立て続け
一応ここに、東京ヴィクトリーのメンバーを載せときます。
GK1市原拓也
DF5五島祐一
DF3サンドロ
DF34三島浩一
DF15生駒亨
MF20初田匡
MF6武藤達朗
MF32御船直行
MF14石原幸宏
FW25ニコルスキー
FW23常葉文哉
内村の虚をついたロングパスは、東京の守備陣に時間を与えなかった。そのため、ゴール前はセンターバックのサンドロと三島の二人だけ。
そこに栗栖に近い方から剣崎、竹内、そして小西が走り込んでいた。二対三。数的有利に持ち込んだ。仮に栗栖のクロスがFWの二人を追い越しても、小西がすぐに拾えるというわけだ。
(ここまで点を取りそびれたんだ。どうせなら派手に行くぜっ!)
クロスが打ち上がった瞬間、剣崎はマークにつかれたサンドロに背中を預けた。それが何を意味するか、サンドロはすぐ理解した。
(この野郎…。またオーバーヘッドを打つ気か?やらせるかっ!)
サンドロの脳裏に、剣崎の十八番が思い浮かぶ。させまいと、サンドロは圧力を強める。しかし、剣崎に迷いはなかった。視界の片隅にボールが来たのを感じると、左足で地面を踏み切って跳躍し、右足を振り上げる。どんぴしゃりのタイミングで、剣崎の右足は栗栖のボールを捉えた。
「行くぜっ!」
インパクトの瞬間、サンドロにもたれ掛かる。圧力をかけてきたサンドロを逆に利用し、つっかえの反動をボールに込めた。右足からぶっ放された弾丸に、キーパー市原は立ち尽くすだけ。その横を貫いていった。
「ぃよっしぃっ!先制だいっ!」
「ナイス剣崎っ!」
「よくやったぞっ!」
ゴール前には剣崎を中心に歓喜の輪が出来る。そしてサポーターも盛んに剣崎のチャントを合唱する。もどかしい時間帯が続いただけに、その喜びもひとしおだ。
「ただいまのゴールはっ、アガーラ和歌山っ背番号9っ、フォワード、剣崎っ龍一選手でしたぁっ!!」
スタジアムDJのアナウンスが、その興奮をいっそう高めた。
前半も残り1分というところでついに試合が動いた。東京ボールで試合は再開する。だが東京は、ここで自分達が今の順位にいる原因を露呈する。
(まだ一点差。もう一度攻撃を組み立てなおすか。いや、もうすぐ前半終わるし、一旦ボランチに戻すか)
「石原っ!3番来てるっ!」
「えっ…、あっ!」
前半アディショナルタイムは0と表示され、残り時間を頭に浮かべた石原は、ボランチへのバックパスを選択。それを内村はあっさりと掠め取る。味方のコーチングも時すでに遅かった。しかも悪いことに、内村が一気に前線へドリブルを仕掛けている間に45分を過ぎたのに、主審はこれをラストプレーと判断して笛を吹かなかった。慌てて東京のボランチ初田が激しいマッチアップを挑むが、何もかも裏目に出る。
「そうやって不測の事態にあわてふためくから、危険人物を逃すんだよ」
嘲笑を浮かべた内村は後ろを見ることなく、ヒールでバックパスを出す。そこには竹内が、まるでシュート練習でもするかのようにどフリーで構えていて、ゴールマウスにパスするように柔らかく鋭いシュートを打つ。同時に主審の笛がなった。
『私は今日ほど君たちに失望を覚えたことは無い・・・。なぜこうも同じ過ちを繰り返すのだっ!!時間を決めるのは我々ではなく主審であると何度言えば理解できるのだっ!!』
ハーフタイムのロッカールームで、クレイチコフ監督は雷を落とした。というのも、前述したように今シーズンの東京ヴィクトリーがここまで低迷している最たる要因が、前半終了間際の失点の多さ。失点数自体はリーグ5位と、堅守とまでは行かずとも低い数値ではない。しかし、その8、9割を前半40分以降に喫しており、時間帯別失点数は最下位群馬と大差ない。失点するたびに対策を講じ、メンバーのてこ入れも実施して改善に努めた指揮官の怒りが爆発するのも当然といえた。
『我々が時間に介入できる余地はない。少なくとも2点目は明らかな人災だっ!その積み重ねが今の我々なのだ。君たちがまだプロであるというのなら、それ相応の結果を見せたまえっ!!』
その後幾つかの指示を与えて、クレイチコフ監督はロッカールームを出た。強く閉めた扉の音が、指揮官の怒りを物語っていた。
「ふう、なんとか前半のうちに点取れたぜ」
「ああ。あのまま0-0だったら、試合がわかんなくなっちまうところだったな」
一方、和歌山の選手たちは一様に安堵の表情を見せていた。それが先制点を取れたことであることは言わずもがな。剣崎、竹内とともに笑顔を見せていた。そこに内村が現れていった。
「安心すんのはまだ早いぜお二人さん。試合展開から言って、前半で4点取れてもおかしくなかったんだ。もうちっと気張って点取りましょや」
「その通り」
そして、タイミングよくバドマン監督もロッカールームに現れた。
「何とか得点できたが、2-0という数字は向こうのトップ下の不出来によるところが大きい。先制点になりかねないあのシーンでつめることができていなかったし、何より嗅覚が悪い。おそらくあそこはすぐに交代するだろう。小宮にね」
小宮の名前が出たところで、選手たちに緊張感が走った。
「それ、まじっすか」
栗栖の質問に、バドマン監督は確信を持って答えた。
「先ほどまでベンチにいたのだが、私がロッカールームに向かおうとしたときには全力でアップしていた。この真夏なのに、湯気が立つほどにね」
「確かに。あいつは絶不調だけど、別に怪我をしているわけじゃない。『勝ち』だけを意識しだしたら、うちのザル守備陣で止めるのはまあ無理だな」
「悪かったな」
悪態を交えた友成のつぶやきに、園川は憮然とした。
「いずれにせよ、我々は優位を保っているが勝利したわけではない。だが今日の勝利は、昇格戦線からライバルを一人消すことにつながるだろう。この後半も集中して、最後まで戦おう」
指揮官のゲキに、選手たちは頷いた。




