椅子に腰掛けると流れるように説教が始まった。
ガテン系を返り討ちにした件だ。
大変遺憾ではあるが、どうも俺が煽ったのがいけなかったらしい。二時間くらい続いている。
元の世界でもこんなに怒られた事は無い。良く続くものだと感心してしまうが、俺も大人気無かったかなと反省する。
最初はアッシュが反論を試みたが、矛先がアッシュに行ってしまい一時間程説教されて撃沈してしまっている。
そして、現在は俺の番と言う訳だがいつ終わるのだろうか?
もう窓から射す光は橙色に染まって若干暗くなりかけている。
イリスは早々に俺の膝を枕にして寝てしまっているが、副ギルド長であるミリア氏には関係無いようだ。
因みにミリア氏は俺と同い年くらいだ。元の世界基準でだが。
高く積まれた書類と、うっすらと浮かぶ眼の下の隈が職務の過酷さを物語っている。
それなのに問題を起こした俺にぷっつんしてしまったのだろう。気持ちは分からないでも無いので受けに回るが、ガテン系にも同じくらい説教して欲しいものだ。
段々とガテン系に苛々してきたら不意に副ギルド長室の扉が開いた。
「ミリアちゃんまたカミナリ落としてるの~? 程々にしないと美人が台無しだよ」
むず痒くなるような軽薄な台詞と共に現れたのは、ザ・優男といった感じの男性だった。
「ギルド長っ!? 貴方がそれを言いますか!?!?」
おぉ、正に火に油。いや、ガソリンじゃなかろうかと思う程、みるみるミリア氏の形相が変わる。
「大体っ! ア・ナ・タがちゃんと仕事をしてくれてさえいれば私はここまで怒っていません!」
思いっきり八つ当たりじゃないか……と思ったが、口にしないだけの分別はある。
「おいおい、そりゃ八つ当たりじゃないか?」
どうやらこのギルド長と呼ばれる男性には俺のような分別は無かったようだ。
もう、般若を通り越して不動明王位の形相になったミリア氏が不意に倒れた。
「あらあら。ミリアちゃんってば、倒れる位大変ならサボっちゃえば良いのに真面目さんだな~」
ギルド長が倒れてしまったミリア氏を椅子に寝かせながらそんな事を宣う。多分、疲れも多少あるだろうが怒りがオーバーヒートしてしまって倒れたんだと思う。
「それで、君が『白紙君』かい?」
尋ねられた呼び名に心当たりが無かったのでアッシュと顔を見合わせる。
「いやね、何でも能力検査で前例の無い事があったもんだから報告が来ていたんだけど、面倒臭かったからミリアちゃんに対応を任せたんだよ。そしてさっき帰ろうとしたら、ミリアちゃんの怒鳴り声が聞こえたもので気になって覗いてみたって訳さ」
「あぁ、その件でしたら私の事で合っていますよ」
やっぱりか~等と一人納得しているが、この世界にもブラック上司が居る事に驚いた。
ちょっと話しただけだが、ミリア氏の心労が痛い程分かる。何より、部下を置いて上司が先に帰るなど言語道断だ。
「え~っと」
「キリア=タチバナという者です」
「へぇ、ミリアちゃんと一文字違いなんて運命だね~。僕はテリー=ギャラガーだよ。三十一歳独身さ!」
言葉の最後の部分はアッシュに向かって言ったのだろうが、思いきり目を逸らされている。パワー◯イザーでもしていろと思う。
騒がしかったのかイリスが目を覚ました。起き抜けだからか、目を擦りながら何か呟いている。
「ではギルド長、私の冒険者登録の件ですがどうなるんでしょう?」
「う~ん」
何やら考え事をしているのか、顎に手を当てて唸っている。
ふと、ギルド長の姿がブレた。
前方宙返りの要領で俺に向かって踵落としをするのが見えたので、立ち上がって両手を頭上で交差させる。
腕に衝撃があったが、問題無く防げた。痛みが全く無いので不思議だ。
「合格♪」
「えっと……」
突然の出来事に驚いたが、間にあった机に立ったままの状態で説明してくれた。
冒険者に登録する為には一定の基準を満たしている必要があり、それを確認するのがあの水晶球の役割なのだそうだ。
