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強くてニューゲーム!  作者: それいけりょーた
4/11

簒奪者

 パトリシア嬢と別れてからアッシュの案内で、街の何処に何があるか簡単に説明を受けながら歩いていると目的の場所に辿り着いた。そう、冒険者ギルドである。

 二階建ての区役所くらいのサイズがあるので分かりやすい。

 幼女連れなので締まらないがテンプレいただきま~す! と、意気揚々としながら建物の中に入ると既に建物内が何やら騒がしかった。


「何だこの能力値は!?」

「おいおい、スキルも見た事が無い奴だ!」

「流石、旅人"様"ですねぇ」


 聞こえてくる言葉を拾うとどうやらテンプレが始まっているようだった。

 しかし、俺は入ってきたばかりだというのに早すぎじゃなかろうか?

 辺りを見回してみると、近くに居たやけにガタイの良い冒険者と目が合った。


「何だ何だぁ? 今日はやけに旅人が多いな」

「あの、すみません。これは何の騒ぎでしょうか?」

「あそこに居る旅人の能力検査の結果に皆んな驚いてるんだろうよ。旅人なんて殆どがそんなものだろうに、ルーキー共がそれを見て騒ぎ立ててやがんのさ」


 パッと見ただけで転生者だと分かるなんて、いくら多いとはいえ混沌としてるなぁと指で差された方に視線を向けると、そこにはタンクトップにチノパンのガテン系が居た。腕毛が凄い。

 しかし、何という事だ。

 先を越されていたとは。

 あそこに居るのは自分だった筈だろうとイリスを見やる。


「そ、そういえば霧雨君の前にもう一人送ってたわねぇ」


 サッと目を逸らしながら告げるイリスをジト目で責める。『だって霧雨君が異世界行きたいなんて言い出すと思わなかったし』等とぶつぶつ言っている。


「その格好、兄ちゃんも登録に来たんだろ? 受付はあそこだぜ」

「あ、ご丁寧に有難うございます」

「良いって事よ! それにしても腰が低いな。舐められないように気をつけろよ!」


 ガッハッハと豪快に笑いながら肩を叩かれるが肩が外れそうなので辞めて欲しい。

 ガタイの良い冒険者さんに教えて貰った場所を見るとアッシュがこちらに向かって歩いてきていた。


「今日はやけに騒がしいな。私の用は済んだから次はキリア殿の登録とゴブリン討伐の報告だな、こちらだ」


 どうやら、先程のやり取りの間に依頼完了の報告を済ませてきたらしい。マイペースというか何というか……。


「こちらの御仁の冒険者登録を頼みたい。後、ゴブリンの討伐報告もだ。全てこちらのキリア殿が討伐したので報酬はキリア殿に渡してくれ」

「はい。旅人の方が同じ日に登録なんて初めてですね。では、こちらの注意事項を読んで頂いて、問題無ければ下にサインをお願いします」


 受付に着くと、アッシュが取りなしてくれた。ゴブリンの耳を集めた麻袋もカウンターに置いている。

 渡された紙を見ると簡単な注意事項が書いてあった。


 日本語で。


 ……いや、分かるよ? 一つの言語を覚えるのがどれだけ大変か。

 中学~高校とサボってた俺は英語すら全く分からないし……。

 だからって、一つの世界の標準を変えてしまうのは強権が過ぎるだろう。ファンタジーさんに土下座しろ。


 内容は簡単な事ばかりだった。

 基本的に、依頼を受けてこなす分には何の問題も無さそうだったのでサインを済ませて受付の女性に渡す。耳が長いのでもしかしてエルフだろうか?


「では、キリア=タチバナさんの登録を致します。能力検査が必要なので、あちらにある水晶球に触れて能力値の取得をしてきて下さい。合わせてゴブリンの討伐報酬も用意させます」

「はい」


 示された方向を向くと、先程まで騒がれていたガテン系が居た場所だったのでそちらに向かう。

 ちょっと離れた所でまだチヤホヤされているようだ。

 オノレユルスマジと呪詛を送っていたら件のガテン系がこちらを見ていた。正確には歩いている俺とイリスの繋いだ手を見ている。

 ひょっとしてアイツも変態紳士なのだろうか?

