夢を創造する魔法4
少し忙しくて出せませんでした
やっぱり、中学生の時でも高校生の時でも学園生活で最も楽しみな時間は昼休みに違いない。まぁ、勉強が好きな人は別にして、俺は何時もそう思っている。特にこの時間は晴れていれば必ず外で昼寝だ。勿論1人で。特におすすめとしてはやっぱり屋上だろう。何と言っても風と太陽が妨げられていない場所といったら屋上くらいのものだ。この二つを同時に感じるほど心地の良いものを俺は知らない。さすがに冬には昼寝をすることはないが……。
「霊也、早くお弁当食べてよ。せっかく作ってきたんだから」
「そうだよ、霊也兄。お姉ちゃんが作ったんだから食べなよ。いらないなら貰っちゃうよ」
俺は昼寝を1人でしたいと考えつつも、とりあえず自分の食べ物を守るため、俺と優妃の向かい側に座っている優那に弁当を取られる前に手元に置く。
「なぁ、2人とも。俺が昼寝好きなこと分かっていてやっているよな」
作ってきてもらった弁当を食べながら訊いた。
「うん。知っているけど一緒に食べた方が美味しいよ」
「いや。そうじゃなくて……」
俺が言いたいことを全く分かっていない。何時も優妃は昼寝に関してだけは全く理解してくれない。俺は小さなため息をつく。
「霊也兄は『花より団子、団子より昼寝』だもんね」
「そう! 俺は昼寝をしなくては生きていくのが辛いぐらいなんだ」
何時も俺の昼寝のことを分かってくれる優那とは大違いだ。でも、なんで俺は昔から優妃と一緒だったのだろうか? 普通は自分の理解者と一緒にいた方が楽なはずなのに……。しばらくどうしようもない会話が飛び交り、優妃が突然俺に訊いてきた。
「そういえば霊也は昔の約束覚えている?」
あぁ、俺が優妃と一緒だったのは、おそらくその約束の内容だろう。でも、そんな約束は全く覚えていない。何故だろう? 優妃との約束を忘れることなんてありえないと思うのだが。
「ごめん。覚えていない」
俺は約束を忘れたことを後ろめたく感じた。
「いや、大したことじゃないから気にしないで」
そう言ってくる優妃の顔は少し寂しそうだった。俺はそれを見て、自分が約束を忘れたことを遣る瀬無くなり、そして許せなかった。俺は優妃が悲しむところを見たくないし、そんなことをさせたくない。俺は優妃が蘇った時からそう決意した。
「……ほらほら。もうお弁当も食べ終わったんだし、教室に戻ろうよ。まだ春だし風は冷たいよ。ねっ?」
気まずい雰囲気になったところで優那が話を変えてくれる。俺は不意に弁当に顔を向けると中身は空っぽになっていた。どうやら話している間に食べ終わっていたらしい。俺はこの空気を換えようとしてくれた優那に心の中で感謝しつつ弁当を片付けた。
「うん。じゃあ私は先に帰っているね」
優妃は全員の弁当を回収して教室の方へ歩いて行った。
「ちょっと待ってよ。お姉ちゃんってばもう……霊也兄はちゃんと後で仲直りするんだよ。とりあえずお姉ちゃんは私に任せなさい」
俺に軽い注意をした後、優那は優妃を追いかけて行った。なんだか優那は自信満々な雰囲気だった。確かにこの状況だと優那は適役だ。―――しばらく俺は寝転がりながらそよ風にあたっていた。やっぱり風と太陽は気持ちがいい。確かに少しばかり冷たいが、これくらいなら気にはしない。―――自分を照らしてくれる太陽と、どこまでも連れて行ってくれるような風。そして昼寝をしているときに何時も隣にいてくれる人がいた。俺はそんなところが昔から大好きだった。一つでも欠けてしまうとなんだか物足りなくて。だから俺は隣にいてくれるその人にずっと一緒にいてくれと望んだ。そして俺とその人は一つの約束をした。『どんなときでも一緒に過ごす』と。―――はっと目を開いた。どうやら考えている間に眠ってしまったらしい。
「でも思い出せた、優妃との約束。……でもあの約束、まるでプロポーズみたいじゃねーか」
なんだか思い出せて嬉しさ半分、恥ずかしさ半分という感じだ。そういえば、今何時なのだろうか? 俺は時報でも聞いてみる。
「現在、14時32分です」
どうやら寝過ごしたようだ。今の授業は何だっただろうか?
