表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強くてニューゲーム!  作者: それいけりょーた
1/11

プロローグ

『世の中狂ってる』


 何度そう思っただろう。


 だが、考えるだけで実際に口にした事は一度も無い。

 理由は簡単だ。一度でも口に出してしまえばそこで何かが"終わって"しまいそうな気がして怖かったから―――。


 ただの精神論である。


 しかし、"終わって"しまった人は決して少なくないだろう。

 数えきれないほどの精神病の数々がそれを如実に表している。そしてある日生きる事を諦めて―――自殺。


 そんな負け方はしたくないとずっとずっと懸命に生きてきた。


 俺が産まれてから直ぐに両親は離婚し、父方の祖父母に引き取られてから十二年間もの間、たった一人で俺を育ててくれた祖父母が亡くなった時に初めて父親の顔を見た。


 中学に上がってからは父親と暮らし始めたが、案の定グレた俺は何度も家出を繰り返して不良仲間と連んで学校も行かずに遊んだ。

 高校に進んでから、家出はしなくなったが不登校なのは変わらなかった。

 きっと、逃げていたんだと思う。父親も何も言わなかった。


 結局、単位が足りず進級出来なくなった俺は、一度休学してアルバイトに励み『来年こそは』とやり直しを計ったものの、年下との学校生活にどうしても慣れず再度不登校児に戻った。

 そしてまた単位が足りずに留年―――。


 この頃は本当に荒れていて父親と何度も物理的に喧嘩した。

 自分が悪いのは分かっていたが、それを認められなくて父親の所為にしか出来ず本気で家を出て歳を誤魔化して夜の仕事を始めた。


 所謂、ホストだ。二十歳まで続けたが、ちゃんとした就職先を探す事を決意した俺はホストを辞めて、就職先が見つかるまで繋ぎで販売職のアルバイトを始める。

 しかし、生来の流されやすい性格のお陰であれよあれよ正社員になり、二十五歳になる頃にはお人好しさにつけこまれて中間管理職になっていた。

 正社員になった当時、この言葉は流行っておらず余り意識した事は無かったのだが、就職したこの会社がとんでもない『ブラック企業』だったのだ。定時? ナニソレオイシイノ? 状態で、十六時間労働余裕です! といった具合に飼い慣らされていた上、勤務先が都市部だった為、低賃金の俺に都市部の家賃なんて払えるはずも無く……。

 隣の県の安アパートから往復四時間かけて通っていたので、正に『寝るだけ』に家に帰ってる状態だった。

 中間管理職に昇格しても雀の涙程しか昇給しなかったのでその生活は変わらなかったが、学生時代の友人と疎遠になっていた俺にはたまの休みに観るアニメやラノベだけが心のオアシスとかいうエリート社畜に育っていた。


 直ぐに愚痴を零す部下を宥めたり、無茶な予算を押し付けてくる上司になんとか応えたりしている内に気付けばアラサーになっていた訳で―――。


 まだ暑さの残る九月の終わり頃、いつものように仕事を終えて家に帰って直ぐお風呂に入って疲れを洗い流してベッドへと直行する。


「何とか今月分の予算は達成したし、明日は休みだしで今日はぐっすり眠れるな~。明日は昼くらいにアラームセットしておいてアニメの消化に勤しむかぁ」


 独り言ちながら『会社から電話かかってきませんように』と心の中で祈り、スマホのアラームをお昼に設定する。

 今月も上からの予算を達成出来た事に安心して目を閉じると、程なくして眠気がやって来たのでそのまま眠気に身を委ね意識をシャットダウン―――したつもりだったのだが、急激に覚めた意識に違和感を感じつつも身体を起こしながら目を開ける。


