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少女は宮田を見て眉をひそめた。
「…あーあ、どうしてこうタイミングが悪いかねぇ…」
少女な大鎌を地面へ放り、宮田の側にしゃがみこんだ。
「腕…は、喰われたな。…いいか、絶対、誰にも、話すなよ」
「へ…?」
少女はそう言うと、宮田の左肩に手を添えた。
「…くっ…うぁぁぁ…」
急に宮田が悲鳴を上げた。
松井は少女を引き剥がそうと駆け寄る。
が、寸でのところで止めた。
宮田の左腕が、再生していた。
一瞬の話だった。
少女は宮田の肩から手を離すと、大きくため息を吐いた。
「…え、あ、れ?腕が…」
「戻してやったんだよ。感謝しろ。それできんの一万人に一人なんだからな。あーあ、つーか死にそう。もーだめだ。眠い。私その車ん中で寝てるから、あんたらの仲間が全員帰ってきたら教えて。…あぁ、全員は無理か。きっと何人かは死んでるもんな…まぁ、生きてる奴揃ったら起こして」
少女はそう言うと、軍用車の中へ入って行った。
松井と宮田は呆然としていたが、子供の泣き声にはっと我に返る。
松井はとりあえず宮田に声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「…あ、はい、大丈夫です。…腕、も、違和感ないです」
「…そうか。とりあえずその子供を車に入れておけ。二人で見張りをしよう」
「はい…」
宮田は子供を車に乗せ、松井の隣に並んだ。
「…あの女の子、何者なんでしょうか…」
「…敵じゃないのは確かだろ。お前の腕も治したんだから」
「…そうですけど…」
「とりあえず、他のやつらが帰るのを待とう」
不安そうな宮田に松井は柔らかく笑ってみせた。
松井も、不安だった。
だが、それを部下の前で悟らせるわけにはいかない。
拳銃から、機関銃に持ち替え、松井と宮田は仲間の帰りを待った。
結局、帰って来たのは松井と宮田の他に2人だった。
2人は子供と女性をそれぞれ助けていて、宮田の助けた子供を含め、3人救出できた。
…だが、本来なら、15人いた仲間を失ったのは大きかった。
子供と女性を車に乗せ、松井は少女を起こした。
「おい」
「んー…ああ、どれだけ帰ってきた?」
少女は起きるなりそう言った。
そして車の中を見渡し、「…2人か」と呟いた。
「…私が見てくる。もしかしたら生き残りがいるかもしれねぇし、な。それまであんたらはここを守っててくれないか?私も連れてってほしいんでね」
「何言ってるんだ!君みたいな女の子が…」
帰ってきた2人が声を上げたが、松井が制した。
「わかった。君が帰るまで待とう。くれぐれも気をつけてくれ」
「ん。あぁ、そうだ。あの化け物どもには核ってのがあって、それを壊さないと死なない。場所はそれぞれ異なるが、大体頭か心臓部分だ。稀に2つ以上持つやつがいるから気をつけろ」
少女はそう言って車を降りて言った。
「松井さん!何考えてるんですか!あんな女の子を…」
「そうですよ!」
「落ち着け。お前ら、あの子の言ったことを聞いてたか?」
「え?はい…っ!!」
2人は顔を真っ青にした。
当然だ。
核?そんな話、聞いたこともない。
なぜそんな話を知っているのか。
「…それに、俺と宮田はあの子に助けられた」
「…そうっす。子供に扮装してた怪物を一撃で殺しました」
「一撃…」
「じ、じゃあ、あの女の子は一体…」
「…わからん。ただ、敵じゃないのは確かだろ」
2人は口を開かないまま、座り込んだ。
何が一体どうなっているのか。
松井と宮田は、2人の肩を叩いて励まし、2人を車に乗せて見張りを続けた。
少女は直ぐに帰ってきた。
その肩には2人の男が背負われ、女3人と子供2人が後ろをついてきていた。
「生存者発見ー。よかったな、もう平気だぞお前ら」
少女は後ろをついてきている子供に明るい声でそう告げた。
少女は乱雑に背負った男を車に乗せ、泣き出した子供の頭を撫でてやっている。
女性たちは何度も少女に頭を下げている、
「お待たせ。まぁ、この町にいるのはこれだけだろ。ほら、早く乗りな」
少女は女性と子供を車に乗せ、扉を閉めた。
「ふぅ…じゃ、行きましょーか。私は車の上にいるから、運転よろしく」
「待て」
車に飛び乗ろうとした少女を呼び止める。
少女は不思議そうに首を傾げた。
「…君は、何者だ」
「…あー…確かに。怪しいよな。けど、何度も説明するの面倒だし、あんたらの基地に着いてからでいいかな?とりあえず名前だけは名乗るよ。勾槻恭禍。女に使う字面じゃないってことだけは言っとくよ」
少女はそれだけ言って、車の上に飛び乗った。
松井と宮田は目を合わせ、何も言わずに車に乗り込んだ。
※
車の上は風が強く、全く以て気持ちのいい場所じゃない。
だが、異形の中には空を飛ぶものもいる。
それなのに車の中で待機していることなど出来はしない。
幸い、空からの襲撃はなかった。
1、2時間か、揺られていると、突然車が急停止した。
その反動で恭禍は落ちそうになる。
前を向けば、なぜ車が急停止したのかよく分かった。
鉄の網は食いちぎられ、目の前の建物は悲惨な状況をしている。
一言で表すのなら、崩壊。
そう表現してもいいんじゃないだろうか。
天井は半分無くなり、入り口を守っていたと思われる人は食いちぎられていた。
車の中を見れば、運転していた若い男と隊長らしき男が絶望に顔を歪ませていた。
その2人に、恭禍は声をかける。
「車で中まで行ってくれる?入り口からどーんと入っちゃっていいし」
「なっ…」
若い男が絶句したが、隊長らしき男は何故かと聞いてきた。
「人間の気配がするからだよ。よかったな。多分外見はこんなんだが中身はそこそこ無事なんだろう」
恭禍がそういうと、隊長らしき男は目を伏せため息を吐き、若い男に恭禍の言葉通り指示を出した。
恭禍はアルクスを取り出して、長い詠唱を開始した。
本日2度目の活躍に、アルクスはテンションを上げっぱなしだった。
その様子にサクレとクローディアは苦笑いしているらしい。
なぜか知らないが、この武器たちには意志がある。
まぁ、どうでもいいからいいのだけど。
3つとも仲がいいので構わないのだ。
これで喧嘩したならぶっ壊してたんだがなぁ。
そう考えたのが伝わったのか、背中のサクレとクローディアがぶるりと震えた。