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今の立場

「ぬおっ!!」


 桂城が放った強烈なミドルシュートは、またも友成が渾身の横っ飛びではじき出した。それが尾道サポーターのため息を誘い、桂城も頭を抱えて悶絶した。

 荒川のPK失敗以降も、ホームの尾道が再三にわたってチャンスを作り、ミドルシュートも交えるなど、和歌山のお株を奪う猛攻を仕掛け続ける。だが、決定的なものを含めて6本のシュートが枠に飛んだが、すべて友成がはじき出す。まさにゴッドハンドである。


「PKを止めて何らかの火がついたか・・・。このままでは流れが逃げかねんな」

 尾道の水沢監督は直立不動で試合を見守り、悲観的な展望をつぶやく。確かにチャンスを逃し続けていると流れが変わってしまうのは、勝負の世界の摂理である。何とかして先制したかった。


 しかし、それにはもう一押し足りない。何せ和歌山はここまでシュートを打てていない。

「いつまで手間取ってんだよ、だれかシュート打てよちくしょう」

 ぼやきながら和歌山のボランチ・久岡が前線にスルーパス。それを竹内が橋本を背負いながら受ける。

「確かに久さんの言うとおりだ。それなら・・・」

 そういって竹内は橋本を抜きにかかる。

「やろう、そう簡単に突破なんて・・・っ!」

 しかし、竹内は意外な行動に出た。振り向きざま、強烈なロングシュートを放ったのだった。

「ウソだろっ!!」

 初めて飛んできたシュートに、尾道のキーパー宇佐野はあわてて飛び上がる。惜しくもクロスバーがボールをはじいたが、そこには大概こいつがいる。巨漢モンテーロを引きずりながら、剣崎が頭から飛び込んできたのだった。

「しゃらくせぇっ!!」

 頭、というより顔面で捉えた一撃は、ボール2つ分外に逸れ、ボールが直撃した給水ボトルが宙を舞った。

「俊也ぁっ!!てめえ俺の許可なしにロング打つんじゃねえよっ!そいつは俺の代名詞だろっ!」

「おいおい、シュートは打ったもん勝ちだろっ!お前が打ったんじゃ普通だから打ったまでさっ!」

「ちぇっ!だが、ゴール決めるのは俺だかんなっ!」

 竹内の言うとおり、意表をついたロングシュートとモンテーロを背負いながらの剣崎のダイビングヘッド。間違いなく流れが変わるフラグとなった。

(やべえ。このゴールキックから点につなげねえと、間違いなく流れが変わる。頼むぜ前線っ!!)

 それを危惧した宇佐野は、願いを込めてボールを蹴りだした。


『やれやれ。ちょっとこれじゃあまずいよね。でも僕も、このおじさんが手強いんだよね』


 クレーベルもまた、流れが淀んでいるのを理解しているが、チョンのマークによって自由を奪われていた。

『誰かフォローしてくんないかな』

『じゃあ俺がしてやるよ』

『オッケー、ヒデヨシ』


 試行錯誤しているなかで荒川が駆け付け、クレーベルからボールをもらった。

 荒川は一度中央にドリブルで仕掛けると、駆け上がって来た小原にパスを送る。小原は関原のよせが速いと直感し、ダイレクトでクロスを放った。ここでも野口と大森の空中戦だ。PKを与えたものの、大森はひるむことなくむしろ圧力をかけてきた。

 しかし、野口もやられたままではない。野口もはあのPKのシーンを、むしろ屈辱と思っていた。要は力負けと感じていた。だからこの競り合いは勝ちたかった。

「せりゃっ!」

 この空中戦、野口は競り勝ち、荒川の前にたたき落とした。

「やりゃあできんじゃねえかっ!」

 流石の嗅覚で野口の勝ちを確信していた荒川は、すぐそばに詰めていた。余裕をもってシュートの体勢に入っていた荒川は、そのまま右足を振り抜いた。リベンジの気持ちのこもった一撃は、文句なしの先制点となった。


「くそっ。もう少しでこっちの流れだったのになぁ…」

「そのまま先手取られちまったか。ちょっときついな」

 味方が先制を許し、ベンチで見守っていた和歌山のリザーブたちは、悔しさをあらわにした。

「そう悲観するな。まだ前半、十分チャンスもある。しっかり身体解して備えようぜ」

 そんな選手たちを、マルコス・ソウザがかつを入れ、アップにはげんだ。



 試合再開。先制点を奪われたことで、和歌山の選手たちは攻めっ気を強くした。特に久々のスタメンながら存在感のなかった佐久間の奮戦は目を引いた。

「ちくしょうめ!俺が出て負けたら疫病神になっちまうだろが」

 ボールを久岡から預かると、シザースやルーレットといったテクニックを披露しながらドリブルで駆け上がる。守備に不安があるのは、対峙するマルコス・イデも同じなのである。

(てめえらごときに手こずってらんねえんだよ!今の俺は来年の契約の瀬戸際なんだよっ!)


 期限付き移籍とはいえ、昨年途中に加入した際には待望の戦力として迎えられた佐久間だが、今シーズンは勝手が違っていた。移籍してきた長山やマルコス、ユースから昇格してきた三上らライバルが増え、しかも揃いも揃って戦力となっており、一転右サイドの陣容は飽和した。

 そして今の自分が、序列の後ろのほうであることも自覚していた。これでは貸し出し元の横浜も評価は低く、契約満了の可能性が高い。となるとここへ完全移籍を目論む他はないが、レンタル期間満了を通告されればそれまでである。

「J1で戦うには俺が必要だってこと、証明してやるぜっ!」

 そうほえて、佐久間はクロスを打ち上げた。


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