「何処だここ?」


 辺りを見回すとそこは見慣れた自分の部屋ではなく、ずっと見ていると距離感が狂いそうになる暗闇が広がるだけだった。

 気付けば寝具の類いや枕元に置いてあったスマホも無くなっている。


「夢にしちゃあやけに現実感たっぷ―――」

「おかえりなさぁい。ア・ナ・タ」


 言葉を遮りながら背中に抱きついてきた存在を慌てて確認する。


「ちょっ!? だ、誰ですか急に!」

「うふふ~。だぁれだ♪」


 俺の知ってる『だ~れだ?』はこんなんじゃない。

 後ろから俺の身体を掻き抱いて頬に自分の頬を当ててスリスリされている態勢の為か、相手の顔が見えない。声と背中に当たる柔らかい感触と甘い匂いから察するに女性なのは間違いないだろうが、こんな事をする相手に心当たりが無い。

 訓練されたエリート萌え豚である自分に惨事元でそんな相手は居ないのだ。

 二次元には三桁に届く程の嫁が居るのだが......。


「と、取り敢えず離れて下さい!」


 前に回されている相手の手を右手で無理矢理剥がして、左手を使って相手の肩を掴み後ろへと向き直る―――とそこに居たのは目の覚めるような綺麗な金髪で巨乳の……大事な事なのでもう一度言うが『金髪で巨乳』の女性であった。


「……お、おぅふ」

「乱暴ねぇ。そんなに変な顔してどうしたの~?」


 相当変な顔になっていただろう。

 金髪巨乳は何度か目にする機会はあったものの、目の前に居る女性の前では今迄の金髪巨乳の言葉の最後に(笑)が入るくらい暴力的な美しさと神秘的な雰囲気を放っていた。

 だが、ふと冷静に考えてこんな知り合いが居たら忘れる訳ないだろうと現状把握に努める事にする。


「あ、えっと、どちら様でしょうか?」


 俺の問いかけにぽかんとした顔をしているが、そんな顔もとても魅力的で何時までも見ていたくなる。


「えっと……私は立花霧雨(たちばな きりあ)と言う者なんですが、良かったらお名前をお伺いしても?」

「……覚えてないのぉ?」

「はぁ……申し訳ないですが、存じ上げておりません。というか、ここは一体何処なんでしょう? 自分の部屋で寝たつもりなのですが」


 こんな目立つ容姿の知り合いが居たら忘れる訳が無いだろうと受け応えする。

 それにまず状況が良く分らない。自分の部屋で寝たつもりが変に意識が冴えてしまい、起きたら急に見知らぬ場所で、更に謎の美女に抱きつかれるというフルコンボだ。


 しかし、そんな俺の逡巡はつゆ知らずとばかりに美女から追加で爆弾が落とされる―――。


「霧雨君死んで戻ってきたのよぉ?」

「……わっつ?」

「だからぁーーー」


 突拍子も無い話しだが彼女曰く、俺は死んだという。しかも死因は『過労死』だそうだ。

 夢であってほしいのだが本当らしくて、頬を抓っても両手で頬をどんなに強く叩いても―――終いには彼女にグーで殴って貰っても一向に目覚める気配は無い。

 余談だが、彼女のパンチは全然痛くなくて逆に幸せな気持ちにさせられた。『幸せパンチ』と名付けよう。


 正直、自分が死んだという事は現実味が無さ過ぎて俄かに信じ難い反面『そんなもんか』と心の何処かで納得していた。

 つまらない人生だったと思う。

 何も愛さず、積み上げずに生きてきたので

 未練と呼べるものがおよそ何も無いからだろう。

 そんなお陰で取り乱す事なく話しの続きを促すが、その後に語られた事の方が驚かされた。


 目の前の金髪巨乳は所謂『神様』で、俺は天地創造の折にその神様が手ずから作った原初の人間だという。

 なので、神様のお気に入りである俺は何度も死んではその記憶をそのままに輪廻を繰り返していたのだ。

 歴史上の殆どの偉人が俺の転生元らしい。とんだチートである。


「それで、何で今回はその……何ていうか地味だったんですか?」

「も~、その他人行儀な感じ辞めてよぉ! 私はこんなに好き好きしてるのにバカみたいじゃなぁい」


 実は話してる間に段々近寄ってきて、今では最初のように後ろから抱きつかれて俺の肩に顔を乗せた状態で座って話している。

 こんな美女に好意を寄せられるのは嬉しいのだが、何分、覚えてないので何処か付き合っている彼女に元カレの自慢話をされているような複雑な気分だ。ホストをしていた時に喋ってもいない新規のお客から顔がタイプだからという理由だけで指名を貰った時のような気まずさもある。