「えーと。5時間目、あぁ、魔法実技か。まぁいいだろ。どうせ5時間目で終わりだし1時間くらいサボっていても」
俺は誰がいるわけもなく呟いてしまう。
「サボりは感心しませんね、真田霊也君」
「え?」
俺は名前を呼んできた声に覚えがあった。
「すみません。でも何で生徒会長さんがこんなところでサボっているんですか?」
俺は振り返って返事をする。
「いや、私はサボっているわけではありません。今は仕事中なんです。君が本当に究極級魔導師なのかを確かめるために」
「くっ」
何で俺が究極級魔導師だと知っているのだろうか? まだ自分自身も認めていないことなのに……。いや、そんなことを考えている場合ではない。
「では、さっそく行きます。本気でかかって来ないと危ないですよ」
会長から凄まじい殺気を感じる。やばい! 俺を殺す気である。この状況、どうやって乗り切ればいいんだろうか? 全く思いつかない。
「破壊の衝撃」
会長は衝撃波を放つ。いや、果たしてあれが衝撃波なのだろうか? ぶつかった場所全てが粉々になるほどの威力のものを衝撃波と言うのは可笑しいかもしれない。だが、とりあえずこれはやばい。ぶつかれば俺も粉々になる。瞬時に俺は判断したが、身体は固まって動かない。
「そこをどいて、霊也。風の麒麟」
俺の前に衝撃波が届く寸前、俺の前に現れた優妃が魔法で打ち消した。どうやら優妃のおかげで助かったらしい。
「今の魔法、物質破壊魔法ね。しかも応用が効いている。おそらく高級魔道師以上だと思う」
「おいおい……。物質破壊魔法って衝撃波作れるのかよ」
すると優妃はわざわざテレパスを繋いでくる。
〈あのね、そもそも物質破壊魔法というのは直接的に攻撃を与える魔法ではないの。だって直接的に攻撃するものが普通の解釈でしょ。それによって引き起こされて破壊という行動が起こる。だから、物質を間接的に破壊する魔法、おそらく会長の魔法は波の魔法。そうそう、物質破壊魔法っていうのは、間接的に破壊する魔法の総称だからね。そして、この魔法は攻撃に特化した魔法じゃなくて、防御に特化した魔法なんだ〉
俺に説明だけして優妃は直ぐにテレパスを切った。
「……優妃は会長に勝てるのか?」
「勿論大丈夫だと思うけど、それじゃ意味がないかも」
俺が当たり前に訊いたことを優妃は肯定するがあまり乗っていない。
「じゃあどうするんだ?」
「それは勿論、霊也が戦うんだよ。だってそこの会長さんは霊也に戦いを申し込んでいるんだから。当たり前でしょ」
俺が戦う? 優妃は俺が全く魔法を使えないこと分かっていないのだろうか。ある力を除いてであるが。
「へぇ。少しは物わかりのあるお友達ですね。彼女さんですか、真田霊也君」
「そんなわけないだろ。ただの幼馴染だ」
ん? 何か優妃から鋭い目で見られたのだが……いや、この際そんなことはどうでもいいだろう。それよりどうするか? 戦うか? それとも逃げるのか? ……いや、今は戦うしかない。でも、あの衝撃波をどう止めればいいのだろうか? 確か衝撃波は波だと言っていたが、波とは振動によって生み出されるものだったような気がする。俺は自分の持つ波についての知識を、片っ端から思い出す。
「とりあえず、2人とも私の衝撃波を目で追える程度の魔導師なようですね。それだけで高級魔道師以上と評価出来ます。もう行きますよ。破壊の衝撃」
会長はもう一度同じ魔法を放ってくる。
「ちょっと待ってくれよ」
俺は次々に放たれる衝撃波を何とかかわしながら勝つ方法を考える。
「ちくしょう。一体どうすればいいんだ?」
振動をどうやって止めればいいのかが分からない。そういえば、最近の夢でこれに似たようなものがあったような気がする。
「何時までかわし続けるんですか? 体力が無くなった時、それがあなたの最期です」
会長は先程より多くの衝撃波を放ってくる。これは本当に時間の問題だ。どうやら先程思い出した夢の魔法を使うしかない。ここまで来たら、一か八かだ。
「……ああ来いよ、生徒会長。俺の魔法見せてやる。夢を創造する魔法、真空の欠片」
俺が魔法を唱えた途端、空中に小さな塊が舞い、俺の周りを膜のように覆う。
