第4話 ――1日目:終章――
〜廊下〜
「どうしたの? 義孝があっさりと引くなんて」
朱美は思った以上にあっさりと引いた義孝が、不思議に思えた。
「いや、何だか分からんが、今日は帰ったほうがいい感じだったから」
義孝はバツが悪そうに言った。
「何それ?」
朱美は吹き出してしまった。そして、見えない二人の絆が羨ましく思った。
「さーなー。自分でも分からんのさ」
義孝はニカっと笑った。
「ふーん」
「ってことで、秀人こないからカラオケ行かないんだろ?」
「うん。いや、やっぱ行く」
「ん? あれ、いくのか? じゃ、もっと人集めようぜ」
「うん」
二人はまだ残っている生徒を探しに、各クラスを練り歩く。
× × × × × ×
〜一方、秀人の方は〜
「気になる。あの桜の木の視線が気になる。だから二人には帰ってもらったし」
そう思ったのでさっさと教室を出て、校庭に出た。外は完全に夕方になっていて、太陽が赤々に燃えているように見える。
「オレって、スッゲー馬鹿?」
何だか悲しくなってきた……。そう思ったときに、ふと目に付いたのは桜の木だった。
「今日はコイツにさんざんつれ回された様な気がする。こんな時間まで残ってるし」
すると、3回目の視線に気づいた。
「振る向くと、誰もいねぇってか?」
自分のセリフに苦笑いをしながら、振り向くと、
いた。 人がいた。 ってか女の子がいた。
身長は160cmぐらいで、痩せ型。髪は地面に付くまで長い桜色。
髪に比例して、肌が陶器のように真っ白だった。服装はうちの高校の制服。ただし、色が桜のようなピンク色になっていた。顔はとても形がよく、いわゆる美人と言われる分類だと思う。かばんを持ってる所を見ると今帰ると所なのだろう。
「桜、好きなんですか?」
「え、ええ。いや、前までは好きだったんですけど、今日で嫌いになったんです」
いきなりの美人の出現、さらに声まで掛けられたもんだから、しどろもどろになってしまう。
「言ってる事よく分かりませんよ? あ、私の名前は木下 桜です。」
「木下桜さんですか。まさにって感じですよね。あ、俺の名前は――」
「荒河秀人君ですよね。同じクラスですよ。」
「マジで! 全然分からなかった。」
オレはこんな美人と同じクラスになりながら、気づかない状況に、驚きと自分に舌打ちしたくなる気持ちが渦を巻く。
「入学初日で名前と顔が一致する人なんて早々いませんよ」
木下さんはクスクスと可愛らしく笑った。
「でも、オレは分かったんですね」
「ソレはたまたまですよ」
「そうっすか。…まぁいいけど……」
「うふふふ。あ、そうだ。コレ」
そう言って、木下さんは、オレに小瓶をわたした。
「? コレなんです? ビンの中に小さな宝石が入ってますけど。」
オレは受け取った小瓶を透かしてみる。すると、中に宝石のような、鉱物があるのが分かった。
「願いが叶うビンです。」
「は、はぁ。くれるんですか?」
「うん。あげるよ。出会ったお祝い」
「…まぁ。貰っときますよ。あ、帰る時間なんで。すみません」
オレは腕時計をみて、下校時刻が近づいている事に気づいた。
「うん。じゃ、またね〜」
「じゃ。また、学校で」
そう言って、オレたちは別れた。
――これが木下桜と、オレ荒河秀人の始めての出会いだった――