 一瞬、目が合ったのでお返しとばかりにここ一番のドヤ顔を決める。

 ワナワナ震えてるようだ。アッシュとイリスを交互に見ている。

 イリスは町娘みたいな格好だが、地面に着きそうなくらいに伸ばした金髪と愛らしい容姿のせいで、イリスの居る空間だけ切り取ったかのような異次元の可愛いさだし、アッシュも無頓着そうだが元の世界では見た事が無いくらいの凛とした雰囲気の美人さんだ。萌え豚から見れば正に両手に華だろう。

 プギャーwwwと煽ってやりたくなるが俺のテンプレを奪ったのだ。これくらいの仕返しは良かろう。


「それではキリアさん、こちらの水晶に片手だけで良いので触れて下さい。数秒程で終わりますので」


 水晶球の隣に立った係員がこちらが声をかけるより早く喋る。何でこちらの要件と名前が分かったのだろう? 疑問に思いながらも水晶に手を乗せる。

 水晶球が明滅を始めたが数秒で止まった。

 同時に水晶球の横にある溝から一枚の紙が排出され、係の人がそれを手に取る。

 FAXみたいだな~と場違いな感想を浮かべながら待っていると『もう一度お願いします』と言われたので、言われた通り再度手を乗せる。

 先程と同じように一枚の紙が排出されたので、係の人がそれを確認して、今度は係の人が水晶に手を置いて排出された紙を確認している。


「どうしたんですか?」

「あ、いえ、普通はこの紙に技能や能力値が書き出されるのですが、何故かキリアさんの場合白紙なんです」


 言いながら見せられた二枚の紙を見比べると、一枚にはその係員の名前や『遠見遠話(コミュニケイター)』『体術』『術式・風』といった技能欄と思われる物やSTR:21、AGI:39といった身体能力っぽいものが書いてあるのに対して、もう一枚の紙は完全に白紙だ。名前すらも無い。


「こんな事は初めてなのでちょっと確認してきます。申し訳ありませんが少々お待ち頂いても構いませんか?」

「あ、はい。あちらで待っていても良いですか?」

「えぇ、大丈夫です。それでは少々お待ち下さい」


 一礼して去っていく係員を眺めながら教えておいた椅子へと向かう。


「何かすみません、アッシュさん。もし何だったら自分達の事は大丈夫なのでパトリシアさんの具合でも見てきて下さい」

「いや、構わん。そのような礼を失した行為は出来ん。それに、それだけで命を救って貰った礼を済ませるつもりは無いが、今晩の食事代は私に出させて欲しい。こちらに来たばかりで何かと不便だろう?」


 騎士の家系の所為かやけに重たく捉えられているけど、恩に着せるつもりで助けた訳でも無いので深く考えないでほしいのだが……俺を気遣ってくれるのは嬉しいが、どうしたものかと思案していると―――。


「そこな少年! オレと決闘だ!」


 俺の目の前にさっきのガテン系が居て仁王立ちしている。

 少年? と思い、後ろを見やるが冒険者達が歩いているだけで少年っぽい人は居ない。いや、一人居たのであの子の事だろうか?


「君のことだ少年!」


 今度は俺を指差している。

 何を言っているんだコイツと思ったが、良く考えると今の俺は十八歳で向こうは二十歳は超えてそうだ。俺の事かと思いながらやっぱり精神と身体の年齢がかけ離れていると不便だな~と思いつつ応じる。


