意外な趣味
街の人に聞いて回るとアッシュはどうやら孤児院に居るみたいだったので孤児院の場所を聞いて向かう事にした。
「孤児院ね……」
「紛争地域では割りと存在していたんだけどねぇ。霧雨君の居た島国は平和だったからあまり縁が無かったかも。どうかした?」
「いや、つくづくここは異世界なんだなぁと認識させられるよ」
日本に居た感覚としてはイリスの言う通りだが、戦争孤児という存在は幼い頃から知っていた。
何度も大々的に募金活動を行っていたり、ボランティアの一貫としてその活動の手伝いをした事もある。寧ろ、知らない人の方が少ないだろう。
ただ、身近にその存在が無かったのでどこか現実離れした話しだったが……。
「産まれながらに人は平等である。という言葉は綺麗で尊いものかもしれないけど、実際はそうではないものねぇ。人間はどうしても自分と周りを比べたがる―――そして、周りの人は持っているのに自分は同じものを持っていないと分かると嫉妬し、憎み、争いが起きる。その延長線上の最たるものが戦争ね」
「それは……」
「まぁ、争う事によって進歩する事もあるのだから一概にデメリットばかりでは無いのだけれども。でも、メリットを受ける側とデメリットを受ける側が違う人間なのが問題なのよぉ。だからどうしても格差が生まれてしまう。そして、人間は一度慣れてしまうとより良いものを求めたがる、だからその連鎖は止まらない」
何も言い返せなかった。
人の歴史は確かに戦争で彩られている。戦争によって格段に進歩した技術等数えるのが馬鹿らしくなる程に多い。それはつまり人間の欲深さをそのまま表している。
俺がネットや書籍で小説を読んだり、好きなアニメを見たりしているその時、地球のどこかでは理不尽に嘆いている人が沢山居たのだと思うと目眩がする。
日本に居る間は分からなかったが、いざ身近な話しとなるとここまで狼狽してしまう自分が情けなくなる。
「霧雨君が気に病む事は無いわぁ。アナタは昔からそう、自分の事等全く顧みずに全てを救済しようとして……」
「うん?」
「ううん、何でも無いわぁ☆ 早くアッシュと合流しましょ~」
何か含みのある言葉だったが先は聞けなかった。
俺の過去か……どんな人間だったのか気にならないでもないが、イリスの話し―――文字通り全てを見てきた彼女の妙に意識せざるを得ない不思議な力を持った話しに、少しばかり上向いてきた気分をポッキリと折られた気がして続きを促す言葉をかけれなかった。
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「だから~、こいつが悪いんだってば~」
「私は悪くないもん……」
「喧嘩はよせ。ここにいる者は皆同じ家族のようなものだろう?」
孤児院に着くいたら何やら騒がしかったので覗いてみると、どうやら子供同士の喧嘩をアッシュが仲裁しているみたいだ。
「おはよう、アッシュ」
「あぁ、キリアか。おはよう―――というかもう昼だがな」
「アッシュが先行っちゃうから探すのに時間がかかったのよぉ」
「む……それは済まなかった」
「別に気にしてないよ。俺が起きるのが遅かっただけだし―――それでこの子達は?」
喧嘩している原因を聞いてみると他愛も無い理由だった。所謂、好きな子は虐めちゃうタイプの子が手を出してそれをアッシュが宥めているみたいだ。
幼少期特有の病気みたいな物だから時間が経てば治まるので放って置いたらと言ったら何故か俺が怒られた……理不尽な。
それから、子供達に別れを告げて再度街を回る事にした。
「でも何で孤児院に居たんだ?」
「ん? あぁ、街を見て回っていたら見つけてな。キリアが居ないから依頼を探すのも何だったので、院長の手伝いをしていたのだ」
「起きるの遅くてごめん……でも何ていうかその、様になってたな」
「そ、そうか? 子供は昔から好きなんだ」
ショタコンか!? と思ったらそうでは無いようだ。
「子供は私を何度も驚かせてくれるからな。例えば、さっきの子達もキリアに教えてもらうまでは喧嘩の経緯が全く分からなくてどうしたものかと悩んでいたんだ―――放って置けというのは論外だが」
「だからそれは悪かったって……でもどうせまた虐めると思うぞ?」
