9.松坂家の日常 休日編その1
9.松坂家の日常 休日編その1
週末になると、千聖ちゃんがやって来る。学校が終わると家に帰らず直接、ウチにやって来るんだ。
「パルー、久しぶり!ずいぶん大きくなったね」
そう言って千聖ちゃんはボクを抱き上げてくれた。
「うわっ!重たっ」
「そうでしょう!食べてばっかりだもん」
桂子さんはそう言いながら、空っぽになったボクのお椀に新しいご飯を入れてくれようと、エサの入ったパッケージを物色している。でも、実はさっき菫ちゃんが出かける前に入れてくれたばかりなんだけど。まあ、いいや。空腹だというわけではないんだけど、食べられないこともないし。ボクがご飯を食べているところを見ると、桂子さんはとても喜ぶし。
その日、松坂家に泊まることにした千聖ちゃんは菫ちゃんが仕事から帰って来てからガールズトークで夜更ししてた。ガールズトークに興味はないけれど、どちらかというとボクも夜更しは嫌いじゃないから大歓迎さ。夜中中、走り回って居られるから。
翌日、一番早く起きるのはやっぱりひいお爺ちゃん。ひと仕事してから釣堀に出掛ける支度をするんだ。菫ちゃんと千聖ちゃんのガールズトークに付き合っていたひいお婆ちゃんと桂子さんはまだぐっすり眠っている。
「メシ!」
眠っているひいお婆ちゃんにひいお爺ちゃんが怒鳴る。一瞬、びっくりするよ。それでも起きてこないひいお婆ちゃんを見てひいお爺ちゃんは更に怒鳴り声をあげる。
「いつまで寝てるんだ!」
ようやく起き出したひいお婆ちゃんはのそのそと台所へ向かう。魚を焼いて、お新香を切って納豆を添えて…。ボクは一言言いたいのだけれど、どうせボクの声なんか聞いてないもんね。ジャーのふたが開いているんだ。そういう時ってご飯は空っぽなんじゃないのかな?先におかずを用意してしまっても…。
「あっ!ご飯が無い!なんで?」
案の定、ふたの開いたジャーをに気が付いて、ひいお婆ちゃんは呟いた。この世の終わりが来たみたいな悲壮感漂う声で。だから言ったでしょう!って言うか、実際には言ってないんだけど。ほぼ毎日こんな調子。学習しないんだ。ひいお婆ちゃんはボクより忘れっぽい。ネコが忘れっぽいというけれど、それは大きな間違いだよ。ボクの方が断然、記憶力がいいし、きっと、知能指数も僕の方が高いんじゃないかな。つくづくそう思うよ。