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どうやら世界が繋がったらしい  作者: 天城 在禾
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櫻井は少女の行動を見て、言葉を失った。

一般人が知り得ない機械を容易く扱い、なんとイギリスで英雄視されているジュリアス=ハイドと連絡を取った。

しかも、仲が良さそうに。

かつ、参謀と呼ばれる野坂涼斗とも普通に話を始める。


「櫻井…どうした?」


後を追ってきた松井が櫻井を呼ぶ。


「…松井…彼女は何者だ?」

「本人から聞いてくれ」

「彼女はあのジュリアス=ハイドと野坂涼斗と話をしてるんだぞ!?」

「…ジュリアス=ハイドって…あのイギリスの英雄か!?」


ジュリアス=ハイド。

過去に何度もイギリスでのテロを未然に防ぎ、世界からの評価も高い。

一週間ほど行方不明になったが、復帰後はより一層イギリスのために尽力したという。

アメリカからの要請でジュリアスは何度も紛争に駆り出されたが、彼は一人も殺すことなく紛争を収めている。

野坂涼斗はアメリカのFBIで活躍する新人の工作員で、八カ国以上の言語を操るという。

野坂涼斗とジュリアス=ハイドが大学の同級生で親友だったという話は有名だ。

その英雄たちと普通に会話する少女。

他の研究員たちもそれに気付いて顔を強ばらせた。


「…もしかして、彼女が京都を…」

「京都?」

「あぁ、京都は被害が極端に少ない。総理も京都へ非難するらしい。大体の人間が京都へ向かっている」

「…有り得るだろうな。彼女は俺らが使えない不思議な力も使うし、不思議な武器も持っている」


松井の説明に、櫻井ははじめて少女の背負う大剣に気付いた。そして、右手に握られている大鎌も。


「…日本は、もしかして幸運なのかもしれないな」

「…さぁな」


櫻井の言葉に松井は同意しかねる、といった返事を返した。







恭禍は通信を終えると、研究員たちに軽く挨拶をして通信室を出た。

その後を櫻井と松井と宮田が追う。


「勾槻!」


松井に呼ばれ、恭禍は足を止めた。


「何?眠いから仮眠取りたいんだけど」

「あ、あぁ…悪い。先に他のやつらにもさっきの話をしてくれんか?それと、ジュリアス=ハイドとはどこで知り合った?」

「あー…ジュリアスは6つ目の異世界で知り合ったんだよ。ジュリアスが勇者で私が巻き込まれね。てか、松井さんが話さばいいのに。私さっき話したよな?」

「…俺たちには君の話が本当だとは思えない。だから君から改めて聞きたいんだ」


なるほど、と恭禍は呟いた。


「いいよ。一回しかしないし、集められるだけ集めてくれ」


集まったら話すよ、と恭禍は言い、松井に促されるままに部屋を移動した。

恭禍が部屋に通されてから、直ぐに人が集められた。

恭禍は松井たちに話したことをほとんどそのまま話した。

ただし、ジュリアスの話だけは補足しておいた。


「…というわけ。じゃ、私は寝るから」


そう言って恭禍はその場で寝息を立て始めた。

残された者たちは、恭禍の話の真偽を話し合うため、部屋を後にした。




恭禍は夢を見ていた。

夢だと分かる内容だったのだ。

1つ目の世界の皇太子とその仲間たちが恭禍を引き留めている。

恭禍は「悪いけど、帰るね」と言ってその場を去る。

場面が変わる。

2つ目の世界で、お供の3人が恭禍に別れを告げた。

恭禍はそれに頷いて、「じゃあね」と言った。

また、場面が変わる。

3つ目の世界であやかしの長と抱擁している。あやかしの長は恭禍の額に唇を当て、「元気でね」と告げた。恭禍は黙ってあやかしの長を抱き締める力を強めた。

次は4つ目の世界だ。

仲良くなった研究者が悲鳴を上げ、恭禍に向かって「避けて!」と叫ぶ。

5つ目の世界は、魔王の側近役の悪魔が「あんたが魔王でよかったよ。これでこの世界は暫く安泰だ」と言った。炎に巻かれる城で。

6つ目の世界では、城下町の食堂の店員さんと話している。

「勇者様、無事魔王を倒したんだって」

「へぇー」

「…あんたも帰っちゃうの?」



…あぁ、どの世界でも私は帰る選択をした。

これは過去だ。

私が選んだ過去。

変えたいとは思わない。

この選択に後悔はない。

…けど。

叶うなら…


もう一度だけ、皆に会いたい。




恭禍は目を開けた。

時計を確認したところ、3時間ほど寝てしまったらしい。

寝ていた長椅子から起き上がり、ぐっと体を伸ばす。


「…さて、と」


まずは、自らの大切な人を助けに行こう。

恭禍はアルクスとサクレとクローディアを持って、部屋を出た。

念のために松井たちに声をかけるべきだと思い、松井たちを探す。

生憎松井より先に宮田を見つけた。


「あ、宮田さん」

「え、あ、勾槻さん?おはよう。ちゃんと眠れた?」

「おはよー。んー、ま、微妙だな。けど気分はスッキリしてる。そうだ、私、ここ出るから」

「そっかよかった…って、えぇ!?それ先輩に伝えてくれると嬉しいんだけど…」

「宮田さんが伝えといて。安心しろ、この建物には結界張っとくから」

「結界?…って、あぁ、ちょっ…!」


恭禍は止める宮田を無視して地上への階段を上がる。


「世話になった。宮田さん、あんたは見どころのあるいい男だ。しっかりここを守ってくれよ」


恭禍のその一言に宮田の動きが止まる。

恭禍はそのまま地上へ上がり、地下シェルターの扉を堅く閉ざした。

結界を建物に施し、車の止められている場所まで戻る。


「借りてくぞ」


恭禍はそのまま車の運転席に乗り込み、発進させた。







勾槻統真は使い慣れた竹刀をぐっと握った。

統真は剣道の有段者だ。

それどころではなく、柔道、合気道、拳法もそれぞれ高めた。

もとは弟妹を守るために始めたこれらが、まさかこんな形で役に立つとは思ってもみない。


「手の空いてる奴は怪我人と非戦闘員の非難を誘導しろ!!他は守りを固めるんだ!」


バリケードを作り、何とか持ちこたえているこの状況で、先程やっと自衛隊の救出部隊がやってきた。

100人近くいる非戦闘員を優先に軍用車へ連れて行く。

その中に末の弟の姿を見つけ、統真は少しだけ唇を笑みの形に歪めた。

末の弟はこちらを泣きそうな目で見ていたが、母親に手を引かれて車へ乗り込んで行く。

義母はこちらを見て、1つ頷いた。

統真もそれに頷き返し、飛びかかってきた化け物を竹刀で叩き潰す。

その時竹刀が嫌な音を立てたが、統真は新たに飛びかかってくる化け物に向き直る。


「兄さん!」

「瑠衣!?何でお前までここに…」

「私も戦うわ!剣道だけなら兄さんに負けないもの!」

「…俺から離れるなよ!」

「うん!」


妹の1人の瑠衣が木刀を二本持ってやってきた。

一本を受け取り、瑠衣と並んで化け物と対峙する。

この化け物が発生して2日目だ。

こいつらはどれほど殺しても殺しても虫が沸くように現れる。

あぁ、残りの弟妹たちは大丈夫だろうか。

拓真、真美…恭禍。

真美も拓真も中学にいるはずだ。

中学生にどれほどのことができるだろう。

…無事でいてくれ。



 


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