「むぅ……男心とはままならん物だ。だがな、そういう一つ一つの驚きが私に色々な事を教えてくれて相手をしていて楽しい。それに子供は希望の塊だ。親を亡くしても、それでも毎日を懸命に生きる姿は胸に来るものがある、私のような者でもその助けとなれればと思うのだ」
「へぇ、アッシュは保母さんに向いてそうだな」
「ほぼさん?」
「あぁ、俺が居た世界の仕事の一つで、親が仕事をしている間に子供を預かって色々な事を教えたりして面倒を見てくれる人の事を言うんだ」
「それは確かに心惹かれる仕事ではあるな!」
うぅ……眼を輝かせているアッシュが眩しい。
保母さんなんて俺の中では大変な仕事トップ5に食い込むレベルだと思うんだが。近年では保母さんによる虐待なんかも問題になっていたし……。
まぁ、まだ付き合いは短いがアッシュが子供に手を上げる人物には見えないし、楽しいと思えるなら天職だと思う。仕事を楽しいと思える人間なんて本当に一握りだけだろうから。
それから、俺達はギルドに言って依頼を受ける事にした。
身体的な疲れは無いのだが、結局昨日は休んだ気がしなくて精神的な疲れがまだ大分残っている気がする……しかし先立つ物は必要だろう。主に金銭的に。
「それで、俺はまだギルドで依頼を受けた事が無いんだけど具体的にはどうするんだ?」
「そうだな―――あそこにある掲示板に依頼が貼り出されているから、その中から自分達がこなせそうな依頼を見繕って、受付に依頼票を持って行き受諾手続きを済ませるだけだ」
言われて、アッシュが示した掲示板を見ると人だかりが出来ていた。
「ちょっと待とうか……」
「ん? 私は構わないぞ」
それから、ほとぼりが冷めるまで三人で近くにあった椅子に腰掛けて時間を潰す事にした。
手持ち無沙汰だったので、イリスの髪型を弄る。
耳の上から毛束を取って細い三つ編みを両サイドに作り、それを後ろで結ぶ―――所謂、お嬢様結びにしてやったらアホ毛がぶんぶん唸っているので嬉しいようだ、まるで犬の尻尾みたいだな~と呆けていたらアッシュから声がかかった。
「そろそろ良いんじゃないか?」
「あぁ」
先程まで出来ていた人だかりがまばらになってきたので掲示板へと向かう。
「う~ん、どれが良いんだ?」
依頼票をざっと眺めてみたのだが、何分、初めての事なのでどれを選んで良いのか全く分からない。数が多すぎるのだ。
「そうだな……以前は独りだったので主に採取系の依頼をこなしていたのだが、採取系は簡単な分、精神的に疲れるからあまりやりたくないな」
「そうなると他にどんなのがあるんだ?」
「他には大きく分けて、討伐や護衛、緊急の三つだな。緊急依頼は、そのギルドがある街が危機的状況に陥った時に強制的に受けさせられる―――まぁ、これに関しては滅多に無いので殆ど無視して構わない。なので討伐と護衛の二つに絞られるが、護衛はしたばかりだから討伐依頼はどうだろう?」
「良いんじゃないか? 宿も五日分のお金を払ったししばらくはここで路銀を稼がないとな」
「じゃあ決まりだな。そうなると―――」
アッシュが依頼票を探し始めたので任せる事にした。
以前はしっかりとリスク計算もしていたみたいなのでそう無茶な依頼は拾ってこないだろう。やがて、良さそうなのが見つかったのか一つの依頼票を掲示板から手に取った。
「これだな! 近くにある森で黒爪熊が発見されたらしい。その討伐依頼だ」
「その黒爪熊ってどの程度強いんだ?」
「一匹一匹は普通の熊程度だ。私なら三匹までは同時に相手取れるくらいだな」
いや、熊自体結構恐ろしい生き物なのだが……元の世界なら、一匹でも銃が無ければ逃げるしか無い存在なのだがそれを三匹同時に相手しても問題ないと言うアッシュの物差しがいまいち分からない。
「だが、黒爪熊の恐ろしい所はそこでは無い。こいつ達は一匹でも見かけたら三十匹は居ると思え! と言われる程繁殖力があるのだ」
「ゴキブリみたいだな。というかその熊本当に哺乳類なのか……?」
「うん? ほにゅうるいというのが何かは分からないが、とにかくこの繁殖力が厄介でな。復数に襲われると並の冒険者なら死にかねない」
それって緊急じゃないのか?
