第7話 ――2日目:回想(後編)―
さて、この日の一番の盛り上がりを見せたのは放課後からだった。
この日、オレは掃除当番だったため、義孝と朱美には先に帰ってもらった。
掃除場所は教室じゃなくて外。桜並木のあるロータリーだった。
さて、帰ってもらった理由は、結構な時間を待たせるわけにはいかない事と他に、掃除当番の人材に原因があった。
そう、当番はオレだけじゃなく、桜さんもだったのだ。
正直、気まずかった。
オレは掃除の時間になるまで、当番と言うことを忘れていただけではなく、昨日桜さんと話した事をすっかりと忘れていたからだ。
勿論、桜さんはそんなことは知らないだろう。鼻歌交じりにちりとりにごみを入れていることから分かる。
オレはどうも、桜さんが不思議な人物に見えて他ならない。
酷い事を言うが、昨日ふらりと現れて、生産性のない話をしただけの仲だった。
ただ、やはり男子生徒には人気があるようだった。
義孝が何処からか入手した情報によると、昨日入学式だったのにも関わらず。一年どころか、二、三年にも今年は特段可愛い子が入学してきた、と話題騒然。早くもアタックしようと、幾度の人が構えているとかいないとか。
そして、掃除を始めてから初めて口を開いたのは桜さんだった。
「あ、そういえばさ」
「え? ごめん。聞いてなかった」
桜さんは意をきして、もう一回言った。
「ん。だからさ、秀人君は朱美ちゃんと付き合っているのかな…って、おもってさ」
「え? オレと朱美が?」
「そう。違うの?」
と、桜さんは俺に近づいてきて、オレの顔を覗き込んだ。
オレはどうしてそんな勘違いが起きたのかと、恥ずかしくなり、そっぽを向いていった。
「朱美とはただの友達だよ。義孝と同じ。昔からの幼馴染。腐れ縁だよ」
「そうなの? 良かった」
桜さんは本当に安心したのか、嬉しかったのか、パッと明るい顔になった。
「でも、何でそんな事を?」
オレは桜さんがどうしてそんな勘違いをしたのか? どうしてそんな事を知りたかったのかが気になった。
「え、えっと・・・ほら。今日、朝のときに秀人君と朱美ちゃんが仲良くお話してたから…サ」
桜さんは焦ったように、言った。
「…ああ。アレは昨日ちょっとしたことがあって、謝ったんですよ」
別に桜さんに詳しく言うことでもないし、簡単に説明した。
「そうなんだ。でも……。うんん。なんでもないヤ…」
桜さんは気まずそうに、そう言った。
「……? どうしたんです?」
その時のオレはよっぽど、すっとんきょんな顔をしていたのだろうか?
桜さんは覚悟を決めたように言った。
「あ、あの! 秀人君は彼女…とかいますか?」
……………? は!?
「あ、あの……、えっと、その……」
桜さんはずっと、恥ずかしそうに色々とオレに視線を泳がせていた。
「えっと……、どう言う事?」
「だから…あの…、もし、彼女がいなければ、わ、私と付き合ってくれませんか!!」
その時、強い風が吹き、桜がまるで粉雪のように散った。
その時の彼女は、まるで桜の妖精にみえた。
「ええと。ま、まぁこんなオレでよければ良いですが……」
オレは恥ずかしくなり、そっぽ向いて言った。
それでも、桜さんは良かったらしく、太陽のような笑顔と共に、オレに抱きついてきた。