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今年もこの時期に

 基本的に代表の試合があろうがなかろうがノンストップで日程を消化するのがJ2である。

 それが9月以降になると、時々リーグ戦が中断する。プロアマ混合で日本一を決める唯一のカップ戦、天翔杯のためである。


 各都道府県の代表同士が戦う一回戦は、前節のリーグ戦前日(8月31日)や同日(9月1日)に行われ、和歌山県代表として戦ったアガーラ和歌山ユースは、奈良代表の社会人クラブ、高田ブロッサムスと戦いPK戦の末に敗れていた。今日、9月8日はトップチームが天翔杯の舞台に立つ。

 対戦相手は静岡県代表のクラブチームで、Jリーグ入りを目指しているフリューゲル藤枝。近年注目を集めている地域リーグ(四部相当)のクラブで、Jリーグ準加盟申請が承認積み。来季から設立されるJ3のオリジナルメンバーになることが確実視されているチームだ。元日本代表MF柳川勇平氏が代表を勤め、元日本代表クラスのベテランや海外リーグでプレーしていた外国人、さらにはレンタルで加入したJクラブの若手有望株。陣容や資金力はJ2どころかJ1のトップクラスといっていい。一回戦では三重代表の同じくJリーグ入りを目指す伊勢シーサーペンツと戦ったが、8-0の圧勝だった。今年の天翔杯の台風の目、あるいはダークホースと騒がれていて、その恩恵かNHK-BSで生中継されることになった。


「しっかしなんかしゃくだよな。ホームの俺たちじゃなくて、相手の注目で中継なんだからよ」

 紀三井寺陸上競技場、そのロッカールームで剣崎はぼやいた。

「ま、向こうの面子は、それなりに揃ってるからな。中継は前フリに藤枝の紹介あるらしいしな」

「へっ!だったら赤っ恥かかせてやるだけさ。全国あちこちでプロ相手に戦ってんだから、俺たちだってそう簡単に負けやしいねえよ」

 竹内の説明に、剣崎は奮起した。

「どーせ見掛け倒しだろ。実績がすべてなら日本代表はみんな年寄りさ。それに未だ地域で戦ってるってことは、JFL昇格の全国大会で勝ててない、要は本番にもろいんだろ。逆に言えばJで戦えなくなったやつらの掃き溜めだろ」

「・・・相変わらず強烈だな、お前」

 友成の猛毒たっぷりの皮肉に、川久保は表情を引きつらせた。友成はさらに続ける。

「レンタルで来てる若手も本気でプレーできてるかも怪しいもんだ。なにせ普段はスライムばっか相手にしているし、Jとは二つも下のリーグ。『左遷』なんて気分でプレーしてるかもな。うちにゃ丁度いい見本がいるし」

「そ、それって俺のことかよ」

 佐久間は表情を引きつらせながら友成を見るが、友成からは「あんた以外にだれがいる」という目線が帰ってくる。

「まあいいじゃねえか。要は俺たちが勝ってプロとアマの違いを改めてみせりゃいいってことだろ。いっちょやってやんぜ」

 そういって剣崎はほかの選手を引き連れてロッカールームを出た。



スタメン

GK20友成哲也

DF11佐久間翔

DF5大森優作

DF6川久保隆平

DF7桐嶋和也

MF2猪口太一

MF8栗栖将人

MF38結木千裕

MF35毛利新太郎

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


「シーズン中と遜色ない布陣だな。8番は左サイドじゃなくてボランチみたいだな」

 藤枝の澤田信吾監督は、和歌山のメンバーを確認してつぶやいた。

「しかし、ほぼベストとはありがたい。今のわれわれが通用するかどうか計れる。全力で行かせてもらいましょうか」


 互いの力量を考えれば、互角の試合もありえ、現地観戦のサポーターやテレビの向こうのサッカーファンは好勝負を期待した。


 が、結果は予想もしない結末となった。


 主審のホイッスルが鳴り響くと、藤枝の選手たちはがっくりと頭をたれ、地面に座り込んだり跪いたりした。NHKのアナウンサーも、信じられない光景を目にしているかのように、間の抜けた実況をつぶやいた。


「ここでホイッスル。J2のアガーラ和歌山、フリューゲル藤枝を返り討ち。4-1と一方的な試合となりました」


 開始早々7分、栗栖のスルーパスに反応した竹内が、ボールを受けると敵陣にドリブルで進入。ディフェンダー二人を鮮やかにかわすと、振り向きざまに左足を振りぬいて先制点を挙げる。さらに19分には剣崎はペナルティーエリアの外から豪快なロングシュートを叩き込み追加点。43分には大森がコーナーキックから3点目をヘディングで決める。後半開始から和歌山のバドマン監督は得点した三人を下げて鶴岡、王、沼井を投入。藤枝の選手も個々の技術を随時見せるが、シュートはほとんど友成にはじき出された。気落ちしたところに後半25分。佐久間からのクロスを鶴岡が折り返し、最後は王が決めて勝負あり。藤枝は終盤やけくそのパワープレーの際にオウンゴールを奪うのがやっと。自力でゴールを奪えず、ダークホースはあっけなく姿を消すことになった。


「俺たちはプロ同士が戦うリーグ戦を戦ってるんす。簡単に負けれなかったし、プロの意地を見せれたと思います」

 インタビューで剣崎は、誇らしげに語ったのだった。

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