「だから一匹辺りの討伐料が高いのだ。冒険者の間では良い儲けになるので、完璧に殺し尽くしたりせずに程良く間引いている」
「何というか逞しいな冒険者」
「何を言っているのだ、キリアも冒険者であろう。それにキリアなら恐らく余裕だと考えて選んだのだぞ」
過大評価されている気がするが、まぁこの規格外な身体なら確かに大丈夫か。ただ、実際に目の前にして戦えるか不安しかない。今までは狼やゴブリン等の自分よりも小さいサイズだったので気にした事は無かったが、ファンタジーともなれば俺より大きい魔物なんてきっと山ほど居るんだろうなと考えると気が滅入る……。
「分かった。取り敢えず適当に倒せば良いんだな? 今から行くのか?」
「あぁ、それで問題無い。イリスを宿まで送ってから向かうとするか」
「私も行くわよぉ!?」
「イリス、これは遊びでは無いのだ。お前のような子供には危険が過ぎる」
普通に三人で行くつもりになっていたが確かにアッシュの言う通りかもしれない。
中身は神様だが見た目はただの子供だ。本人は大丈夫だと言っているが、どう大丈夫なのかも良く分からないしここはアッシュに加勢しよう。
「イリスを連れて行くとアッシュも俺もお前に意識を割かれてしまうだろ? 二人なら大丈夫な場面でも守らないといけない存在が居ると危なくなるかもしれないし、ここはアッシュの言う通り宿で大人しくしておいてくれないか?」
「い~や~だ~! 私も行くったら行くのぉ!! ぜ~ったい離れない~!」
「だから―――」
俺の脚をしっかりと掴んで離さないイリスの雰囲気はどこか必死だった。出会ってからずっと、どこか神秘然とした落ち着いた雰囲気の彼女からは想像も出来ない程だ。眼にも大粒の涙が浮かんでいる。
何か理由があるのだろうか? 話せない何かが―――。
「はぁ……分かったよ。アッシュ、悪いけどイリスを連れて行っても良いかな? イリスの事は俺がどうにかして守るよ」
「しかしっ!?」
「いざという時はイリスを抱えて逃げるくらいは出来るさ。それに、この調子じゃ置いていっても俺達を追いかけてきそうだ」
「それは―――」
「そう! その通りよっ!? 絶対追いかけてやるんだからぁ!」
「むぅ……そちらの方が困るな。キリア、本当に大丈夫か?」
イリスの勢いにアッシュもたじたじのようだ。まぁ、頑張れば女性二人ぐらい抱えて逃げるぐらいはこの身体なら出来ると思う。それくらいの力はある筈だ。
「うん、どうにかするさ」
どうも、悩んでいた問題が解決してすっきりしたそれいけです(´・ω・`)
遂に……つ・い・に!
キーボードのXの部分に挟まっていだゴミが除去出来て軽快に文字が打てるようになりました♪
そのお陰か今回はイリス成分多め? いや、都合上なんですけどね。
でもこれから悩まされなくて済むと思うとテンション上がりますね(*´ω`*)