「じゃあ、普通に話すけど……何で今回はこんな何処にでも居そうな一般人になったんだ?」

「それはアナタの要望ねぇ。『今度はハードモードが良い!』なぁんて言うから、記憶や技能の引き継ぎはせずに生まれ変わったのよ~☆」


 ギュウと強く抱きしめながら俺の肩に顔をスリスリしてそんな事を言うものだから背中が更に幸せな事になっている。

 しかし、一つ前回の自分に言いたい。


『馬鹿じゃねぇの?』と。


 人生とかいうクソゲーの難易度選択出来るなら余裕でイージーモードを選ぶだろう。

 寧ろ、強くてニューゲームすら選択肢にあるのに何故ハードモードを選ぶのか? 沸々と怒りがこみ上げてくるがゲームとして考えて、俺なら取り敢えず全難易度クリアするなぁと思うと溜飲は下がった。"クリア"出来たのかは些か疑問だが―――。


「成る程良く分らん。しかし、何で前回以前の事を思い出せないんだ?」


 普通なら死んで戻れば記憶は思い出すんじゃなかろうか? と視線を肩にある神様に向けると全力で逸らされた。


「おい?」

「そのぉ、何と言いますか~……。今回が初めてのパターンだったから、まさか思い出せないなんて思ってなくてですねぇ」

「つまり?」

「霧雨君的に言わせてみれば、うっかりゲームのセーブデータを消してしまった感じねぇ☆」


 努めて明るく振舞う神様の頭を、片手でがっしりとホールドしてそのままアイアンクローをお見舞いしてやった―――。


「まぁ事情は大体呑み込んだ。それで次の生まれ変わりについてなんだが、記憶は取り敢えず引き継ぐとして何処に生まれ変わりたいとか選べるのか?」

「うぅ……痛い。ある程度は大丈夫よぉ」

「それじゃ地球以外で。剣と魔法溢れるファンタジーな所が良いな。後、出来たら生まれ変わるよりそのまま行きたい」


 まさか自分が直面すると思わなんだが、ここはやはり異世界転生だろう。

 もうあんな生き辛い世界はお断りなので駄目元で聞いてみたのだが―――。


「えぇ~……。面倒臭いわぁ」

「無理ではないのか。何が面倒臭いんだ?」

「線……と言うより"軸"が違うから面倒なのよ~。やって出来なくはないけど、アッチ側に行くと今後一切コッチ側に戻れなくなるのよぉ? 文明だって遅れてるから何かと不便だしぃ」

「全然構わないよ。向こうに行く際に何かチートなスキルとか貰える?」

「あはは☆ 存在が反則なんだから大丈夫じゃなぁい?」


 確かに、チートかもしれないが今回の俺はただの一般人だしそういう類のものが無ければ行った側から即死だろうと告げると、意外な事に技能に関しては引き継ぎしたいなら出来るとの事で、こと戦闘に関しては問題無いという。

 しかし、魔法についてはこちら側の世界では覚えていないのであちら側で一から覚える必要があるらしい。


「へ~。それは良かったと言うべきか。具体的にはどの程度戦えるんだ?」

「邪魔する奴は指先一つでダウンさせれる程度には戦えるわねぇ♪」

「何処の世紀末救世主だよ……俺はあんなに筋肉モリモリじゃないんだけど?」

「あらぁ? 自分の力が無くても相手の力を利用すれば良いだけじゃない」

「そんな、パンが無ければケーキを食べれば良いみたいに言われてもピンと来ないんだが?」

「まぁ、向こうに行った側から死ぬような事にはならないから安心なさぁい」


 神様から太鼓判を押されるなら問題はないだろう。と取り敢えず納得する事にしたが、そんなものはどうでも良いのだ! やはり転生モノといえばチートなスキルで並み居る敵を千切っては投げ千切っては投げというのがテンプレでしょう!


