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錦飾って帯締める

 剣崎が見せたオーバーヘッドシュートに、和歌山サイドの誰もが沸いたのは言わずもがな、周りに人がいない状態で打ったこともあり、鴨池陸上競技場の観衆のほとんどがざわめいた。

 ただそんな最中、当の本人はボールを抱えると、仲間の祝福もそこそこに一目散にセンターサークルに走る。味方に向かって叫んだ。


「1点じゃ足んねえっ。どうせならもう1点取っぞっ!」



 たった1分で何ができようか。しかし、意外とできるものでもある。極端な話、10秒あればチャンスは生まれるのだ。

「えぇい、気を取り直せ。残り時間で同点に追いつくぞ」

 ここへきて、城島は開き直って味方を鼓舞する。今のピッチ上の攻撃力を考えれば不可能ではない。だが、その思いを断ち切ったのは沼井のインターセプトだった。

「どーせ専門誌の俺の採点は『時間短く、評価なし』だ。生で見てる人らくらいにはインパクト残さねえとなっ!」

 沼井は奪ったボールを内村へ、さらに受けた内村もすぐさま右サイドを走る毛利に通す。ボールを受けた毛利はそのままサイドを駆け上がり、ゴールラインぎりぎり手前からクロスを上げる。

「うおぉっ!」

「やらすかっ!」

 このボールに大森と李が激しい空中戦を見せる。弱々しいヘディングシュートは、惜しくもクロスバーに弾かれたが、そのこぼれ球に真っ先に反応したのは桐嶋だった。

 桐嶋に押し込まれたボールがネットを揺らし、和歌山の選手たちの歓喜の輪が解けると同時に、試合終了のホイッスルが響いた。




「放送席、放送席。1ゴール1アシストの桐嶋選手にお越しいただきました。勝利おめでとうございます」

「あっ、ありがとうございます…」

 試合後、2点に絡んだ桐嶋は、スカパー中継のインタビューに呼ばれていた。あまりこのような場面に呼ばれることか少なく、うまく呂律が回らず、周りで見ていた選手たちはその様子を面白がっていた。

「桐嶋選手にとって、ここ鹿児島は高校生活を送った第二の故郷ですが、何か喫するものがあったんじゃないですか」「そう…ですね。まあまさか鹿児島にもJリーグのクラブがあって、そこに僕が敵として帰ってくるなんて思ってなかったんで。でも、いい具合に緊張できたんで、それが結果に、なったんだと思いました。ハイ」

 未だに緊張が解けないなかで、桐嶋は長めのコメント。言い終えた後の安堵の表情に、見ていた選手たちは笑いをこらえていた。

「では最後に、サポーターの皆さんにメッセージ、お願いします」

「昇格でちるように…頑張ります」

 締めるコメントを噛んだ瞬間、周りから笑いが吹き出し、つられて女性リポーターも吹いてしまっていた。放送席にマイクが戻る直前、桐嶋を茶化す剣崎や栗栖の姿が映し出されていた。






「非常にタフな戦いでした。その中で最後まで走りつづけた選手に、サッカーの女神がご褒美を与えたのでしょう」

 ところ変わってスタジアムの会見室。試合後の会見で、バドマン監督は選手をたたえた。

「リーグ戦の折り返しを勝利で区切りをつけることができたのは、ひとえに選手たちの成長があったからです。今の状態を維持できれば、昇格という目標が現実味を帯びるでしょう」

 前半戦の総括をしたバドマン監督に、記者から質問が出る。

「次の試合からリーグ戦は後半に入ります。より厳しい戦いが予想されますが、どのような展望を立てられていますか」

 これに対し、バドマン監督は真剣な眼差しで答えた。

「まずは自分自身との戦いになるでしょう。我々のクラブはまだ勝ちに慣れてません。この先勝ち星を積み重ねることにより、慢心や不安が選手を襲うでしょう。それに打ち克つことが肝要です。さらに21のライバルとの戦いを通し過去の例と比べて、今年のJ2は昇格を狙えるクラブとそうでないクラブとはっきり別れている。残り試合が少なくなるにつれ後者のクラブとの戦いを確実に勝ちきることが求められるでしょう。今一度、選手たちにそのことを説き、必ず優勝を果たします」



 何はともあれ、前半戦は予想以上の快進撃を見せたアガーラ和歌山。

 果たしてこのまま昇格という大願の成就はなるのか。

 W杯関係なしに戦いが続くJ2。昇格へのカウントダウンは、約一ヶ月ぶりのホームゲームから始まる。

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