エースの休憩中
あとでリザルトみたら群馬と栃木がホームアンドアウェーの方式が壊れてました。いろいろ矛盾ありますが、フィクションってことで御勘弁ください。
「はぁっ?!俺栃木戦ベンチ外っすかぁ?!」
中3日、アウェーで迎える31節栃木戦の前々日、バドマン監督は遠征メンバーの16人を発表。その中に主力の関原、竹内、そして剣崎の名前がなかった。それに剣崎が声を荒げたのだった。
「そんなに怒鳴ることないでしょ。パパ…いえ、監督だって好きで外した訳じゃないんだから」
「でもっ、俺は今絶好調だぜっ?特に身体も問題ねえし」
尚も食ってかかる剣崎だが、トレーナーでバドマンの娘であるリンカは、ため息をついて指摘した。
「…オーバーヘッドを決めてから動きが悪くなったのは、どこの誰かしら?」
「ぐっ…」
「あなた、ここんとこ身体どっか張ってない?腰とかふくらはぎとか。若いからって無傷な身体なんて有り得ないんだから。それに最近食欲落ちてるでしょ」
「…よ、よく見てるっすね」
黙っていた違和感を看破されては、剣崎も引き下がるしかない。
「お前もそうだが、うちの若い連中は自分のフィジカルを過信するきらいがある。人間である以上、身体は疲れてしまうし、バス移動というのは意外な程負担がかかる。こんな日取りで栃木までバスで揺られたら腰を痛めるからな」
村尾フィジカルコーチも念を押す。専門家二人の説得により、剣崎は渋々折れた。
「君のチームに対する思いは私も十二分に理解している。しかし、アガーラは君が回しているんじゃない。安心して休んでおきたまえ」
「うす。監督」
第31節スタメン
GK20友成哲也
DF32三上宗一
DF23沼井琢磨
DF6川久保隆平
DF13村主文博
MF17チョン・スンファン
MF31マルコス・ソウザ
MF19手塚幸弘
MF35毛利新太郎
FW18鶴岡智之
FW36矢神真也
ベンチ
GK40吉岡聡志
DF34米良琢磨
MF10小西直樹
MF27久岡孝介
FW46王秀民
「なんてメンバーだ。ナメられたもんだな…」
栃木の明石監督は不快感をあらわにした。ほとんどBチームと言っていいメンバーだからだ。
だがバドマン監督は、ためらいなく言い切った。
「毎回エースの手をわずらわせては、J1で戦える選手層は出来上がらないよ」
試合は和歌山の選手達の試合勘不足もあって、拮抗した展開となる。それでも韓伯助っ人コンビが持ち前の老獪さを発揮して主導権を渡さない。矢神の速さ、鶴岡の高さも活用して何度もゴールを脅かす。しかし、栃木の選手たちも粘り強いディフェンスで対抗し、なかなかゴールを割らせない。
首位相手に互角の戦いを見せる栃木を、ホームのサポーターは大きな声援で後押しする。選手達もまた、その声援を力に変えて1トップの松田を中心とした攻撃陣が反撃の圧力を強めてきた。次第に流れが変わりつつあることは一目瞭然だった。
それでいてバドマン監督は冷静、というより不動だった。普段は立ち上がってピッチ手前まで出て来て事細かい指示を与えるのに、今日に限っては座りっぱなしだった。
「君達がレギュラーと共に、常に同じ気持ちであるなら、私の指示なく自分のプレーを見せたまえ」
試合前のバドマン監督の言葉だ。つまり、自分もレギュラーを張る力があることをアピールしろ。指揮官はそう訴えたのだ。それにまず解答を示したのは、久方ぶりに試合に出た手塚だった。
咋シーズン末、所属していた福岡を戦力外となりトライアウトを受験。目に留まった和歌山からオファーを受けて移籍してきた。右サイドに固定メンバーがいない現状に殴り込みをかけたが、立場は下から数えた方が早かった。
(トライアウト経由で入ったアラサーを気長に雇うクラブなんてまずない…。結果を残せるうちにやらねえと)
得意のフェイントで止めにきた相手ディフェンダーをかわすと、ゴール前にクロスを上げる。それを鶴岡が圧倒的な高さで競り勝つと、バイタルエリアに走り込んできた矢神に落とす。若きストライカーは、ベテランのように落ち着きはらったフェイントでキーパーをかわし、冷静に先制点を決めた。
「先制点は君達の辛抱の賜物だ。後半も変わらず集中しよう!栃木はこれで終わるチームではない。守備でも松田や竹下といった攻撃のキーマンを引き続き警戒しよう!」
ハーフタイムでバドマン監督は、選手たちにかつを入れて送り出す。そして試合の主導権をここから終始握り続ける。
後半開始から和歌山は交代カードを切った。マルコスに代えて小西を投入してトップ下に配置し、ボランチをチョン一人に。よりゴールに近い位置に攻撃の起点を設け、その圧力を強めてきた。
この作戦は吉と出る。手塚からのパスを預かった小西は、相手のボランチとの鍔ぜり合いを凌ぎ矢神にラストパス。矢神のシュートはバーを叩いたが、跳ね返りを毛利が詰めて追加点を挙げた。
「くあっ!」
「なろっ!」
リードを広げられ、栃木の明石監督は守備を削って長身FW樫原を送り、反撃の体勢を整えてくるが、ベテラン川久保が何度も松田に競り勝ち、負けじと沼井も樫原をあしらう。
相手の守備が手薄になったことを受け、バドマン監督は疲れの見える矢神に代えてFW王を起用。チェイシングの圧力をかけ直す。蒸し暑い環境下、栃木の守備陣の疲労は明らか。そこに馬力抜群のストライカーが再三走り回ってはプレッシャーをかけ続ける。そのうちにセンターバックの深田がボールロストを犯す。このこぼれ球を奪った王は、ユニフォームを掴んできたもう一人のセンターバック、浅川を振り切り移籍して初のゴールを叩き込んだ。これで試合は決したのだった。
試合後の会見でバドマン監督は、誇らしげに選手を讃えた。
「3−0と一方的なスコアになってしまったが、決して栃木さんが悪かったわけではないし、特に前半は紙一重だった。今日出場した選手達が、常日頃から万全のコンディションで控え、唐突な出番に対して100%以上のパフォーマンスを披露してくれた。それについて非常に満足しております」
「すげえな。うちのクラブにゃ実力あるやつばっかだな」
栃木から遠く離れた和歌山県紀の川市。アガーラ和歌山のクラブハウスで、テレビ観戦していた剣崎はつぶやいた。
「今日出たFWはみんな得点に絡んだし、手塚さんも毛利さんもサイドで効いてたしな」
「川久保さんやヌマもよかったけど、サイドバックがよかったよな。栃木ってサイド攻撃が持ち味だからさ。サイドの梅田や桜井抑えたのは大きいよ」
一緒に観戦していた栗栖や竹内も、試合のメンバーを褒める言葉しか出てこない。それだけ今日の試合に出たメンバーの活躍は光った。
「…こりゃ負けらんねえな。代わりはいくらでもいやがるからな」
「だな」
「ああ」
三人は最後に次節への決意を固めた。