「それにぃ、私からそんな恩恵与えちゃうと"個"としてのリソースが全部それに割り振られちゃうから、それ以外の技能を得たいと思っても人並み程度にしか上達しないから良い事ばかりって訳でも無いのよね~。不思議と皆欲しがるのだけれど」

「どう足掻いても一芸特化にしかならないって訳ね。というか俺以外にも居るのか?」

「戯れ程度に創造した世界だけど、神様としては放置するのも憚られるしねぇ。人間が滅びないようにちゃんと介入してるのよ~?」


 話しを聞けば最初はこちら側のように順調に発達していったそうなのだが、やはり人同士での争いが無くならなかったのでちょっと違うアプローチをかけてみようと共通の敵として魔物を創造したという。

 しかし、魔物が強過ぎたのか簡単に滅びかけそうだったのでこちら側から恩恵を与えた上で人間を送り出してバランスを取ったら、人同士の争いが復活したので魔物の上位存在として魔族を放り投げたらまた滅びかけたので再度こちら側から―――と、イタチごっこになってしまって今ではかなり混沌としているらしい。彼女の頭が悪いのか、争いを辞めない人間の業が深いのか……恐らく後者だろう。


「作りの雑なゲームみたいだな。生きていけるのか不安になってきた……。やっぱり分かりやすいチートがあった方が良いんじゃないのか?」

「大丈夫って言ってるのにぃ……そうねぇ、ゲームみたいな感覚で言うとスキルが最大百あるとして~、一つのスキルを極めているキャラを先に送り出した子達とするとぉ、霧雨君は全部のスキルが極まってるけど非アクティブ状態になっていて、使おうと思えば直ぐアクティブに出来るといったところねぇ」

「……チートここに極まれりって感じだな。そうか、百個もスキルとして覚えてるのか。凄いな前の俺」

「あ! 百ってのは比喩よぉ。実際には魔法以外、全ての技能が非アクティブ状態だから数えるのが面倒なだけで億ちょっと手前くらいはあるかな♪」


 絶句するしかなかった。


 途方も無い話しだが、歴史上の偉人達にアニメに出てくるようなそんな分かりやすいチートは無かったはずだが―――尋ねてみるとその疑問は氷解した。


 文献が残っていないだけで、天地開闢から俺は存在していたのだ。語られていない時代にそういった非常識な技能を使って現人神として崇拝されたり、語られている内では神話の一部として今でも残っているらしい。

 自分のやった出来事が後世に語り継がれていると分かって、そこからは自重したというが無茶苦茶である。


「行った側から死ぬような事が無いってのはよ~く分かった。向こうでも自重しないと面倒そうだな」

「そうねぇ。ある程度は自重して欲しいと思ってるけど今迄通りアナタの裁量に任せるわぁ」

「雑だな」


 思わず苦笑が溢れると何故かまた抱きしめられた。

 どうしたのかと問いかけると『昔からそのはにかんだ笑顔が好き』と言われたが、恐らく昔からこの調子なんだろう。はにかむというよりは苦笑なのだが―――。


「色々説明有難う。じゃあ取り敢えず向こうに送ってくれよ」

「相変わらず気楽ねぇ。もっと向こうの話しとか聞きたくないの~?」

「向こうに行ってから考えるさ。行く前に聞いちゃうと楽しみが減りそうだし……そういえば話す内容が唐突すぎて忘れてたけど名前聞いてなかったな」


 俺の言葉を聞いて一瞬キョトンとした顔になったがまた直ぐに笑顔に戻った。


「ふふっ☆ イリスよぉ。ちゃんと愛を込めて呼んでねぇ。じゃ、また後で♪」

「えっ―――」


 目を開けていられなくなる程の光に俺の言葉は続かなかった。

初執筆です!

一人称視点で書いていますが難しい……。

かといって三人称視点もアレなんですよね~。

更新は不定期ですが、毎日投稿出来るように頑張りますので生暖かく見守ってあげて下さいm(_ _)m

感想返しはコミュ障&豆腐メンタルなのでしないと思いますがしっかり読みますので誤字脱字報告等もじゃんじゃんお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