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もっとも過酷なシーズンを前に

 キャンプの締めくくりに行われた紅白戦は、残り時間が20分ほどとなった。次第に足が止まる選手がちらほら見られるようになったが、それでも各選手持ち味を出そうと必死だ。

 その中で、特に新加入の選手でアピールに成功している者とそうでない選手がはっきりとしてきた。

(しかし、片山さんもすげえルーキー掘り出して来たもんだな。関原と久岡はこの試合だけに限れば、スタメンはほぼ当確だわな)

 線審をしながら、宮脇コーチは注目の大卒二人のプレーに舌を巻く。なにせBチームの攻撃シーンでは、必ずこの二人が絡んでいるからだ。

(沼井の強さは合格点だな。あの鶴岡と張り合えるんだから。結木や長山ももっと自分を出さないと…)

 主審を務める松本コーチも、新加入選手の活躍を振り返る。一方で、やはり今のチームの大黒柱は剣崎と友成であるとますます実感している。

(やっぱ化け物が軸のチームだからなぁ…。いかにアピールするかで、陣容が決まりそうだな)




「いけぇっ!」

 久岡からのキラーパスを受けた矢神が、ゴール右隅を狙って左足を振り抜く。しかし、友成の好セーブに阻まれて天を仰いだ。

「くそっ、またかよっ!」

 矢神がぼやくのも無理は無い。彼はこの紅白戦、後半40分までに実に8本のシュートを打ち、いずれも枠に飛んでいる。しかし、守護神・友成の好守に阻まれ続け、少なくとも2点損していた。

(なんでだ?なんであの人は俺のシュートが読めるんだよ)

「おいおい矢神よ、そろそろ決めてくれよ。せっかくお膳立てに徹してんだからさあ」

「あ、うっすっ!」

 挙句、久岡に冷やかされ、首をかしげながら守備に戻る。一方で、久岡も友成の好守に舌を巻いていた。

(なんてキーパーだよ。あのガキは「俺のシュート、読みやすいのか」なんていぶかしんでるけどよ。なんだろな・・・。俺のパスの時点で読まれてる気がするぜ)「・・・。味方でよかったな」

 最後は苦笑するしかできない久岡だった。

 

 試合はさらに進んで残り時間5分。ここでこの試合の特別ルールならではのゴールが生まれる。

「これ以上行かせるかよ!」

「うわっ!」

 左サイドからドリブルで中に切れ込み、強引に突破を図ろうとした桐嶋が、なんとか意地を見せようと張り切りすぎた長山に倒された。

 普通なら、直接フリーキックの場面。竹内がボールのある場所に向かう。誰もがいつものように、直接フリーキックの準備をしようとしていた。が、竹内はボールの前に立つと、素早くボールを前に蹴った。

「しまったっ!今日はフリーキックないぞっ!」

 吉岡がすぐに気づいて全員に叫んだが、一拍早く竹内のボールに結木が反応していた。「バテても、言われたことは忘れないようになっと!」

 誰もが呆気に取られる中、結木は悠々とゴールを決めた…はずだった。無人だったはずのゴールの前には、いつの間にか関原が顔を出していた。

「出し抜くには十年早いっ!」

 してやったりの表情だった結木を、思いっ切り見下しながら、関原は結木のシュートしたボールをクリアした。

「ちぇっ…この人二部の人じゃねえでしょ」

 関原の冷静さに、結木はただ脱帽するだけだった。


 結局、紅白戦はそのまま2-1で終了。同級生だらけのAチームが勝利したが、存在感を出した選手と消化不良に終わった選手がはっきり分かれた試合となった。


 終了後、バドマン監督は全選手を呼び、円陣を組ませて訓辞を言った。

「あー諸君、ご苦労だった。キャンプの締めくくりに行う紅白戦としては、及第点の出来だったと思うが、非常にアグレッシブかつクリーンなプレーが多かったことを、私は何よりも評価したい」

 笑顔で選手をたたえたバドマン監督だが、笑顔を消して表情を固めると、選手たちを引き締めるように語り始めた。

「今シーズン、我々が戦うJ2は、15年目にしてもっとも過酷な状況にある。予算規模を考えれば本来ならばJ1を戦わねばならない東京、千葉、大阪、神戸に加え北は札幌、南は熊本と日本を縦断する遠征、6位までなら可能性があるシステム上、プレーオフという助け舟に乗ろうとするクラブを入れれば、すべてのクラブが手ごわいと考えるべきだろう。そんな1年を、我々は豊かな才能と僅かに積み上げた昇格争いの経験を持ってして、J1昇格とJ2優勝という両手に花を狙うのだ。並大抵ではないし、無理難題といっても過言ではないだろう。・・・しかし、私はこのチームにはその目標を口にするに足る力を持っている。この難題を解決するのは、私を含めたアガーラ和歌山の関係者全員の決意次第だ。そのためにも、たとえ練習試合であっても集中したプレーを心がけよう。そして、シーズン終了後は、笑って再びこの円陣を組もう。これで私の話と今年のキャンプを終了する」

 バドマンが語り終えた後、選手たちの表情は自然と引き締まった。


 至上最も困難な目標を達成するべく、新生アガーラ和歌山は動き出したのである。

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