熱量の差
「さぁーアガーラサポーターのみんなぁっ!大変、お待たせいたしましたっ。続きまして、あがらのホームチーム、アガーラ和歌山っ!本日のスターティングイレブン、ご紹介しましょうぉっ!!」
スタジアムDJが、サンドストームをBGMにホームチームのサポーターを煽る。アウェーチームゴール裏席にそびえ立つオーロラビジョンが、いよいよホームチームのスタメンを映し出す。それ用の映像は各クラブ趣向をこらしており、サッカー観戦の楽しみの一つといえる。
「神セーブ連発、世紀の守護神っ!背番号、20。ゴールキーパー、友成っ哲也っ!」
「電光石火の若武者っ!背番号、32。ディフェンダー、三上っ宗一っ!」
「成長止まない、紀州のヘラクレスっ!背番号、5。ディフェンダー、大森っ優作っ!」
「逆境に屈しない、熱き魂のファイターっ!背番号、15。ディフェンダー、園川っ良太っ!」
「駆け上がれっ!紀州のリーサルウェポンっ!背番号、14。ディフェンダー、関原っ慶治っ!」
「攻守に躍動する、小さな大黒柱っ!背番号、2。ミッドフィルダー、猪口っ太一っ!」
「未来への舵取り担う、王国育ちの司令塔っ!背番号、27。ミッドフィルダー、久岡っ孝介っ!」
「ハードワークが身上っ!走るファンタジスタっ!背番号、10。ミッドフィルダー、小西っ直樹っ!」
「正確無比にパスを放つ、レフティースナイパーっ!背番号、8。ミッドフィルダー、栗栖っ将人っ」
「ピッチを吹き抜ける一陣の風っ!背番号、16。フォワード、竹内っ俊也っ!」
「和歌山が、世界に誇る、人類無双のストライカーっ!背番号、9。フォワード、剣崎っ龍一ぃっ!」
スタメン
GK20友成哲也
DF32三上宗一
DF5大森優作
DF15園川良太
DF14関原慶治
MF2猪口太一
MF27久岡孝介
MF10小西直樹
MF8栗栖将人
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
スタメンの11人の後は、ベンチ入りメンバーの7人のアナウンス。その初っ端、ホームのゴール裏が歓喜を爆発させた。
「容姿端麗の不動妙王っ!背番号、1っ!ゴールキーパー、天野っ大輔っ!!」
昨年の10月に膝の十字靭帯を切った天野が、長期間のリハビリの末に今季初のベンチ入り。特に女性人気は竹内と双璧を成す存在なため、やたら黄色い声援が響いた。
「クラブとともに、歩みつづけるバンディエラっ!背番号、6。ディフェンダー、川久保っ隆平っ!」
「勝ち点3まで、フルタイムフルスロットルっ!背番号、21。ディフェンダー、長山っ集太っ!」
さらにサポーターが沸いたのが、この男のアナウンスだ。
「その男、天才につき…。背番号、3。ミッドフィルダー、内村っ宏一っ!」
「おお、内村もいんのか?」「こりゃアツいぜっ、今日のリザーブは」と、サポーターから次々とこんな声が沸いた。
「ドリブルの切れ味は、まさに名刀っ!背番号、7。ミッドフィルダー、桐嶋っ和也っ!」
「そびえ立つ、紀州の摩天楼っ!背番号、18。フォワード、鶴岡っ智之っ!」
「スピードは矢の如しっ!決定力は神の如しっ!背番号、36。フォワード、矢神っ真也っ!」
リザーブ
GK1天野大輔
DF6川久保隆平
DF21長山集太
MF3内村宏一
MF7桐嶋和也
FW18鶴岡智之
FW36矢神真也
試合開始前の雰囲気は、明らかにホームゴール裏のほうが高まっていた。これにはバドマン監督もしてやったりだ。
「天野と内村、リザーブにこの二人を入れたおかげで、サポーターの熱気を長引かせることができたな」
「相変わらず、さすがと言いますか。しかし、内村は天野の復帰もこのタイミングで良かったんすかね」
「村尾君やリンカからゴーサインが出たんだ。特に問題はあるまい」
そうしてちらっと敵将を見遣った。
「今の我々には優勝という目標がある。申し訳ないが、叩き潰させてもらいますよ。監督」
バドマンとクレイチコフは師弟関係にある。ロシアリーグ戦時代には選手と監督という間柄でプレーし、バドマンが引退後にイングランドにコーチ留学した折にも指導を受けた。監督としてのバドマンの生みの親と言っても過言ではない。春先にアウェーで対戦した時は、バドマンがクレイチコフを意識しすぎたところをつかれて敗れたが、こうしてリベンジの機会をえた。
「では諸君。キックオフだ」
不敵に笑いながら、バドマン監督はピッチに向かってつぶやいた。
「よっしゃあ、今日も派手にぶちかましてやんぜ!」
気合い十分に雄叫びを上げる剣崎。試合は立ち上がりから和歌山優勢に進んだ。それはコンディションの差というより、勢いの差だった。片や首位、片や昇格崖っぷちである。
どちらの方が悪い意味で緊張しているかは、見て明らかだった。
勢いそのままに、和歌山が先に決定機を迎える。スタメンに抜擢されたルーキーの三上が、小西との連携で右サイドを突破。一気にアタッキングサード(ピッチを三分割したときの、自陣側から見て相手ゴール前のエリア)に侵入。ゴール前にクロスを打ち上げる。それをニアサイドの竹内がスライディングで押し込む。しかし、これはポストに弾かれた。
三上はこの試合、和歌山の核弾頭として、再三右サイドから攻撃を組み立てた。
「うおぅっ」
剣崎も、東京のセンターバック・サンドロに身体を寄せられながら、強烈なシュートを放つ。そして何度もため息をつかせた。
『やはり、あの2トップは強力だな』
ベンチでクレイチコフ監督はそう呟いた。
『もともと総合的に優れていた16番はさらに進化しているし、9番は今や世界で勝負できるほど恐ろしい存在になった。なんとか、隙が出来た瞬間をしっかり捉えたいね』
その指揮官の期待に応えたのは、左サイドでプレーしている御船だった。ボール奪取力の高さとクロスの精度の成長を評価され、梅雨明けごろにボランチからコンバートされた。御船は、攻撃の起点となっている三上の隙を伺っていた。
一方の三上は、御船に対して自信をつけていた。再三彼のプレスをかわし、得意のドリブルでチャンスを作れていたからだ。
それが御船の仕掛けていた罠だと気づかずに。
「フェイントが下手なんだよっ」
はじめのうちに見抜いていたクセ−フェイントを仕掛けるときに、顔が動きと逆方向に動く−につけ込み、ボールを奪った。
三上の背後には大きなスペースが出来ていた。




