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フルボッコ

こんな展開はフィクションならでは、です。

 千葉戦は2−0の完封勝ち。後半戦は上々のスタートを切った。そして翌日の練習から、チームにはピリピリした空気が滲み出ていた。


「ヘイッ、こっちこっち」

「やらすかバカ!」

「プレス甘いぞ、集中しろ!」

「周り見ろっ!フリーの味方見逃すなっ!」




「なかなか激しい練習してるわね。夏なのにコンディションとか大丈夫なのかしら」

 日焼け対策を施して取材していた、Jペーパーの和歌山番浜田は、その活気に安堵と不安が同居した心境だった。


 千葉戦後、バドマン監督はこんなことを口にした。

「選手層の厚みというか、今のレギュラーたちに危機感を煽ることができたと思います。『代わりはいくらでもいる』というね。やはり初めが肝心です。このリスタートにおいても、できれば連勝したいものです」


 実際問題、首位にこそいるものの、2位ガリバー大阪との勝ち点差はわずかに1、3位神戸とも3しか開いていない。もっと言うとプレーオフ圏外の7位山形の差ですら6だ。バドマン監督が鹿児島戦後に言ったように、今シーズンのJ2は勝てるチームとそうでないチームがはっきりとしており、一つの引き分けすら命取りになりかねない。

 ましてや大阪はコンフェデ杯のために新藤、今田の二人が不在でこれである。富山、群馬、鳥取、松本とカード的に恵まれているうちに勝ち点を稼ぎたいところだ。さらに連勝してチームに慢心を除き、危機感を高めるためにベテラン中心のオーダーをくみ、選手層の厚みを自軍の選手に見せつけた。勝利したことで尚更効果はてきめんだった。




 血気盛んとなった和歌山、その破壊力は即座にアウェーでの富山戦で爆発した。



「いけぇっ、剣崎っ」

「ぃよっしゃあ!!」

 栗栖からのクロスを、剣崎はダイビングヘッドで叩き込んでゴールネットを揺らす。富山サポーターはこの日4度目の光景を見せつけられ、悲鳴を上げていた。

 まだ前半で、である。



 この試合のスタメンは、キーパーが引き続き吉岡、最終ラインの4バックは右から長山、沼井、大森、関原。久岡と猪口のダブルボランチと栗栖、小西が両サイドハーフの中盤に剣崎と竹内の2トップ。

 開始早々5分、猪口のインターセプトから栗栖、竹内と繋いで小西が先制点。13分には竹内が倒されて得たPKを久岡が決めて2点目。やや間が開いて39分、コーナーキックから大森が頭でなくて足で押し込み3点目。そして冒頭の剣崎のゴールで4点目である。


「やばいな…。この攻撃力はJ2レベルじゃ止められん。和歌山が主役かな、シーズンは」

 富山のキャプテン朝井は、立ち尽くしてぼやいた。

 試合の後半も和歌山のゴールラッシュは続く。14分に沼井がミドルシュートを叩き込んで5点目。29分、31分には竹内に代わった矢神が2得点を決めて決着。圧倒的な展開に係わらず守備陣も集中力を切らさず7−0という完勝だった。




 この猛威は、翌週乗り込んできた鳥取をも飲み込んだ。


「さてと。2週間も休んでヒヤヒヤしたぜ。やっぱここに立つべきは俺だな」

 スタメン復帰の友成が、ピッチを踏み締めながら呟いた。

「吉岡さんがあれだけやったんだ。俺が完封しないわけにゃいかねえな」



スタメン

GK20友成哲也

DF11佐久間翔

DF5大森優作

DF23沼井琢磨

DF14関原慶治

MF27久岡孝介

MF2猪口太一

MF38結木千裕

MF8栗栖将人

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


ベンチ

GK40吉岡聡志

DF21長山集太

MF4江川樹

MF7桐嶋和也

MF10小西直樹

FW18鶴岡智之

FW36矢神真也



「見てろよ監督、俺を外しちゃいけねぇってこと。がっちり教えてやんぜっ!」

 この試合、特に剣崎は張り切った。一試合欠場し、前節ではゴールを決めていたことで気分上々となっていた。怪物ストライカーが気分よくプレーできるテンションなのだから、下位クラブの守備陣が敵うはずもない。

 前半11分、結木からのアーリークロスにいきなりダイビングヘッドで飛び込んで先制点をあげると、23分には竹内が相手を引き付けて作ったスペースに潜り込み、竹内からのパスを右足で冷静に流し込んだ。


「はは。やるもんだぜ剣崎。俺も足技見せるかね」

 そういう栗栖もノリノリだった。

 37分。まずはフリーキックで見せる。距離、角度とも絶好の位置。自慢の左足から、壁を越え、さらにはキーパーの手前で急速に変化する無回転シュートを叩き込むと、43分にはコーナーキックを鮮やかな弧を描かせて直接ゴールに放り込む。前節同様のゴールラッシュでホームのサポーター6千人強を大いに沸かせた。



 剣崎と栗栖がハットトリックにリーチをかけて臨んだ後半。大卒ルーキーな二人が負けじと躍動する。後半19分、まずはコーナーキックからの混戦のこぼれ球を久岡が強烈なミドルシュート。さらには29分に左サイドを独走した関原が、そのままバイタルエリアにドリブルで仕掛けてまたもミドルシュート。

「てめえらばっか目立つなっての」と久岡は苦笑い。関原も「俺だってシュートにゃ自信あんだよ」とドヤ顔だ。

 それでもサッカーの女神はハットトリックが見たかったようだ。アディショナルタイム直前の44分。竹内に代わって入った矢神がPKを獲得。

「俺も自信あるけど…しょうがない」と渋々譲った後輩の期待に応え、意表を突くコロコロPKで栗栖が先に達成。そして試合終了直前のアディショナルタイム3分台、インターセプトからのラストワンプレー、沼井、栗栖と繋がってきた左サイドからのクロスを左足のジャンピングボレー。剣崎もハットトリックを達成し試合終了。リーグ新記録の1試合8ゴールの完封勝利を収めた。


「より多くの得点を目指したこと、大量点にも気を緩めず無失点で乗り切ったこと。この二点が評価に値する」とバドマン監督は上機嫌だったが、「今日の勝利を明日には忘れ、引き続き貪欲に勝ちを奪えるよう、選手たちに忠告しておく」と気も引き締めていた。


とりあえず富山県民と鳥取県民に謝ります。すき放題ボコってすみません。

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