2012年レビュー
普段から筆者が愛読しているサッカー新聞「エルゴラッソ」の定期購読の特典であるイヤーブックを読んでて思いつきました。
前作に置けるアガーラ和歌山の凄みを書いてみました。
「若者たち、未だ覚醒の途上」
文・浜田友美
成長をチームに還元したルーキーたち
2012年のアガーラ和歌山は、ユース監督から昇格した今石博明新監督の下、若さ溢れる攻撃的なサッカーを展開。リーグ最多得点の勲章と共に、クラブ史上最高の3位という成績を残した。
若さと攻撃力、この2つのキーワードを語る上で、その象徴的な存在が背番号9であることに異論はないだろう。42試合にフル出場し、2位以下を大きく引き離す36得点という規格外の成績で得点王に輝いた。しかも一試合平均0.86は、J1得点王・瀬藤弘人(広島)の0.65(34試合22得点)を上回る。試合数やレベルの差を鑑みても、剣崎龍一というFWは日本待望の「点取り屋」であることに疑いはなくなったと言える。
しかし、開幕前は点取り屋どころか、サッカー選手としてすら疑わしい存在であった。ユース時代からゴールゲッターとしての評判こそあれど、現代サッカーのFW像からは大きく掛け離れてもいた。
「守備への理解がないし、ドリブルやポストプレーも下手。シュート以外能のない選手で使う方は大変だった」
今石監督は、怪物と素人の紙一重だった剣崎をこう評するが、唯一の取り柄だったシュートセンスは、それらを補って余りあるほどの武器となっていた。
「みんな俺が監督だから使ってもらえたなんて言うけど、誰が監督でも多分使ったと思うよ。強心臓だしシュートも多彩だし、何より点をとった。ユース時代からいろんなシチュエーションでプレーしたけど、どんな粗末なパスでもゴールに持っていったから」
それでも今石監督は「二桁前後が御の字」と見ていたストライカーは、予想を超える結果を残した。その要因を本人に尋ねると「苦手を受け入れた」と答えてくれた。
「ユースのころから俺には点をとることしかないと割り切ってて、プロでも最初のうちはそれでいけてた。ただ『もっと点を取りたい』と思うほど自分の欠点が目についた。自分の武器を伸ばすには、結局欠点を受け入れてどう克服するかを考えるないといけない。それに気づけた」
剣崎を筆頭に、若い力は常に上を向いて技量を磨いた。同じく全42試合に出場しJ2のMVPに輝いたFW竹内俊也は、味方をフォローしながら自分もゴールを奪うにはどうすればいいかを常に意識していた。超人的なセービングでセンセーショナルな活躍を見せたGK友成哲也は、自分の弱点である空中戦の必勝法を生むために他のスポーツの技術を応用するなど試行錯誤していた。さらにユース時代からいわゆる地蔵型の司令塔だったMF栗栖将人は、左サイドを主戦場にするなかで体を一回り大きくするなどフィジカルを鍛えた。自分の武器を信じつつ、それを生かすために課題を克服する。極めて当たり前のことだが、彼らの実践したことは全てチームに還元されていた。
「当たり前のことって実は実践するとなると意外と難しい上に、成果も一気にはでないからじれったくなって続かないことも少なくない。今年のルーキーたちの一番優れてたのは『当たり前を継続できる』点。多分来年以降もできるはずだから、まだまだあいつらの成長は続くよ」(今石監督)
驚異的な爆発力と呆気ない脆さ
開幕5試合を2勝1分け2敗と五分の星でスタートした2012年シーズンは、大型連勝と連敗を繰り返す波のある戦いが続いたが、地力は確実に着いている。3位という成績はもちろんのこと、夏場に昇格戦線を掻き乱したり、終盤10試合を9勝1分で走りきったりと、昨シーズンまでには見られなかった爆発力がチームには浸透していた。
ただ、引き分けの数はリーグ最少。過去最高シーズンながら一度も首位に立てなかったのは、勝ち点1を拾えないことが多かったため。遅延行為による警告ゼロという結果が示すように、時間いっぱい攻め切るスタイルは良くも悪くも潔すぎた。
試合内容もまた、チームの波の激しさを物語る。3得点以上の試合数はリーグトップだったが、そのほとんどが先行逃げ切りで、先制点を挙げた勢いで捩じ伏せた一方、先制点を許した場合は追いつくことすらままならなかった。決して試合巧者なチームではないだけに、馬力任せのサッカーからの脱却は必須だろう。
それでも和歌山は、G大阪、神戸が加わる史上最もハイレベルな2013年のJ2を制しての昇格を目論む。
キャプテンのチョンは誇らしげに語る。「J1ライセンスが見送られたクラブで勝ち点を伸ばしつづけたのは和歌山だけ。うちの連中はそうそうのことでも折れないメンタルタフネスばかり。どれだけ苦しくなっても、昇格へのモチベーションが折れることは絶対にない。そう言い切れる。ようやく訪れた昇格のチャンス、絶対に生かしてみせますよ」と。
ベストメンバー・スタッツ
システム4−4−2
GK20友成
DF7桐嶋
DF6川久保(自陣空中戦1位)
DF17チョン(タックル数1位)
DF11佐久間
MF8栗栖
MF3内村(パス数1位)
MF2猪口(インターセプト1位)
MF16竹内(ドリブル数、アシスト数1位)
FW18鶴岡(敵陣空中戦1位)
FW9剣崎(ゴール数1位)
「得点パターンは王道。DFラインの固定が課題」
ベストオーダー全員(キーパーの友成も2得点を記録)がゴールを挙げるほど破壊力が際立つ2012年の和歌山だったが、得点パターンは極めて王道だった。抜群の身体能力を有する剣崎と、絶対的な高さを持つ鶴岡の2トップは、空中戦勝率が共に8割を超え、竹内、栗栖の両サイドからの正確なクロスを確実にゴールに繋げた。他にも西谷のドリブル突破や内村のアイデアが得点パターンに効果的なアクセントを付けていた。
一方でDFの人選には苦労し、最終ラインは度々面子が変わった。また、両サイドバックは守備に課題を残し、センターバックは裏に抜け出す動きに弱く、失点の原因になることもしばしば。最後尾からのビルドアップを含めて、基本となるメンバーは早い段階で固定したいところだ。
このスタッツからどれだけ変化するかも、今後の見所なのでよろしくです。