それに、ガテン系の人とやり合ったあの場にギルド長も同席していたらしく、大体の実力は分かっていたのだが今の一撃は確認の意味合いで試したとの事。
問題無く冒険者登録をしてくれると約束してくれた。
「とは言え、あんな涼しい顔で防がれるなんて思って無かったからショックだな~。僕もいよいよ鈍ったか……あ、用件はそれだけだから。もう帰っても大丈夫だよ」
「そ、そうですか。では、失礼させて頂きます」
促されたまま副ギルド長室を後にして受付へと向かう。
「凄い凄いとは思っていたがまさかこれ程とは……」
何やらアッシュがブツブツ呟いているが声をかけれる雰囲気じゃなかったのでスルーしておいた。
カウンターに向かうと、俺の受付をしてくれた人がまだ居たのでギルド長から了解を得た旨を伝えるとそのまま登録作業に移ってくれた。
「それでは、こちらがキリアさんの登録証とゴブリン討伐の報酬になります。報酬は一万七千コルなので確認して下さいね」
驚いた事に、手渡されたのは紙幣。
金・銀・銅貨だと思っていたのだが先入観が入っていたようだ。ただ、確認をと言われてもさっぱりなのだけど……。
狼狽えていた俺を見兼ねたのか説明してくれた。概ね日本の紙幣と同じ感覚みたいで安心した。
「有難うございます。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした」
「いえいえ、キリアさんなら大丈夫だと思いますがくれぐれも無茶はしないで下さいね? それと、パーティーを組む時にもまた登録が必要になるので一声掛けて下さい」
「分かりました。ご丁寧に有難うございます。それでは失礼しますね」
簡潔に物事を済ませて、心配までしてくれる受付さんには好感が持てる。エルフっぽいし機会があれば名前でも聞いておこう。
報酬をアッシュと分けようとしたら固辞された。全て俺が倒したのだから全部受け取るべきだと言って折れなかったので受け取る事にした。
冒険者ギルドを出ると、もう陽が沈んで暗くなっているが、途轍もない開放感がある。
大体ミリア氏のせいだが、あのギルド長の元で働いているのだから大目に見よう。
「さて、すっかり暗くなってしまいましたね。宿を探さないといけないのですが、何処かアッシュさんのお勧めは無いですか?」
「それなら私が世話になっている宿が良いだろう。食事の件もあるし、イリスと二人で泊まっても問題無いくらいには広いしな」
「では、そこでお願いします。アッシュさんはパトリシアさんの具合見に行かなくて良いのですか? かなり時間を取ってしまいましたし、場所を教えてくれれば先に向かっておきますので」
「すまないな。本当は宿まで送ってから見に行きたかったのだが、此処からだと丁度逆方向なので時間がかかってしまう。場所を教えるので先に向かっていてくれるか?」
是非も無しと了承して一度アッシュと別れる。三十分と経たずに目的の宿に着いたので、中に入ると元気な女の子に出迎えられた。
「いらっしゃいませ~♪ 今日はお泊りですか?」
「えぇ。こっちの子と二人でお願いします」
「かしこまりました! 二人だと~……寝台が二つある部屋が丁度空いてますね。一泊二千コルです!」
「では、そこでお願いします」
「有難うございます♪ お二人様ご案内しま~す」
あまりの元気発剌っぷりに眩しい物を見ている感覚に陥る。若いって素晴らしい。
俺の身体も十八歳なのだが……。
台帳に名前を記入して部屋に案内して貰い、中に入ると、シンプルに寝台が二つ置いてあるだけの部屋だった。
丁度、外套掛けがあったので学ランを掛けてベッドに腰掛けると当然のようにイリスが脚と脚の間に座ってきた。
「さて、アッシュさんが戻って来る間に色々聞きたい事があるんだが」
「ん? 別に良いわよぉ」
まずは、戦闘についてだ。