「会長の魔法は結局のところ波だ。なら波自体が発生しない、真空状態の膜を作る魔法を使えば、そもそも衝撃波というものがなくなる」
俺は自分を覆う小さな塊を会長に向かって放つ。
「へぇ。そんな奇妙な魔法があなたの魔法ですか。でも、私が出せるのはまだまだあるんですよ!」
会長は俺に向かって衝撃波を大量に放ってくる。
「だから会長の攻撃は衝撃波のみ。そもそも物質破壊魔法は防御特化だから、応用してもせいぜい上級魔導師以下では衝撃波が限界だ」
俺の放った小さな塊は、会長の衝撃波を飲み込みながら直進する。何度か会長は衝撃波をぶつけてくるが、俺は小さな塊で飲み込み続ける。
「ふう。やっと捕まえた」
俺の小さな塊は会長を固定する。
「……あの、何で私の魔法が分かったのですか? 確かに、君が言った通り、今の私は衝撃波以外使えないですけど」
「俺の魔法、夢を創造する魔法は相手の魔法を分析する補助機能みたいなのがついているんですよ」
そう、これは勿論優妃のことだ。でも、こんな技みたいに優妃のことを言うと反則な力に思うだろう。実際に自分でも思っているのだから当たり前だ。
「そんなの反則な魔法ですね」
やっぱり言いますか。そもそも俺の魔法自体が反則なのだから、今さら付け足しされても同じことだ。
「もう俺の勝ちです。負けを認めてください、会長」
「今はそういうことにしておきますよ、真田君」
会長も負けを認め戦闘態勢を解く。俺も会長の様子を見て魔法を解除する。
「やったね。霊也はやっぱりやればできる子だよね」
優妃は戦いが終わったところを見計らって近づいてきた。何だか褒められて嬉しいような恥ずかしいような感じだ。だが、悪い気はしない。
「……あれ? そういや俺はどんな魔法使ったんだ?」
「あのさ、冗談はよしなよ。面白くないよ」
「いや、真面目に覚えていない」
どうやら優妃は冗談にしか聞こえていないようだが、俺は本当に忘れている。
「今回はもういいです。では、私は先にいきます、真田君。またね会いましょう」
会長は先に階段へ向かった、が、何か言い忘れたのかこちらを向き戻ってくる。
「真田君。これからは私を晴香って呼んでいいですから」
「別にいいですけど。……でもなんで?」
俺は全く意味が分からずに訊いてみると会長は少し顔を伏せた。
「それは……と、友達の証として……」
「えっ、会長……いや晴香さん。もしかして友達いないとか?」
俺の冗談で返した言葉を聞いた途端、晴香さんの背筋が伸びる。この反応はまさか、いや、流石にそれは考えられない。生徒会長に限って友達がいないとかありえないことだろう。
「と、友達は4人います!」
赤面しながらも少し誇らしげに言う晴香さん。でもこんなことになった火種は俺が撒いてしまったわけで……。これは責任取るべきなのだろう。
「はぁ、分かりましたよ。俺が5人目です、晴香さん」
「えっ、じゃあ私が6人目でいいですか? 晴香先輩? ちなみに私のことは優妃って呼んでください。妹がいるので」
どうやら優妃も友達になりたいらしい。晴香さんは一気に2人も友達が増えたのだから嬉しいだろう。
「本当に友達になってくれるのですか? やった! 2人も友達が増えました。これからよろしくお願いします、真田君、優妃さん」
やっぱりものすごく感激している。改めて晴香さん見ると可愛い。生徒会長の風格はあるのだが、今の状況を見ると、少し子供っぽい気がする。これがギャップなのだろう。今まで嫌な感じで会っていたから気づかなかった。今度、亮次は晴香さんの印象どう思っているのか聞いてみよう。個人的には優妃や優那に引けを取らないと思う。でも、何で晴香さんには友達がいないのだろうか? やっぱり生徒会長だからなのか? 威厳を保つために、という感じでもないと思うのだが……。まぁ、どうでもいいことか。
「では、今度こそさようなら。もう時間なのでクラスに戻ります」
晴香さんは今度こそ屋上から出て行った。
「さ、もう5時間目も終わりの頃だし教室に戻ろうか」
「あぁ。……って、俺達完全に授業サボったのか」
俺の言葉に頷く優妃と一緒に、俺は心地の良かった屋上を名残惜しく思いながら教室へ向かった。
次は明日投稿します^-^