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ピンチのち反撃

最近リアルが多忙につき、ちょっとペース落ちてて申し訳ありません

 主役のはずだった。切り札のはずだった。ドイツの名門バイエルンで失意の日々を過ごし、生まれ故郷で捲土重来を図るはずだった。


 しかし、大阪反攻の原動力となったのは、自分ではなく隠し玉的に入団した櫻井だった。類い稀なる決定力と、見る者全てを虜にするファンタジスタぶり。かつて将来を嘱望されていた宇治木は、その存在感を打ち消されていた。無論、宇治木のプレーが期待外れだったわけではない。むしろ彼も期待通りのポテンシャルを見せているから、大阪の復活が成った訳だ。それ以上に櫻井がすごいのである。


 当然、嫉妬もあった。普段の遊んでいるようにしか見えない立ち振る舞いに苛立ったこともあった。だが、今はそんな気はさらさらなかった。むしろ櫻井とプレーしていることに楽しみすら覚えていた。

 なぜならば、ヨーロッパにも櫻井のような選手はいなかったからだ。



 ただ今日は頼みの櫻井が苦戦している。今日ばかりは主役の座を取り返さんばかりに張り切った。

「いっちょ仕掛けるぜっ!」

 長山をあっさりと振り切って、一気にペナルティーエリアに侵入を図る宇治木。誰かをおびき寄せればよかったが、和歌山のディフェンダーは選手のマークを外さない。

「誰も釣れなかったか…。まあ、俺一人で行くかっ!」

 ドリブルのギアを上げ、一気に友成との一対一を迎える。迫る宇治木に、友成はチーターのような瞬発力で一気に間合いを詰めてきた。



 鈍い音がした。



 友成が一気に間合いを詰めたことで、宇治木はフェイントもシュートの体勢にも入れず、友成もまたリスク無視で飛び込んだためにまともにぶつかった。ここで試合が止まった。宇治木はすぐに立ち上がったが、友成は脇腹を抱えたまま動かなかったからだ。

「ウッさん大丈夫っすか」

 間の抜けた声で櫻井は宇治木を案じてきた。

「ああ。大丈夫。弾け飛んだ時にちょっと肩打ったぐらいや。…しかし」

 宇治木の視線の先には、担架でピッチの外に運ばれる友成がいた。宇治木は友成のプレーに驚異を感じずにはいられなかった。

「ケガのリスク無視であそこまで大胆にできるもんかよ。敵に回したらやな相手や」

「あいつとは来年も同じ舞台で戦うかもしんないよ、ウッさん」

「…だとしたらなお厄介やな。身長タッパはないけど、あのクソ度胸は世界レベルやしな」





 結局友成は出場できず、天野が交代で入る。その心中は複雑である。

(またあいつの尻拭いになったな…。本当なら俺だってスタメンを張らなきゃいけないのにな)

 だが、手で両頬を叩いて気持ちを切り替える。

(今は勝負所、せっかく出れたチャンスに全力尽くすだけだっ!)


 試合は大阪のコーナーキックで再開。新藤がゴール前に絶妙なクロスを打ち上げ、後半から投入された長身フォワード後藤田がヘディングを狙う。しかし、それよりも速く、天野が長身を伸ばしてこのボールをパンチングで弾き出した。このプレーにアウェーゴール裏席の和歌山サポーターが歓声を上げた。それでも天野は冷静なままだった。

「セカンド打ってくるぞ!エガ、優作、コース絞らせろっ!」

 セカンドボールを相手が拾うと悟り、味方に指示を出す。素早くコースを限定されては、それを拾ったレチャも強引に打たざるをえない。大森が体を張って防ぎ、関原がクリアした。



 突然の出番ながら堂々たるプレーを見せた天野。これが大阪の勢いを削いだ。栗栖と竹内がそれに合わせて中盤での主導権を取り返しにかかる。この援護射撃に、バドマン監督が一気に二枚の交代カードを切る。結木に代えて内村、長山に代えてマルコス・ソウザを投入したのだ。

 それに併せて若干ポジションも変わる。竹内がボランチから右サイドハーフに移り、江川が一列前に上がってチョンとのダブルボランチに。そして空いたセンターバックの一角に内村が収まり、櫻井の面倒を見ることになった。


「ようサッカー小僧。こっからは俺が相手してやるぜ」

「ふーん…。楽しみだね。江川は正直物足んなかったから」



 内村とマルコスは、代わった二人とは違いスピードはないが、語弊はあるが疎ましさがある。それが櫻井のリズムを奪い、驚異だった大阪の左サイドを無力化させた。櫻井に簡単にボールはつながるが、内村が執拗なマーキングで大阪のペースにさせないのだ。

「ちぇ。噂以上にうっとうしいっすね、あんた」

「まあ、そうでないとやってらんないさ。せっかく膝に鞭打って見せ場なしじゃ様になんねえしな」

(まだ江川のほうがやりやすかったな。俺のやりたいこと全部読まれてる)

 芸術的なフェイントも、見るものを圧倒したシザースもまるで通じない。だが、櫻井が思ったように、内村は常にその行動を読んでいる訳ではない。その動作の時に、櫻井の近辺をうろついているだけだ。実際のところ、それだけで十分な牽制になる。

 そして内村の心中はと言うと、この緊迫した試合展開では、あまりにも場違いなことを考えていた。


「あーあ、くしゃみしそうでしないってスッキリしねえなあ」


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