「私ですか?」

「君以外に誰が居ると言うのだ!?」

「急に決闘を申し込むとは、貴殿は些か無礼ではなかろうか?」


 イケメンすぎる。

 アッシュの物言いにたじろぐガテン系だが、何か譲れない物があるのか尚も捲したてる。


「あ、貴女にじゃなくてそこの少年にオレは用があるんだ!」

「だからだな―――」


 喋りかけたアッシュを制して語りかける。


「私に用とは先程の決闘というものでしょうか? いきなり喧嘩を吹っ掛けられる理由が分からないのですが?」


 恐らく、決闘に勝ったらアッシュとイリスを寄越せとか言うのだろう。

 そんなのは『決闘』なんて高尚なモノじゃない。ただの『喧嘩』だ。


「喧嘩じゃねぇ! 決闘をしてオレが勝ったらそこの二人を解放しろ。そんな、貧相なナリで何をしたのかは知らんがどうせ碌でも無い事をしたんだろう!?」


 喧嘩どころかただの言いがかりか。

 解放と言うがイリスは俺を心配して着いて来てくれて、アッシュも自分の事を優先させるよう言ったのにこっちを気遣ってくれて着いて来ているのだ。

 二人の暖かさを虚仮にされているようで腹が立つ。


「貴様、キリア殿に今何と?」


 アッシュの方から不穏な空気が流れてくる。二人称が貴殿から貴様に変わってるのがちょっと怖い。

 イリスを見ると、呆れた顔で手をひらひらしている。どうやら好きにして良いらしい。


「アッシュさん、落ち着いて下さい。さっき冒険者登録を済ませたのにもう規則を忘れる残念な知能の方です。相手するだけ無駄でしょう」


 さっきサインした注意事項には冒険者同士の諍いは罰金で済むが、基本的に御法度だと書いてあったのでそれをダシに煽る。

 アッシュがこちらを見るが、どうやら毒気を抜かれたようだ。先程までの不穏な雰囲気は雲散霧消している。

 騒ぎを聞きつけて集まった野次馬からも嘲笑が聞こえる。


「歳下だから優しく言ってやったのに調子に乗りやがって……てめぇ、死んだな」


 声のトーンを落として、言い終わるが早いか姿勢を低くしてこちらにタックルして来た。

 最近の若者はキレやすいというが沸点低過ぎだろう。二人を巻き込まないように俺も前に出る。


 こちらの脚を刈るようなタックルをしてくる相手の両肩を両手で抑える。

 一瞬驚くような表情を見せたがもう遅い。

 丁度良い位置にある相手の顎を右膝で真上に跳ね上げると、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 二人を巻き込まないように前に出たのだが、そのせいでカウンター気味に入ったようだ。

 折れた歯が転がっているが、自業自得だと思って反省して欲しいものだ。

 場が静まりかえってしまったので居心地が悪い。冒険者達の中にギルド職員の男性が居たのでそちらに向かう。


「騒がせてしまい申し訳ありません。あちらの方が仕掛けてきたので止めたのですが、やっぱり私も罰金でしょうか?」


 書いてあった罰金の額は一万コルだ。

 貨幣価値は今の所分からないが、ゴブリンの討伐報酬で足りるか分からないので尋ねた所、止まっていた時が動き出したかのように一気に爆発した。


「見たかよ今の!?」

「向こうの奴が動いたと思ったらもう終わってやがった! 何が起きたんだ!?」

「二人共早過ぎて俺には全く見えなかったんだが……」

「あの若いのが相手のタックルを止めて顎に膝蹴りかましやがったんだよ。優男に見えるがエグい事しやがる」


 そんなに一瞬だったかな? と首を傾げていると固まっていた職員も再起動した。


「いえ、仕掛けた方が罰金なので仕掛けられた側には何もありません。証人が必要ですが、遠くから私も見ていたので止めようと近寄ったのですが、それより先に状況が動いてしまいましたからね。早く仲裁すべきだったのに申し訳ありません」


 深々と頭を下げられたのでフォローを入れておく。罰金が無くて助かった。証人が居なかったら両成敗なのかな?

 取り敢えずイリス達の元へと戻る。ガテン系の人は職員の人に運ばれていた。


「あの子カルシウムが足りてないみたいねぇ」

「かるしうむ? しかし、キリア殿には何度も驚かされるな。無手で旅人を御してしまうとは」


 アッシュの称賛と尊敬の眼差しがくすぐったい。イリスは自分で送り出したにしては扱いがぞんざい過ぎる。

 三人で腰掛けて待っていると先程の野次馬達が色々と声をかけてくれた。殆どが、凄かったといった称賛だが、中にはパーティーへのお誘いもあった。

 特に何がしたいという予定も無いので失礼にならないように断るのが大変だった。


「キリアさん、お待たせしました。副ギルド長がお呼びなので着いて来て頂けますか?」


 テ ン プ レ キ タ ー!


 ギルド長では無いのかとツッコミたくなるが、これは紛れも無いテンプレでしょう!

 気合いを入れ直して三人で職員さんに着いて行った。

一話って大体何文字ぐらいが良いんでしょう?

意識して書いてるつもりは無いのですが平均五千文字で終わる事が多い……。

ちょくちょくぶつ切りにするかドーン!と一万文字以上一気に投稿するか……執筆スピードが欲しい。

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