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コアサポーターの愚痴

 2013年のJ2は、いよいよ終盤戦を迎えていた。連日の猛暑日でコンディション調整に苦労するなか、アガーラ和歌山はガリバ大阪やヴォイス神戸といった強豪を抑えて首位の座を堅持していた。

 ただ、いくら勝利を重ねても、なかなか昇格ムードは高まってこなかった。むろん、追撃するクラブとの勝ち点がなかなか開かなかったこともあるが、それ以上に大きかったのが周りの無関心だった。




「っそおっ!どうすりゃあ盛り上がんだよぉ!」

 和歌山市内のとある居酒屋チェーン店。そのカウンターでジョッキ片手に酔い潰れている男がいた。アガーラ和歌山のサポーターグループ、そのリーダーのケンジである。28試合を終えて首位に立つクラブを祝い、残り14試合に向けた景気づけとして来ていた。しかし、酔いが進むに連れケンジの口からもれてきたのは、一向に伸びない客足であり、サッカーの無関心層に対する不満だった。

「こんなにチームは勝ってんのによ、高校野球だのプロ野球だのだーれも見にこねえ。一昨年みたいにボロ負け続きならわかっけどよぉ、今のアガーラ見ねえでいつ見てくれんだよぉちくしょうっ!」

「ケンジ…。気持ちは分かるが、そろそろ日付変わるぞ。明日仕事あるんだろ?」

 グループの最年長、重本がケンジをなだめるが、ケンジはさらに日曜日開催のJ2に対する不満をまくし立てた。

「らいたいJ2の日程もとち狂ってるんすよ!別にJ1J2と分ける必要性どこにあんすか?しかも夏休みの書き入れ時にガキ連れて来る親が月曜の仕事考えにゃならんからぁ…こんな不便など田舎に客来るのかって話であって…地方クラブにとってどれだけメーワクな日程かわかってねえんすよぉ!!」

 矛先は次第に日本代表のサポーターやメディアに向けられる。

「メディアもメディアで海外組を持ち上げすぎるし、サポーターも馬鹿騒ぎばっかりだぁ!てめえらがいる限り…Jリーグは…ざがえねぇよぅ…ミーハーしか応援に来ない日本代表なんざなくなっぢまぇっ!」

 その叫び声は店内に響き渡る。すると何やら近づいて来る一団がいた。全員日本代表のレプリカを着ていた。

「おいてめえよぅ、さっきから黙って聞いてりゃ随分なこと言ってんじゃねえか」

「レベルの低いJ2サポーターは黙ってな。てめえらの妬みひがみは気分が悪いんだよっ!」

 こっちもこっちで酒が入ってる。こういう人間同士のケンカは火がつくのが早い。ケンジが覚醒して立ち上がった。

「だまらっしゃい!てめえら代表戦の時は『ニッポン、ニッポン』って叫んでっけど、どうせ家帰ったらウイイレでミランとかマンUでプレーしてんだろ?試合の時だけ日本びいきになるようなミーハーはアガーラ和歌山を死ぬ気で応援している俺の足元にも及ばねえよっ!」

 ここでヒートアップするかと思われたが、ウイイレのくだりは図星らしく、日本代表サポーターはたじろぐ。畳み掛けるように、ケンジは自慢した。

「俺達のエース剣崎はてめてらのFWが束になってもかなわねえぜ?少なくとも剣崎は世界を脅かせるぜ?どーだまいったくぁ」

 それに意外にも日本代表サポーターたちは同調する。

「それは俺も思うぜ!体でけえし点とるしどんどんシュート打つし。強引に流れかえれそうだよな」

「だよなぁ!今の代表監督さ、目が節穴なんだよな?調子でない前野をいつまで使ってんだって話だ」

「剣崎ってさあ、今の日本のFWで一番世界に通じると思うんだ。なぜかっていうとだなぁ…」


 一触即発の空気から一転、FW剣崎をキーワードに意気投合するケンジと日本代表のサポーター。重本はそれをただア然と見ていた。


 翌朝、ケンジは体調不良と言うことで会社を休んだという。重本曰く、連中とともに剣崎を軸とした未来の日本代表について語り尽くし、数軒ハシゴしたらしい。


次回からまた試合始まります。

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