6.松坂家の日常 平日編その3
6.松坂家の日常 平日編その3
今日の桂子さんは仕事が終わって居間に上がって来た。空ちゃんは桂子さんの姿を見ると、いつも桂子さんが着ている上着を引きずって来るんだ。
「あら、空ちゃん、それを着ろって言うのね」
これは空ちゃんが桂子さんと一緒にお買い物に行こうという意思表示なんだ。
「お外、行く」
「はい、はい。じゃあ、お買い物に行きましょうね」
「うん」
「ちょっと待ってね。パルちゃんに餌をあげるから」
「パル、ごはん?」
「そうよ」
やった!本当はさっき、菫ちゃんに貰ったんだけど、赤ちゃん用のパックは量が少なくて物足りないんだ。
紗希ちゃんは洗い物を済ませて一休みしている。台所の換気扇の下でタバコをふかしながらスマートフォンのゲームをしているみたい。空ちゃんのお世話は大変だから、つかの間の自由時間って感じかな。
「パルはいるの?」
ひいお爺ちゃんがのっそり顔を出して早紀ちゃんに尋ねる。ひいお爺ちゃんはミーニャさんが大好きだったから、ボクが来た時には新しいおもちゃを貰った子供の様に喜んだんだよ。病気をして車の運転が出来なくなってからは好きな釣り堀に行くのも少なくなったっていうから。ボクにしてみれば、遊んでくれるから大歓迎なんだけど。
「ん?その辺に居ませんかね」
「あ、居た居た」
ちょうどご飯を食べ終わったから、暫くひいお爺ちゃんの相手でもしてやるか。
桂子さんは空ちゃんが産まれてからはあまりパチンコに行かなくなったみたい。自分の子供の様に空ちゃんを可愛がる。孫は目の中に入れても痛くないって言葉があるみたいだけど、本当にそうなのかもしれない。
ご飯の支度が出来た頃、大輔さんと彩君が帰って来る。大輔さんは帰って来るなり必ず一番最初にお鍋のふたを開けて中を覗くんだ。今日のおかずは大輔さんの好物みたい。
「おお!」
「パパ、好きだもんね」
大輔さんと桂子さんのいつもの会話。