表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/102

青二才たちのラストスパート

 3月に開幕したJ2も、いよいよ残り三分の一となった。自動昇格の二枠は和歌山、大阪、神戸の三つ巴の気配濃厚。その下のプレーオフ出場権の四枠も去年涙を飲んだ千葉、京都に好調福岡、復調尾道が地固めに入りそれを新鋭鹿児島と古豪東京がかろうじて食らいついていると言った感じ。正直なところ、順位が一桁か二桁かで随分チーム状態が異なり、去年よりもやや盛り上がりに欠けた。特にJ1未経験の和歌山、尾道、鹿児島の新興三クラブへの耳目は冷ややかだった。「最後にものを言うのは経験値と基盤。新興三クラブはその点でディスアドバンテージがある」。要は青二才の貧乏人が先に脱落するというのが、多くの解説者の見解だった。

 実際、鹿児島は失速した。

 コンディション調整に苦しむこの時期、中盤や最終ラインの主力クラスに故障者が続出。エースの城島や司令塔前原に負担がかかり、二人の不振が拍車をかけた。29節は最下位独走気味の群馬をホームに迎えたが、なんと0−4の惨敗。4連敗となった。「ちょっとどうにもならんようになっとる。きっかけ一つで変わりそうなんやが…」と大久保隆盛監督はお手上げ状態だった。

 しかし、残りの二クラブは違った。まずは尾道。

 昨年同様、梅雨入りと同時に力を落としたのだが、反比例して若手選手が紫陽花の如く続々と開花したのだ。

 開幕からスタメンの地位を得た亀井がボランチとして一本立ちし、攻撃的MF茅野は切り札的存在に。そしてユース育ちのストライカー野口が新エースとして成長著しく、先輩の御野とのホットラインを開通させた。

 29節のホームゲーム、水戸を迎えた一戦はまさにその野口の一人舞台だった。

 開始早々に御野のアシストを受けて先制点を決めると、追いつかれた直後の前半終了間際に、2トップを組むベテランFW荒川の粘りを活かして勝ち越し点。そして後半には途中出場の茅野の駄目押しゴールをアシスト。惜しくもハットトリックこそ逃したが、3−1の快勝に大きく貢献した。

 全得点に絡んだ野口は「去年プレーオフに出れなかったことが悔しかったけど、あの戦いを経験して『もっと上に行きたい』『絶対に昇格したい』という思いが強くなった。去年昇格争いできたことで妙に気負わなくなってるんです。この調子で必ず昇格出来るよう、一戦必勝の思いで頑張ります」と力強く語った。



 そしてアガーラ和歌山もまた、ラストスパートに向けて気合い十分だった。

 西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場に乗り込み、プレーオフ圏内の京都との一戦。試合前、ロッカールームにて、指揮官は訓示を述べた。


「諸君。いよいよ我々の戦いは大詰めを迎えた。リーグ戦は残り14試合。ここから先は一戦の重みが違う。過ぎた後に襲い掛かる重圧も違う。昨年体験している昇格争いだが、我々は今追われる側にいることを、改めて頭の片隅に入れておいてもらいたい」

 追われる側。その言葉に、皆表情を強張らせた。だが、バドマン監督はここでパッと表情を明るくした。

「しかし、よく『追う方が楽だ。失うものはなにもない』と言うが、これはとんでもない勘違いだ。だってそうだろ。追う方はいくら勝っても追われる方が勝てば全て無駄骨になるし、負けも引き分けも許されないのだから」

 指揮官の言葉に、今度は緊張感が程よく解けた。

「我々は勝てば必ず報われる。ただシンプルに前を向いて戦おう。だから我々は今ここにいる。これまで通りに試合に臨もう」




 バドマン監督の言葉で緊張が解れた選手たちは躍動した。

「頼むぜ、剣崎!」

 右サイドハーフで先発した結木が、ゴール前にクロスを放つ。待ち構えていた剣崎は、相手DFを背負いながら飛び上がり、渾身のヘディングシュートを叩き込んだ。

「よっしゃあ、先制だいっ!」


 今やJ2の至宝とも言うべきストライカー、剣崎率いる攻撃陣を止められるクラブは存在しないといっても過言ではない。未だ日替わり状態が続く右のサイドプレーヤーも、絶対的な拠り所があればシンプルなプレーに専念できる。栗栖、関原が不動の存在感を見せる左サイドからも度々決定的なパスが飛び出し、前半半ばに関原からのクロスをファーサイドの竹内がダイレクトで押し込んだ。

 守備陣の奮闘も素晴らしかった。

 ゴール前の制空権は大森の手中にあり、地上戦も猪口、チョンといった潰し屋が躍動。どの選手も一つのプレーに迷いがない。それが最後尾に立ちはだかる守護神、友成への信頼の為せる技である。迷いのない戦いを仕掛ける和歌山に、開幕からプレーオフ圏内に居座る京都といえど成す術なし。後半はセットプレーで大森と栗栖がゴールを上げて4−0の完勝を収めた。



「実に頼もしい選手たちです。私が求める働きに十分どころか十二分、いや十三分の結果を残してくれている。私は世界一幸せな監督です」

 試合後の会見、バドマン監督は選手を褒めたたえた。そして、残り13試合への意気込みを語った。

「我々は頂上にいる。この座を守ることはいたってシンプルだ。シンプルに徹してきたからここにいられるのです。県民の皆様に必ずや最高の報告が出来るよう、頑張りたいと思います」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