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どうやら世界が繋がったらしい  作者: 天城 在禾
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拓真はその手を振り払った。

自分が無能な姉に心配されていることが無性に腹立たしかった。


「うるさい。無能のくせに。姉面すんな」

「…あー、はいはい。悪いな。怪我はないか?」

「見て分からないのか?」

「…うん、無さそうだな。じゃ、私は避難者を誘導させてくるから。もうこの中にはさっきのようなやつはいないと思うけど、一応注意だけはしとけよ」


姉は拓真を見てぎこちない笑みを浮かべ、それから教会を出て行った。

高橋が駆け寄ってきて心配してくれているが、それにマトモに返すことができない。

腹立たしい。

それ以上に恥ずかしい。

あんな無能に心配されて。

そんな拓真の内面に気付かない高橋が、横で姉の話を始めた。


「なぁ、あの人拓真の姉さんなのか?」

「…まぁな」

「すげぇんだな!一瞬で拓真の前に出てさ。あんなデカい鎌振り回してるし!」

「…知らねぇ」

「え?」

「あいつは!全然すげぇやつじゃねぇんだよ!勾槻家の恥曝しだ!」


拓真は思わずそう口にした。

隣で高橋が唖然とするのが分かったが、この苛立ちを止めることができそうになかった。


「…悪い。ちょっと気が動転してるみたいだ」

「…そ、だよな。悪い。俺こそ」


友人にこんな風に気を使わせて、自分が恥ずかしかった。

普段は余裕ぶって、周りを引っ張っていくのが当たり前だった拓真には、怒鳴ったことが余計にプライドを傷つけた。

周りから腫れ物に触るような態度を向けられ、また苛立ちが募る。

そんな中、姉が人を連れて帰ってきた。

姉が連れてきたのは性別も歳もバラバラな集団で、老人も居れば、幼稚園児ほどの子供もいる。


「悪い、この人達を入れてほしい。食糧なんかは私も収集してくるし、彼らの分はあまり気にしないでくれ」


姉に促され、避難者たちは恐る恐る教会へ足を踏み入れた。

学校の行事として地域のボランティアに参加したことがあるが、何人か見たことのある人物がいたので、地元住民だと思われる。


「拓真兄さん」

「…なんだよ」


姉を離れたところから見ていた拓真に二つ年下の真美が話し掛けてきた。


「…あれ、本当に恭禍なんでしょうか…?」

「…さぁな。もしかしたら化け物かもな」

「そ、それなら大変じゃないですかっ。あの避難者とかいうのも化け物なんじゃ…」


オドオドとした話し方は拓真を少し苛立たせるが、同じ血を半分持つ妹のことを拓真はそこそこ気に入っていた。

何よりも、この妹は拓真のことを尊敬してくれている。


「化け物でもやることは一緒だ。ぶっ殺せばいい」

「けど…」

「心配するな。真美のことは俺が守ってやるから」

「…はい!!」









拓真や真美のそんな様子を、恭禍は見ていた。

避難者たちは学生に誘導され、食糧や水分などを摂取しに奥へ消えた。

それを見送る恭禍に、扉を開ける役割をした少年が話し掛けてきた。


「あの!拓真のお姉さん!」

「…あぁ。恭禍でいいぞ。君は?」

「えっと、高橋大貴です!恭禍さんは何か飲みませんか?それに腹も減ってるんじゃ…」

「そうだな…水分だけ貰えるか?」


高橋と名乗った少年は、元々用意していたらしい水を恭禍に渡してくれた。

恭禍はペットボトルの半分を飲み、一度息をついた。


「恭禍さんはここにいてくれるんですか?」

「んー。分からん。どーだろうな。とりあえず食糧の調達はしてくるつもりだけど」

「恭禍さんがいてくれたら安心です!お願いします、ここで俺らと一緒に戦ってください!」

「…まぁ、考えとくわ。私もいろいろやることがあるから」

「そうですか…残念です」


高橋はしょんぼりと肩を落とした。

恭禍はとくに何も言わず、ペットボトルの水を飲みきった。

そのままペットボトルをサクレにぶつけた。

サクレは跳ね返すことなく、ペットボトルを吸収する。

その不思議な光景は、下を向く高橋の視界には入らなかった。


「…さて、と。少しだけ寝たい。アルクス、教会の護衛は頼んだぞ」


恭禍は教会の扉をしっかりと閉じたことを確認し、その扉にアルクスを立てかけた。

そして扉の直ぐ横に座り込み、かくん、と頭を落とした。




何度も夢を見る。

帰る選択をした夢を。


そして、自問自答する。


なぜ私はこちら世界に帰って来たいのか?

…向こうで得られた力で、周りに認めて貰いたいから。

それでいいのか?

…いい。無能と呼ばれるのはもう嫌だ。

だが、そんな力で認められるものか?

…きっと認めてもらえる。私は強い、強いんだ。兄だって、弟妹たちだって束になってかかって来たって私には勝てないんだから。


…でも。


そんな力、認められていいの?




恭禍は目をあけた。

顔を上げ、塞がれていない小さな窓から外を見た。

来た当初は真上にあった太陽が、少し傾いていた。

夏至まであと1ヶ月ほどだ。

大分日は長くなったと思われる。

恭禍は少しすっきりとした頭と対照にギシギシする身体を持ち上げ、ぐっと身体を伸ばす。

ストレッチして硬直した筋肉を引き伸ばし、ほぐしておく。

恭禍が起きたことに気付いた高橋が寄ってきた。


「恭禍さん」

「おはよー、高橋君」

「あ、おはようございます!ちゃんとベッドとかで寝た方がいいんじゃないですか?ここ、地下にそういう部屋ありますよ?」

「平気。今布団入ったら一生出れねぇ気するし」

「疲れてるんですよね、やっぱ…」


恭禍は高橋の反応に苦笑した。

今布団に入ったら一生出られない気がするのは事実だ。

気がするどころか多分一生出られないだろう。

今深い眠りにつくのは魔力を相当消費している恭禍にとって自殺行為だ。

夢の世界から帰って来られなくなる。

恭禍は異形から得た赤い石をズボンのポケットから取り出した。


「あ、それ…」

「ん?高橋君、これ持ってんの?」

「二つくらい…珍しい石だったんで」

「それ貰ってもいい?」

「ど、どうぞ!!」


高橋はゴソゴソとズボンを探り、二つほどの赤い石を恭禍に渡した。


「ありがと。いやー、助かったわ。誰か他にもいるかな?」

「探して来ます!」


恭禍の言葉に高橋はサッと生徒の方へ向かって行った。

暫くして高橋は帰ってきた。

両手に幾つもの赤い石を乗せている。


「どうぞ!!」

「ありがと」

「それどうするんです?」

「食べる」

「へぇ…って、食べる!?」

「あんたらは食べんなよ。ただの毒だから。私が食べるのはこの武器を扱うためだけだ」


そう言って、恭禍はがりっと石を噛む。

相変わらずの苦さに恭禍は顔をしかめる。

高橋が心配そうな顔をしたが、恭禍は大丈夫だというように手を振った。

石のおかげで、身体の軋みが無くなり、恭禍はクローディアをクルリと回した。


「ちょっと出かけてくる。じゃ」


扉にたててあるアルクスを掴み、恭禍は外へ出た。



 

 

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