身体が覚えているという感覚は大体分かったが、何故隠れているゴブリンの気配が分かったのか? そして、周りの景色が一変したのに加えて何故相手の動きまで緩慢になったのか等気になった点を挙げていく。
答えは簡潔だった。全て技能のおかげらしい。今日発動したものだけでも『思考加速』『識別信号』『刀神乱舞』『痛覚遮断』『神之御手』と普通の人間がその一生を全て費やして、ようやく一つ身に付けられるかどうかという技能との事だ。所謂一種の極地で、そんな技能が後数千個も控えている。
インフレも甚だしい。
ただ、他の転生者はその人の要望になるべく合わせたオリジナルの技能を与えているので、俺が使う技能とはまたちょっと毛色が違うと言う。
魔法に関しては『術式』と呼称されていて、覚えようと思えば覚えられるが、俺が今使えるようないっそ理不尽とさえ言えるレベルまで使いこなすにはやはりそれなりの修練が必要という事だったが人並みに使えるなら充分だろう。
能力検査について聞いたら、何度も輪廻している俺には固定名称が無いので名前は勿論の事、あんな紙きれ一枚程度に収まる技能数じゃないので空白になったのだろうとの推測だ。身体能力については、『痛覚遮断』がパッシブで働いているので人間が普段無意識にかけているリミッターを外せるから固定数値化出来ないのだろうと言われた。
だが、やはりリミッターはリミッターなのでそう何度も無理ばかりしていると揺り返しが来るのであまり無茶はしないようにと言い含められた。
全ての技能は意識的に調節出来るらしいので『痛覚遮断』に関してはある程度抑える事にした。
後、ギルドで教えてもいない名前や要件が分かっていた係員の事も技能のお陰だったのか? と尋ねると、案の定『遠見遠話』の技能効果らしい。任意の相手と念話のような事が出来たり、意識すれば遠くにある物も視認可能になるというので是非使いたいものだが、風の術式が使えないと覚えられないらしい。
この技能に関しては覚えるのは簡単との事なので頃合いを見て覚えようと思う。
「まぁ何ていうか自重しない技能ばっかだな」
「霧雨君の努力の賜物なんだから別に良いんじゃなあい?」
昔の自分におざなりに感謝しつつ、他には特に気になった事は無いのでアッシュが来るまでゴロゴロする事にした。ネタバレは嫌だが、それ以外で気になる事があればまたこうして聞けば良いのだ。
しかし、イリスも同じベッドで寝ようとしたので、抱っこしてもう一つのベッドに移動させる。やれやれと自分のベッドに戻ったらまたこちらに来た。構ってほしいのだろうか?
する事も無いしなと思い、イリスの髪を弄って遊ぶ事にした。
三つ編みにしようと思って髪を弄っていたが、髪の毛が長いので向き合うような状態になっているが楽しそうに笑っている。
昔からこんな感じだったのだろうか?
「キリアさ~ん! お客さん来てるよ~? すっごい美人!!」
ノックと共にドア越しに声をかけられた。アッシュが来たのだろう。
イリスと一緒に部屋を出る。
「知らせてくれて有難う。案内してくれるかな?」
「はいよ~」
異世界の食事に不安と期待で胸がいっぱいになるが、これからはこの世界で生きていくのだ。
とんでもないゲテモノさえ無ければ大丈夫! ……な筈。と自分を鼓舞してアッシュの元へと案内して貰う―――。
PCのキーボードのXの部分にゴミが侵入してしまい、押すとちゃんと打つ事は出来るのですが感触が気持ち悪い……。
エアクリーナー的なのを通販で見つけましたがわざわざこの為だけに買うのもなぁと踏みとどまってしまいます。
だけどイリスの台詞が打ちにくすぎて困る。
爪楊枝で頑張ってますがこれが中々……。
イリスの喋り方が変わるのが先かXが壊れるのが先か!?
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ここまで売ってLでえぇやんって気付きました(苦笑)
だけどXで慣れちゃってるんですよね~。どうしたものか。